第十六話・ニーアの気持ち
富樫はセファによるアドバイスを受けながら、ステージを次々とクリアしていった。その様子を、ダークニンフのコンビニ妖精であるニーアは、魔法の力で設置された広く寒々しい仮想空間の中の、幻想端末のモニターで眺めていた。
「むう……、なんなの……。私がこんな気持ちになるなんて、ホントにこの二人には、イライラさせられる」
ニーアはそう言って爪を噛んだ。その時、その空間の入口がすっと音もなく開き、もう一人のダークニンフのコンビニ妖精、ターラが入ってきた。
「ニーア……、こんな所で一人で観察しなくても、私の端末で一緒に見ればいいのに」
「す、すみません、この二人を見ていると、気持ちが乱れてしまって……。ターラ様に醜態を見せないようにと、ここで一人で見ておりました」
「その気持ちはわからないでもないけど、いつも冷静なあなたにしては、珍しいわね。どうしたの?」
ニーアは、ちらっとモニターに映るセファを見た。ニーアにとっては宿敵の種族であるホワイトニンフであるが、その中でもドイツ生まれであり、自分達の住むこの「幻想空間」をこの世に出現させた伝説の人であり、しかも燃えるようなオレンジの髪を持ち、容姿端麗で幻想世界でも人気のあるセファは、ニーアにとっては憧れの人であった。しかしニーア自身、そんな自分の気持ちに気付いてはおらず、ただただそんな焦燥を、ホワイトニンフに対する憎悪であると、歪んだ解釈をしてしまっていた。それは富樫とあまちゃんが、互いに惹かれあっているにも関わらず、傷つけあっていた状態と少し似ていた。
「もしかして……、あなたその人間の男に、気があるの?」
「え?」
ニーアはセファの隣の枠に映し出されている、コンビニのカウンターに立つ富樫を冷たい目で見つめた。その目の中に、めらっと赤い殺意が燃えた。
「いいえターラ様。誰がこのような薄汚い下等生物など……」
「そう……。コンビニ妖精たるもの、囚人への愛などの感情は不要。必要なのは優越感と軽蔑と嘲弄だけ。それはわかっているわよね?」
「ええ、もちろんですターラ様。この下等生物には、私がターラ様に代わって死ぬよりも辛く恥ずかしい目に合わせてご覧にいれますから」
「そう、それならよかった」
そこでニーアは、ようやく気付いた。自分の富樫への燃えるような憎悪は、セファといちゃつくこの下等生物への嫉妬ではないかということに。その瞬間、ニーアは耳まで真っ赤になった。ダークニンフにあるまじきその醜態をターラに見られまいと、思わずターラから顔をそむけた。その瞬間、ターラはすべてを理解した。
(そう……、ニーアったらセファのことを……、これは面白い展開になってきたわ)
赤面をターラに気づかれなかったかと心配しながら、高まった動悸を押さえようと必死のニーアは、こう考えていた。
(まずい……、私、本当にホワイトニンフのことなんかを……、あのセファのことなんかを……。こんな気持ちのまま、あの下等生物の試験をまともに執り行うことが出来るんだろうか。駄目だ、心配になってきた……)
(続く)




