第十五話・怒涛のミッション連続クリア
ゲットしたばかりのセミダブルベッドで、クレーマーとのバトルの疲れをゆっくりと癒した富樫は、再び「コンビニ地獄」への挑戦を開始し、順調にこなしていった。
ステージ4のお題は、「醤油付きお弁当の温め」だったが、普段よくコンビニを利用している富樫にとっては、これはサービス問題だった。お惣菜にテープなどでくっつけられている、醤油、マヨネーズ、カラシやソースなどは、はがして電子レンジに貼りつけ、温め後に再びお弁当に貼り戻すというのが、コンビニの常識だ。その光景をいつも見ていたのだった。富樫は難なくクリアし、報酬ののり弁をゲットした。
「のり弁うめえええ!」
ステージ5では、揚げ物の油の交換を行った。コンビニの揚げ物は、カウンターの裏に設置された、油を満たしたフライヤーで揚げられるのだけど、この油はお客さんの少ない時間帯に交換されている。富樫は油の汚れ具合を試験紙でチェックし、汚れた油を一斗缶に破棄して、フライヤー内を清掃し煮沸消毒。その後、新しい油を補充。これはさすがに、セファのアドバイスなしでは無理だった。富樫はヘトヘトになりながら、この難題をクリアし、報酬のコンビニチキンを手に入れた。
「コンビニチキン、うめえええ!」
ステージ6では、商品の品だしをし、ステージ7では賞味期限切れの品の廃棄を行った。賞味期限こそ切れているものの、消費期限切れには充分な余裕がある。富樫は廃棄のため取り除いた商品の中から、報酬としてあんパンと牛乳を手に入れた。
「あんパンうめえええ! って、俺さっきから食べてばっかりじゃねえか!」
「ここは仮想世界のロビーだから、いくら食べても太らないから安心して。でも、そうねえ、そろそろまた、食べ物以外の報酬にしましょうか」
ステージ8では、本と雑誌の陳列を覚えた。立ち読みをしていた客が、本を陳列しようとする富樫と軽く肩が触れて舌打ちした。
「ちっ、邪魔しやがって」男がぼそっと言った。
富樫はその客に笑顔を返し、陳列を終え、カウンターに戻って絶叫した。
「あの立ち読み野郎、うっぜえええ!」
「うん、でもね、そういう立ち読み目的のお客さんが、その後お弁当や飲み物を購入して帰っていくことも多いの。あの人もいいお客さんなのよね」
「ま、まあな。そう言えば俺も、現実世界ではコンビニで2、3時間立ち読みすることがあった。人の事は言えないな。で、報酬は?」
ステージ7の報酬は、「先輩アルバイター・あまちゃん」だった。興奮して叫ぶ富樫。
「あ、あまちゃんが報酬だと!? うおおお!」
「うん、これまでは富樫一人でいろいろ考えてもらったけど、実際のコンビニには、店長さんや、先輩の人もいるからね。これからはそういう人達も、報酬として出していくよ!」
ステージ9で富樫は、あまちゃんとともに店内およびトイレの清掃を行った。
「清掃か……、考えてみれば掃除なんて当たり前のことだけど、コンビニの店員ってそんなことまでやってるんだな。いろいろ大変だな」
そうつぶやいた富樫に、あまちゃんが言った。
「トガシ君もここで色々覚えて、現実世界に戻ったら、コンビニでバイトしてみるのもいいんじゃないかな。きっと本物のあまちゃんも喜ぶと思うよ」
「え? そ、そうかな?」
富樫は床にモップかけをしていた手を止めて、あまちゃんを見た。あまちゃんは少し微笑みながら、まっすぐな目で富樫を見つめ返した。
(この世界のあまちゃんは偽物だけど、本物の記憶や感情をコピーされているんだっけか)
「な、なあ、あまちゃん。本物のあまちゃんは、俺のことをどう思ってるのかな?」
「どうって?」
「その……、好きとか、嫌いとか」
「本物のあまちゃんが、トガシくんのことを好きか嫌いかっていうことね。別に、特に悪い印象はないよ。むしろどちらかというと好き。ううん、大好きって言ってもいいかも?」
あまちゃんのコピーが冷静に淡々と答えた。富樫が黙っていると、あまちゃんはさらに続けた。
「でもね、私と違って本物のあまちゃんは、自分の心に正直にはなれない。まじめな子だからね。あの子もホントは、トガシ君のことが大好きなんだけど、コンビニアルバイターがそんなこと考えるのは間違っているって、そう思って仕事に集中しようするの。それで緊張しすぎて失敗しちゃうの。いつも怖い目であなたを見ていたのは、それはあまちゃんがまじめだからなの。許してあげて」
(そうだったのか……。俺はあいつのこと、ホント何も理解できてなかったんだな。誤解したまま、あいつを傷つけてしまった)
そこへコンビニ妖精、セファの声が響いた。
「こら、トガシィィイイ! 勤務時間中に、あまちゃんといちゃいちゃするんじゃなあああい! あと5分で掃除を終えないと、時間切れでゲームオーバーにするよ!」
「わ、わかったよ!」
慌てて清掃を終えた富樫は、ステージ9をクリアし、その報酬として「コンビニ店長」を手に入れた。
「報酬がコンビニ店長……? あまちゃんもいるし、なんだか俺、普通にコンビニアルバイターになった気がしてきたよ……」
「うん、このコンビニ地獄っていう知育ゲームは、トガシみたいなニートの社会復帰のための教育も兼ねてるからね。さっきあまちゃんも言ってたけど、ここでバイトの仕事を覚えておけば、現実でのコンビニバイトも簡単でしょ?」
「ああ、それはそうかもな。ところで店長って、あまちゃんがバイトしてる、あのコンビニの店長か? 俺、アイツは苦手なんだよな」
「そうなの? じゃあちょうどいいわ、ステージ10では、そんな店長さんと、仲良くなってみよう! ゲームスタート!」
「はぁ?」
富樫の視界がいつものように暗転し、ステージ10のお題が表示された。
『STAGE10・コンビニ店長の愚痴を聞け!』
(はぁぁああ? 愚痴だと? 意味わかんねぇよ、何のためだよ!)
気付くと富樫は、メガネをかけた小太りで白髪交じりのコンビニ店長とともに、レジカウンター内に立っていた。隣に立ち、店内をぼうっと見つめる店長が、はあ、という深いため息をつき、富樫は暗い気持ちになった。
表情を曇らせる富樫を、セファは別室(?)から、母親のように温かい目で見守っていた。がんばってトガシ、その店長を倒せば、あたしからあなたに教えることはもうない。あとはダークニンフが担当する卒業試験を受けるだけ。神様、どうかトガシを護ってあげて。セファは目を閉じ、コンビニの神様に祈った。
(続く)




