第八十話・ハイプリズン・終戦
重力のない巨大な部屋。真っ白な壁。
閉じ込められた、富樫、ダークニンフ、そして成長中のメテオ。
ララが周囲を見回して言う、「どこだここは」
富樫は哀れみの表情でララを見つめる。そんな富樫をララもまたイライラして見つめていたが、怒りをあらわにして富樫に攻撃魔法を放った。
「ここから、だせええええ!」
放たれた魔法は、富樫の目の前で消えた。まるで透明な壁があってそこに吸収されたという感じだ。はっとした表情で、さらに次々と攻撃魔法を放つララだったが、やはり魔法は次々と見えない壁に吸収され、富樫には届かない。その間にも、メテオは周囲のマナを吸収し成長を続ける。焦り始めるララ。
富樫が静かにララに告げる。
「ララ、悪いけどお前をここに置いていく。お前は別の世界線で、セファを殺した。そんなお前を、俺は元の世界に連れてはいけない。悪いな」
「ぬううう、俺はここを絶対に脱出する、そして人間とお前に復讐してやる! 必ずだ! 絶対にだ!」 ララが吐き捨てるように言った。
ララは富樫に背を向け、メテオを攻撃し始めた。
「無駄だ。メテオは最強最悪の魔法。それを回避できる魔法は、このハイプリズン以外にはないぜ」
「ぬおおおおおお!」頭を掻きむしり、絶叫するララ。
「じゃあな」、富樫の姿が部屋から消えた。
ハイプリズンから戻った富樫は平原上空に出現し落下したが、テオが再び風で優しく受け止めた。
「ありがとよ、なんだ、まだマナ残ってたのか」富樫がテオに言った。
「いいえ、風を使うのにはマナはいらないの。風の精霊に感謝してね」テオが答えた。
アレクが、テオの父、ティモ・アンデルスをヒール魔法で治療している。
「アレク、俺がやるよ」富樫がアレクの肩に手を置いて言った。
「ああ、助かる、僕もあと少ししかマナが残ってないんだ」
富樫がヒールをかけると、ティモの骨折や深かった傷がみるみる回復していく。周囲を取り巻き、不安そうに見守っていたドイツ兵達が、おお、うおお、などと声をあげた。
やがてティモは目を開き、横たわったままテオに手を伸ばして言った。
「テオ、色々すまなかったな」
その手をとり、涙をぽろぽろとこぼしながらテオは首を横に振るばかりだ。
「隊長、よかった」マンティス伍長も泣いている。
ヒール魔法を終えて立ち上がった富樫に、セファが近づいてきて声をかけた。
「ありがとう、誰だか知らないけど、助かったわ」
「俺は富樫だ、覚えとけ! ってセファ、さっき思考共有で、俺にアドバイスしてくれなかったか?」
「え? アドバイス? 知らないけど?」
「あきらめちゃだめ、とか、あなたが時間を超えてここにいる理由があるはずよ、とか」
「知らないわ。それに時間を超えてって、何のこと?」
「そ、そうか、知らないならまあいい」
アレクが、富樫の身体の異変に気付いた。
「トガシ君、その身体の光は……」
「ん?」
富樫の身体から、きらきらと金色に光る砂のようなものがこぼれ落ちている。富樫は右手を空にかざして見ながら言った。
「身体が消えていく。そうか、俺は役目を果たしたんだな。これで未来に帰れそうだ」
「そうか、もっと色々聞きたかったがしょうがないな。トガシ君、世話になったね、ありがとう」
「なあに、こっちこそ。みんな元気でな、エリスにもよろしくな」
ゆっくりと消えてゆく富樫の身体。
「そうだ、セファ」富樫はセファを見て言った。
「え?」
「がんばれよ! 未来で待ってる」
「うん、ありがと! トガシもね!」セファがまぶしく微笑んだ。
こうして役目を終え、富樫は未来へと帰された。この後ドイツとフランスは休戦条約を結び、「世界大戦」は終結を迎えた。
(続く)




