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第四十八話・アレクからの助言(大幅書き直し)

「ヨナ・カトリン新兵の戦略」というお話を大幅手直ししました。

キャラの言動がおかしかったり、テンポが悪かったりするのを修正しました。

 ヨナ・カトリン新兵の作戦はこうだった。


(1)ヨナはギリギリまで塹壕に近づいて、その腕力と技術で、百五十メートルの距離から正確に手りゅう弾を投げフランス軍の塹壕に投げ入れる。

(2)士気をそがれたフランス軍の塹壕に向けて、スナイプ、砲撃、歩兵の突入などを行い、制圧する。

(3)ヨナによる手りゅう弾での攻撃と、遠距離・近距離攻撃による支援を繰り返し、陣地を広げていく。


それを聞いたゲオルク軍曹は、うーん、と言ってしばらく黙り込んだ。テオがそこに口を挟もうとしたのを制止して、ゲオルクはヨナに言った。


「ヨナ、お前の投擲とうてきの腕は確かに超一流だと聞いたが、その戦略では敵の攻撃であっさり潰される。まず敵の砲撃が千メートルの距離から襲ってくる。六百メートルを切ると、小銃による弾幕にさらされ、三百メートルまで塹壕に近づくと機関銃による集中攻撃だ。つまりヨナ、お前は投擲の範囲に近づくことすらなく、ハチの巣にされるというわけだ」


「ううっ」


「誰か他に、ヨナの作戦に対する意見がある者はいるか?」


「はい」 テオが手を上げた。


「どうぞ」


「はい、遠距離攻撃についでですが、スナイパーライフルの射程が通常八百メートル、加えて、風や大気の力を得ることが出来れば、千メートルから千二百メートル程度まで、射程を延ばせます。そういう攻撃も考慮しておくべきです。あと、ヨナは自分の力に頼り過ぎている。グレネードランチャーを使えば、楽に三百メートルは、榴弾りゅうだんを飛ばすことが可能です」


エドが少しフォローを入れた。

「グレネードランチャーには、命中精度の問題とか、武器の耐久度の問題とかは、あるみたいだけどね」



うむ、とうなずいたゲオルクが、話をまとめる。


「大体の意見は一致したな。ヨナ自身は自分が犠牲となる方法を考えたのだろうが、投擲の名手という貴重な人材を、みすみす最前線で犬死させるようなことは、愚か者のやることだな。ヨナはチームの後方で、突撃してくる敵を正確に撃破するというような防御に回した方が良さそうだ。グレネードランチャーを持たせて、腕力とそれを使い分けてもらうという形がいいな」


ヨナが顔をあげた。彼の顔に少し明るさが戻っていた。エドとテオも、うなずいている。



 実際の戦場では、いくら正確無比の投擲の技術を持っていたとしても、敵の突撃をすべて榴弾で防ぐことなど無理だろう。しかし塹壕を守る通常の部隊の中に、ヨナが一人加わればそれは強力な援護射撃になるに違いない。単独で前線を切り開いていくにはあまりに無力なスキルではあるが、他の部隊を支援し、前線を力強く押し上げていく一助にはなり得る。それはつまり、パリへの着実な侵攻に寄与できる可能性があるということだ。そう考えてゲオルクは、ヨナの役割が明確になったことに満足した。



「よし、では今の話も踏まえて、別の戦略を考え付いた者は手を上げてくれ」


「すみません、戦略の提案ではないのですけれど――」テオが手を上げて言った。


「ん?」


「今思ったのですけど、この子、セファが、どんな魔法を使えるのかを聞いておいた方がよくはないでしょうか。もしかしたらそれが、戦略にも影響を与えるかもしれません」


「なるほど、確かにそうだな。セファとやら、お前が使える魔法を教えてくれるかな?」


「は、はい」



 セファはこれまで身に付けた魔法を、ひとつひとつ上げていった。その説明はエドがフォローした。光の糸と裁縫、ヒール魔法、幻影イリュージョン透明化プリズム薔薇紐バインドローズ硬殻シェルター精神捕縛ブレインキャプチャー、の7つである。「記憶の扉」については、説明が大変なので黙っておいた。


「なるほど……、光の糸とヒールは支援に、イリュージョンとプリズムとシェルターは防御に、バインドローズは攻撃に、ブレインキャプチャーは情報戦に使えそうだな。ただ、どのくらいの規模と強度なのかは、使ってみないとわからない、か」


「あと、あたしはマナが尽きちゃうと動けなくなっちゃうから、強力な魔法をガンガン使うと危険かも」


「ふむ……。マナの補給は食事か泉の水、か。それは精霊が届けてくれると」


ゲオルクはちらっとサファイアを見た。そこでゲオルクは、サファイアが下げているトートバックに、折りたたまれた紙切れが入っているのを発見した。


「ん? その紙切れは?」


「あ、忘れてた! アレクからエドへのオテガミ!」



サファイアはエドにトートバックの中身を差し出した。手紙を受け取ったエドは、それを開いた。


「アレク・ド・アンティークからの手紙か、エド、俺にも見せてもらえないかな」


「は、はい」エドは手紙を読み終え、ゲオルクにそれを手渡した。



アレクからの手紙を見たゲオルクは、ほう、と感心の声を上げた。


「なるほど、さすがドイツ軍が頼りとする参謀だな。この案、このまま使えそうだ。エド、みなにこれを説明してくれ。これに意見を出し合って磨きをかけていこう」


「はい!」


 叩き台が提供されたことで、議論が活発化し、あっと言う間に戦略が決まった。こうしてアレクからの助言を得たゲオルクは、魔法や思考共有という常識を超えたスキルを駆使した戦略を、なんとか初日のうちに立てることが出来たのであった。それがうまくいくかどうかは、やってみないとわからない。しかしうまくいけば、これはドイツ軍にとっての大きな前進となると、ゲオルクは確信した。


 エド達は、灯りの消された司令部事務所の床に、寝袋にくるまって横になった。セファはテオの胸に抱かれ、すやすやと寝息を立てていた。


 テオはそんなセファの寝息を聞きながら、この子と私は同じ先祖を持つ同族なのに、逆にそのことによって明日から離れ離れとなってしまう、運命とは皮肉なものだ、そう考え、哀しそうに目を閉じた。


(つづく)

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