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コンビニ転生・ニートだった俺がどうやって業務用電子レンジを使いこなせるようになったか  作者: 超プリン体
第1章 ハイテク・プリズン『電子レンジ地獄』
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第十四話・ダークニンフ、ターラとニーア

 ベッドの隅っこでずっと目を閉じ、セファは今後の方針について一人考えていた。


(業務用電子レンジの、使い方の基本は覚えたし、クレーマーの対処の基本も学んだ。あとは細々(こまごま)としたコンビニのアルバイトの基本を体験して、経験を積んでいけばいいだけだけど……)


 セファには二つ心配ごとがあった。そのうちの一つは、富樫が現実世界に戻るための「チケット」を獲得するために必要なテスト、「卒業試験」であった。その試験は厳正に判定するために、セファ以外のコンビニ妖精が担当することになっているのだけど、セファとは異なる種族出身の妖精が、担当するのが通例なのだ。


(妖精の種族はいくつかあるけど、あたしはホワイトニンフだから、たぶん試験官はダークニンフのが選ばれるはず。苦手だなぁ、ダークニンフは……)


 これまでのダークニンフとのいさかいを思い出し、眉の間にしわを寄せてぶるっと震えるセファ。そんなセファの肩に何かが触れた。はっとして目を開けると、富樫が毛布を、セファにかけようとしている所だった。


「あ、ごめん、起こしちゃったな」


「う、ううん、大丈夫、考え事してた所だったから」


 セファはオンにしてあったエッチセンサーが無反応であったことに驚いた。セファに向かって富樫が手を伸ばした瞬間、エッチセンサーが富樫の身体をスキャンし、少しでもエッチな感情があるようであれば、いきなり機関銃をぶっ放すかどうかはともかく、セファにそのことを伝えるはずであった。


(エッチセンサーが無反応? ま、まあ、それはそれで悪いことではないけど、このあたしに何のエッチな気持もいだかないなんて……)


 ちょっとむっとしたセファであったが、かけてくれた毛布が、セファを純粋に気遣ってのことだというのは、すごくうれしかった。しかしそれだけに、余計に試験のことが心配になるセファである。


(今まであたしが教育してきた囚人達は、ほんとにコンビニで迷惑をかける、クズみたいな男達ばっかりだった。だから試験でダークニンフからいじわるをされても、あたしは何とも思わなかった。でもトガシはどこか違う。もしトガシが試験で理不尽な扱いを受けてしまったら、あたしは、教育担当官として許されない行動に出てしまうかもしれない。それが心配だわ……。まぁ、あんまり心配してもしょうがないわね、時間はいくらでもあるから、きっと大丈夫だね……)



 人間と、小さな小さな妖精というサイズの違いはあるものの、セミダブルベッドの上で、ラブラブな(?)二人。そんな富樫とセファをモニタで観察している、二人の妖精の目があった。富樫の試験担当官として候補にあがっている二人、ダークニンフのコンビニ妖精である、ターラとニーアであった。ターラは机の前の椅子に座って幻想端末を操作し、ニーアはその椅子の横に立って端末の中の二人を冷酷な表情で眺めていた。


「なんなのあのホワイトニンフは! 囚人と一緒に寝るだなんて、汚らわしい! 囚人なんて、闇のロビーでは手かせ足かせをして、小さな鳥籠に押し込めて、鎖でつるして置けばいいのに! ニーア、あの人間の試験担当は、この私がやるわ。いじめていじめていじめ倒して、あの人間にもあの妖精にも、死ぬよりも辛い思いと辱めを味わわしてくれるわ!」


「ターラ様は、これまで何人も、担当した人間を廃人にしたり、ホワイトニンフを自信喪失させて辞職に追いやったりされていますから、あんなゴミムシみたいに貧弱な二匹を潰す事など、赤子の手をひねるよりも簡単なことでございましょう。でも、そこをあえて、この私に担当させていただくことは出来ないでしょうか。ターラ様のおこなってきた卒業試験から、色々学び取らせていただいたこのニーアめも、そろそろ人間とホワイトニンフをつぶしとうございますけれども、どう思われますか?」


 ターラははっとして横に立つニーアを見た。幻想端末の青白い光に不気味に照らされたニーアの顔は、目こそ全く笑ってはいないものの、その口元には人を見下すような歪んだ嘲笑が見てとれた。ターラはぞっとして少し冷静になった。


(そ、そうだわ、このも私の部下としてここに配属されて、もう数年。そろそろ一度くらい、試験担当をやらせてあげてもいい時期かもしれない)


 ニーアは、生粋のドイツ生まれであるセファやターラとは違って、日本に職を求めてやってきた妖精達の間にできた、日本生まれの日本育ちの純和風妖精であった。

ターラはそんなニーアが初めてここに配属されてきた時、「日本生まれの妖精などという半端者に、コンビニ妖精が務まるわけがない」と思ったものであったが、その予想に反して、ニーアの素質は素晴らしく、その残酷さはターラでさえも目を見張るものがあった。


「そうね。あなたにまかせてもいいかもしれないわね。お願いできるかしら?」


「はい、おまかせを」


端末のディスプレイに映るセファの寝顔を無表情に見つめながら、ニーアは思った。


(一見ただのゴミムシだけれど、なかなかおいしそうな。この私が、あなた自身が作ったそのコンビニ地獄という牢獄の中で、永遠にあなたを私のペットとして、奴隷として調教し続けてあげるわ)


ニーアの眼が、罠にとらわれた蝶を眺める蜘蛛のそれのように、赤く冷たくきらりと光った。


(続く)

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