第三十五話・共創兵站(コ・ロジスティクス)
カチャリ、という食器の鳴る音がして、セファ、サファイア、エリスは同時に目を覚ました。食後の昼寝の終了である。
「――失礼、起こしてしまったかな」 机に紅茶カップを置こうとして軽い音を立ててしまったダミーが詫びた。
「い、いいのよ、ちょうど喉が渇いてきた所だから。ありがとう」
「さ、セファ殿も。見栄えのいい小さなカップは用意できませんでしたが」
「ありがとうございます」
セファは自分用の木製の小さなカップから、スプーンですくって紅茶を味わった。
「いい香り、おいしいです」
「よかった。ミルクティーです。疲れがとれますよ」
エドは庶務が残っているからと、再び厨房に向かって歩いていった。
「ここからは時計が見えないけど、太陽の位置からすると相当眠ってたみたいね。あなたに私達の目的と、兵站について教えておかないとだったわね」
「うん――」
「昨日の夕食の時に、アレクが言ったと思うんだけど、彼はこの戦争を出来るだけ早く、出来るだけ被害が少なく終わらせることを目的としてる。そこまではいいわよね」
「うん、それと、今日の朝食の後で少しアレクから教わったわ。共存と平和を生むのは共生、それが実現して、世界から戦争を無くすのが目的だって。でも、そのためにどうするかは、これから考えるって――」
「そう、それを考えてるのが私。まず、兵站っていうのはわかるかしら?」
「ううん、全然」
「ボクモ、ワカラナイ」
「兵站っていうのはね、戦時における戦闘行為以外の活動全般、具体的にいうと、物資の調達と供給ね。それを安定して行うことが、戦争における戦略と戦術に大きな影響を及ぼすの」
「軍隊は胃袋によって行軍する(An army marches on its stomach.)、っていうものね」
「うん、兵站の多くの役割は、食料の供給ね。でもそれだけじゃない。兵站の対象となるのは、戦場で必要となる全て。弾薬、燃料、情報、交通網、輸送手段、気象の把握、備蓄力、警察力――、こういう全てを合わせて兵站っていうの。って、これを全部覚える必要はないわね。色々考えて、物資の安定供給を目指すのが兵站なの」
「う、うん――」
「ムズカシイ、ケド、ワカッタ」
「それでね、さらに私は――」
エリスは声を潜め、セファとサファイアに顔を近づけ、小声で話した。
「今、共創兵站っていうのを考えてるの。これは共創と兵站を合わせた造語。今の軍の兵站は、ほとんど軍の部隊が行ってるんだけど、これを国民全員で行うようにしたいの。平時には普通のお店や交通機関として営業してるけど、戦時下では軍のための兵站としての役割も、自然と持つようになるような仕組み。私は、そういう仕組み作りを目指しているの」
「ふうん――、それで戦争はなくなるの?」
「たぶん今よりは減ると思うわ。平時は地域のみんなが共に影響しあって豊かになって、戦争になると軍への貢献もできて仕事のやりがいも増える。そんな幸せで豊かになる仕組みを持った国家のトップが、安易に戦争を起こそうなんて思わないでしょうし、もし戦争になっても、何もしないでも国内の兵站の網は出来上がっている。こんなに心強いことはないでしょう?」
「なるほどー」
「さらに国家間でもそういう仕組みを作れば、平和はより強固なものになる。みんなが知らず知らずのうちに、戦争を放棄せざるを得ない方向に導かれていく。それが共創兵站の最終目的なの」
「いいアイディアね。でももっと具体的に、それをどうやって実現するの?」
「今進めているのは、燃料と食料と薬品と日用品を、出来るだけまとめて置けるお店を必要な軒数作ること。戦時にありえそうな戦略・戦術に応じた物資の保管場所、輸送手段を確保できているかを日頃からチェック。今はまだまだお店の数が足りてないけど、それが充実した時、ドイツは難攻不落の共創兵站で武装された要塞となる予定よ。お店が増えれば失業率も減るし、みんな暮らしやすくなる。GDPも増える。いいこと尽くめでしょ?」
「なるほど、そ、そうね。すごく具体的でびっくりしたわ」
戦争に備え、平時から国家を共創兵站で守られた要塞として設計・建築していく。それによって国力を強化し、戦争の機会を可能な限り減らしていく。そしてそれを全世界に広められれば――、確かにこれなら世界平和に一歩近づけるかもしれない。
「セファ、ボク、ワカラナイ」
「そうね、ちょっと難しかったわね。でも大丈夫。エリスの考えを実現できれば、あたしもサファイアも、泉で平和に暮らせるようになりそうよ。今はあたしを信じて」
「ワカッタ、シンジル」
今は戦争に加担することになるけれど、この戦争が終われば、世界は平和になるはず。アレクとエリスがそういう世界を実現してくれるはず――、セファはそう考え、自分の意志で、この戦争を戦っていくことをこの瞬間決意した。
(続く)




