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第三十四話・明かされたアレクの過去

 昼食の支度を終えると、ダミーは深々とお辞儀をし、厨房に引き上げていった。アレクとエリスは椅子に座り、セファとサファイアはテーブルの上に座った。食事をしながらアレクはエリスに、能力測定の結果を報告した。エリスは時々食事の手をとめ、興味深そうにアレクの話に耳を傾けた。彼の話が終わって、エリスが言った。



「そう、サファイアにそんな能力が。だったら戦地とこのお城との間の、連絡員をお願いできそうね」


「――レンラク、イン?」


「連絡員というのは、ある場所の状況を、他の場所の人に伝える役目のことよ」


「ソレナラ出来ル、ボク、レンラクイン、ヤル」


「あと、セファくんに必要な、泉の水をたまに届けてくれると助かるね」アレクが言う。


「ダイジョウブ、泉の水、トドケル!」


「――それに、できたら戦闘形態は使わないように、ね」セファもついでに注文を一つぶっ込んだ。


「ダイジョウブ、戦闘形態、ツカワナイ!」



 戦闘形態だけはちょっと心配だけど、サファイアならできそうだと全員が思った。セファの身に着けた「薔薇紐バインドローズ」とともに、二人は強力なエドの助っ人になりそうだ。


「アレク……、一つ聞いておきたいことがあるんだけど、いいかしら?」


「なんだいエリス。ホワイトニンフについての知識なら、長くなると言っておいたはずだが?」


「そう、それもあるし、なんでバインドローズとかの、エルフの魔法の名称を知ってるのか気になるの。教えてもらえないかしら」


「わかった。長くなってもいいなら話そう。と、その前に紅茶のおかわりを――」


「はい、どうぞ」


「うむ、ありがとう、では……」


 アレクは自分の過去について語り始めた。それは本当に長い長い話で、途中サファイアは居眠りを始めた。セファもうとうとし始めた頃、ようやくアレクの話は終わった。一人だけ全ての話を聞いていたエリスが、疲れ切った様子でアレクに尋ねた。


「で――、今の長い長い話のどこに、あなたがホワイトニンフやエルフの魔法について知る機会が含まれていたのかしら?」


「うん――、もう一度かいつまんで言おうか。僕は物心ついた時、奴隷商人の所有する奴隷として旅をしていた。何年、何十年という間、僕は少年の姿のまま奴隷として取引され続けた。やがてハイデルベルクにたどり着いた時、僕はある修道女シスターに買われ、育てられた。そのシスターがエルフの大ファンで、彼女の昔話と蔵書から、僕は色々な知識を得た。魔法についての半分の知識は、彼女からだね」


「そう……。で、もう半分は? わからないのはそこ――」


「もう半分はね――。僕はそのシスターの口添えで、このハイデルベルク城の時計塔の番をすることになった。その頃、人間とエルフの大戦争が起こったんだ。自分が人間と思い込んでいた僕には、無関係だと思っていたんだけどね、頭の中に声がずっと聞こえるようになった。なぜかはわからないけど、突然僕の、エルフの持つ能力の一つ、思考共有が目覚めたんだね。同時に、僕の脳に奇妙なことが起こったんだ。誰かが僕の脳に知識を書き込んでいるような感覚。すべてのエルフの知識と経験が、僕の脳に刻まれているような感覚――」


「それって、アレクがセファの持つ先祖の記憶の、格納先になっているってことかしら?」


「どうかな。そういう可能性も無くはないけど、僕はもう一つの可能性を考えていた。エルフだと入り込めない知識の図書館の扉の内側に、僕はそうと気づかれず、入り込めてしまったのではないかとね」


「知識の図書館?」


「そう――、セファくんは、図書館の扉の鍵を開け、その図書館の蔵書の一冊だけを、見ることが出来る。でも僕は、その図書館に閉じ込められた鼠であって、中の本は見放題。でも閲覧の権利を与えられたセファくんほどには、本の中身を理解は出来ないんだ。びくびくしながら慌てて盗みみて、さっと元に戻して部屋の隅に隠れる。僕はそんな風にして、シスターの本では得られなかった知識を、習得していた気がするんだ」



 図書館の例えを聞いて、今にも眠りそうだったセファが、目を輝かせた。


「じゃあ、私の頭の中の図書館と、アレクの頭の中の図書館は、同じもの?」


「――どうだろうね。伝承によるとエルフは死んだあと霊魂となり、死の館という所に向かうらしい。もしかしたらそこが、セファくんの知識の源泉なのではないかな。セファくんは、必要な時にその死の館の鍵を、先祖が与えてくれる。もし僕がセファくんと同じ場所で知識を得ているとしたら、ひょっとしたら僕はもう死んでる――、のかも?」



「縁起でもないこと言わないでよ。それでなくてもアレクは謎だらけの男なんだから、ありえそうで怖いわよ。まあ、アレクの魔法とかの知識がどこから来たかは、大体わかったわ。ホワイトニンフっていうのは、そのエルフの図書館で得た知識なのよね?」



「そう。確かある魔法使いの記憶を紐解いていて発見した気がする。ちなみにその本には、ダークニンフ、ホワイトニンフという記述があったんだけど、僕があったニンフは、セファくんが初めてだ」



「ダークニンフ?」セファが尋ねた。


「ダークニンフっていうのはね、ホワイトニンフと違って魔法で転生したものじゃなく、人間や世界に恨みを持って死んでいったエルフが転生したもの、だそうだよ。ただしあくまで理論的なものであって、エルフの数学によって導かれた、可能性だけの存在、だそうだ」



「ふうん、って、セファがとうとう眠っちゃったわね。どうしよう。起こす?」


 さっきまでうとうとしていたセファが、とうとうテーブルの上ですやすやと寝息を立て始めた。そんなセファを眩しそうに眺めたアレクは、ゆっくりと席を立ってエリスに言った。



「――いや、三日間いろいろ大変だったんだろう。少し寝かせてあげよう。いい昼寝になる。僕はちょっと軍への報告を書いてくる。セファくんたちが起きるまで、ここで見てやっていてくれ。エリスに今日の午後頼みたい仕事はそれだ。いいかな?」


「わかったわ。でも私も寝不足で、ここで寝ちゃうかも。そしたらアレクが起こしてね?」


「ああ、君も大変だったね。ありがとう、ゆっくりお休み」


 食器は少ししたらダミーが片付けてくれるだろう。僕は少しでも進めておかないといけない。セファくんが昨日の夜に見た、ハイデルベルクの夜景のさらに向こうにある未来の、実現に近づけるために――アレクはそんな決意を抱きながら、時計塔の通用門を開け、中に入った。



(続く)

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