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第六十四話・セミダブルベッド

「こっちよ」


エリスが富樫の手をひっぱり、自分の寝泊まりしているメイド用の部屋に案内する。日が落ち始めて足元が暗くてよく見えない。すたすたと歩いていくエリスの足取りだけが頼りだ。後ろを見ると、アレクとダミーは建物の入り口で待っているつもりのようだ。アレクは軽く微笑みながらこちらを見ている。


「あいつ、エリスのことが心配じゃないのか」


「アレクのこと? 心配なんてしないと思うわ。ここには私がブービートラップや、機関銃の罠も仕掛けてあるし」


「機関銃! 誤動作なんてすることはないんだろうな?」


「それはないけど、私をちょっとでも怒らせたら、反応してあなたをハチの巣にするかもね、くすくすくす」


「お、おい、こええよ」


「まあ、よっぽどのことをしなければ大丈夫よ、ほら、こっちよ」


エリスは廊下の突き当りの左のドアを開き、富樫を招き入れた。灯りが付いた瞬間、富樫は驚きの声をあげた。


「な、なんだこのちらかった部屋は!」


「し、失礼なこと言うと、機関銃でハチの巣にするわよ?」


「ぐうっ」


口を閉じた富樫を確認して、エリスは足の踏み場のない部屋をぴょんぴょんと器用に飛び渡って、ベッドまでたどり着いた。


「ほら、これよ!」


「お? うおお! これは! この絵は! すげえ」


富樫はエリスが差し出した絵を見て感動していた。


「想像していたよりも、ずっとすげえ。エリス、お前は絵の才能だけはあるんだな、見直した!」


「また失礼なことを! 私が一番得意なのは発明なの! さっきも見たでしょ私の傑作発明、魔法練成マシーンをね!」


「あはは、そうだったな、あれはすごい発明だ。でもこの絵もほんとすごい」


「ふふん、ありがと」


富樫はその絵を、まじまじと、惚れ惚れと見つめた。その絵のセファは、裸でベッドの上に座っていた。赤く美しいショートカットの髪が、ぎりぎり肩までかぶさっている。その胸はまるで少女のようにつるぺただが、さわやかなエロスを感じさせる。視線を下に移動すると、そのつつましい股間には……。


「っておい! なんでこんなものがここにあるんだ!」


「え? どれ?」


富樫が指さすセファの股間をを見て、エリスはくすっと笑った。


「知らなかったの? セファは両性具有なのよ」


「りょうせい、ぐゅう?」


「男性でもあって女性でもある生物っていうこと。セファの場合は、ほとんど女性だけど、男性の特徴も少し備えているっていう感じね」


「ま、まじか。。。。」



ショックのあまり、よろよろとよろける富樫。


「知らなかったのなら気持ちはわかるけど、かわいい娘よね、セファは」


「ま、まあな」苦笑する富樫。


絵から顔をあげた富樫の目に、エリスがいつも寝ている、セミダブルベッドがうつった。


「セミダブルベッド」


「うん、私は狭いのが嫌いだから、アレクにセミダブルベッドを用意してもらったのよ」



(セファがコンビニ地獄で、俺へのご褒美に用意してくれたのも、セミダブルベッドだったな。あれはセファにとって、エリスとの思い出の品だったのか。ほんと、かわいいやつだなセファは)



「はい、じゃあその絵はこの筒にいれてしまっておいて。あとは私の準備が終わるまで、外で待っててね」


「あ、ああ」


ドアをエリスが閉めると、外はもう暗くなっていて、窓の外の月明りがぼんやりと見えるだけだった。多少の不安に襲われて、富樫は右手遠方にいるはずの、アレクとダミーの姿をさがす。二人はすぐに見つかり、富樫はほっとした。しばらくして背後のドアが開き、ちっちゃな軍服に身をつつんだエリスが、リュックをしょって出てきた。


「トガシ、前線では、できるだけ私のことも守ってね。敬礼!」ぴしっと敬礼するエリス。


「あ、ああ、まかせとけ!」同じく敬礼を返す富樫。


まるで遠足にでもいくようなはしゃぎぶりで、エリスは富樫の手を握って走った。だが富樫はとてもそんな気分にはなれない。この間にも、戦っているのかもしれない、セファのことだけが心配だった。


(続く)

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