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第七十九話・四つめの異常能力

 富樫は目を閉じ、持てる三つの異常能力のうちの二つ目、「普段は眠らせているけれど、異常事態には驚異的な分析力・計算能力を発揮する頭脳」を発動させた。瞬時に富樫の脳内に、ダークニンフ、ララ・バウラー捕獲までの地図が完成した。


 その作戦は、「紫龍曳航ドラゴンフライ」でララ・バウラーのさらに上空にゲートを作ってそこに転移し、量子監獄(プリズン)でララを捕獲、素早くドラゴンフライでゲートを空中に出現させ、安全に地上に戻るというものであった



「作戦はバッチリだ! よし、いくぜ!」



第二の能力は頭脳の働きを高めるとともに、身体能力も高めてくれる。富樫は目にも止まらぬ速さで作戦を開始した。



紫龍曳航ドラゴンフライ!」


まずはドラゴンフライの魔法でゲートを開いた。その出口はララ・バウラーのさらに上空数メートルに設定した。そのゲートに走り込みながら、右手に量子監獄(プリズン) を用意。


量子監獄(プリズン) !」


さらに左手には、地上に戻るためのドラゴンフライを準備。


紫龍曳航ドラゴンフライ!」


ゲートを走り抜けると落下する感覚。その下にララ・バウラーがいるはずだった。見逃しは許されない。どこだ、ララはどこにいる、富樫は目玉をきょろきょろと高速に動かしララを探す。だが、どこにも見つからない。


「いない……」


 富樫の異常能力その一、「異常聴力」が、富樫の背後のかすかな音を捕らえた。



 キリキリ、キリリリリ


「え? まさか――」


 富樫は身体をひねって上空を見上げた。富樫のさらに数メートル上で、ララ・バウラーが長い爪をこすり合わせ、呪いの魔法を準備していた。キリリ、キリリと爪が軋んで音をたてる。そしてララのさらに上空には、白く巨大な球体が、ぎらぎらと輝きながら回転していた。セファの死のビジョンとともに見せられた、メテオの魔法だった。



「しまった! ここでメテオだったか!」



 正直富樫は、メテオのことをすっかり忘れてしまっていた。トロールをうまく撃退し、ティモ・アンデルスが真のボスではないことを見抜き、そしてララ捕獲までの作戦を瞬時に完成させた。ここまでは完璧だったのだ。いや、完璧すぎたのかもしれない、だからこそ富樫に油断が生じたのだ。富樫が作戦を思いついてから行動に移すまでの、ほんのわずかな一瞬に、偶然、ララが富樫にブレインキャプチャーをかけていたのだった。


 ララはこの偶然によって富樫の作戦を知り、すぐさま場所を移動し、最終兵器であるメテオの魔法の準備を開始した。多勢に無勢で追い詰められてはいるが、まだまだ大丈夫だろうと考えていたことをララは後悔していた。だがその後悔が富樫より少し早かっただけ、ララにとって状況は有利となった。メテオさえ発動できれば、ララによる逆転勝利となることは、ほぼ間違いない。



 だが、富樫もまだあきらめてはいない。


「このままではセファが……。どうすれば……」


能力をアップさせた頭脳を使い、ゆっくりと落下していくのを感じながら富樫は考える。


「どうする、俺。そうだ、記憶の扉」



メテオを防ぐ魔法を探して記憶の扉を開こうとした富樫は、一瞬目を閉じ、直後にかっと開いた。



「そんな魔法は無い、だと?」


メテオはダークニンフの憎しみや悲しみの感情を凝縮させた呪いにして最強最悪の魔法であり、それはホワイトニンフの魔法では防げないのだった。富樫はあきらめた。絶望の表情を浮かべ、ゆっくりと落下していく。


(だめか……、俺にはセファを救えなかった。未来を変えることも出来なかった)



そんな富樫の頭の中に、セファの声が響いた。


(あきらめちゃだめよ!)


(セファ……)


(あなたが時間を超えてここにいる理由が、何かあるはずよ。考えるの!)


(俺がここにいる理由? 時間?)


(そうよ、あなたにしかできない、あなたしか知らない何かが)


(俺しか知らない……、そうか!)


セファが考案した超量子監獄ハイプリズン、あれを使えばいいのかもしれない、と富樫は気づいたのだ。だがこの時代にはまだ発明されていない魔法であるため、必要な魔素は記憶の扉でも調べられない。


 頭上には巨大なメテオの球が大きさを増し、ぎらぎらと輝いている。それが発動されればおそらくチーム・オランジェも、ドイツ軍も全滅するだろう。


(しょうがない、やるしかない!)



 まず、富樫は落下しながらゲートを開き、白く巨大なメテオのさらに上空まで転移した。何かに導かれるかのように動く、富樫の身体と頭脳。それは幻想世界の神と住人、そして先祖のエルフ達による加護と導きによるものであった。富樫はそれらに導かれ、誰も成しえない、ありえないほどの的確さで、求める答えを導き出していく。これまで秘められていた富樫の四つ目の異常能力、「異常セレンディピティ」覚醒の瞬間であった。




富樫はうわごとのように、ぼそぼそとつぶやきながら、作業を進める。


「これまでに発見されている魔素は、光、時、熱、火、水、風、空気、木、土、金、銀、陽、陰、温、寒、冷、合、破、けんじゅう、赤、青、緑、黄、桃、紫、橙、聖、幻、霊、邪、など百種類以上。それらのすべての可能性の中から、超量子監獄ハイプリズンとなる組み合わせをたった一回の試行だけで選び取る。脳の中で、それぞれの魔素を、用意した量子ビットに割り当て、超量子監獄ハイプリズンを組み上げた時に最も安定するよう組み合わせ最適化を行う。水のたまった池から水を抜くとその底の落とし物が見つかるように、量子ビットから熱エネルギーを取り去ると、求める解が得られるはずだ」


富樫の脳が、瞬時に答えを弾き出した。


「わかったぞ! けん、光、時、幻、とうの五種類だ!」


富樫は右手を眼下のメテオに向け、その5本の指に、5つの魔素を集めた。


「出来た! やったぜ! うおおおおおおお、超量子監獄ハイプリズン!」


富樫はまだ成長しきっていないメテオと、ララ・バウラーに向けて、ハイプリズンを発動させた。


「頼む、うまくいってくれ!」


(続く)

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