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第5話 光族とまっしろけっけ

「昔はねぇ、あんた、光みたいにキラキラしてたんよ」


夜、母がしみじみと呟いた言葉が、妙に耳に残っていた。

そんなに昔は輝いていたのだろうか、私。

いまや実家の死語に振り回されるだけの、しがない女子高生なんだけど。


布団に潜り込みながら、ことははスマートフォンを見た。

時刻はもうすぐ深い夜。

部屋の空気が少しひんやりして、胸の奥がざわつく。

なんとなく落ち着かない。


最近、あの奇妙な異世界に飛ばされるのが、

ことはの中ですっかり恒例行事になってきた。


「今日はそろそろ来るかな」


なんて構えてしまう自分が、少しだけ悔しい。


そっと目を閉じると、

死語辞典が光り、体がふわりと宙に浮いた。


「うわっ……まぶしッ!?」


次に目を開けた瞬間、ことはは激しい光に襲われて思わず顔を覆った。

視界のすべてが、やたらと眩しい。

空も、地面も、建物も、何もかもが白一色。

白というより、光そのもの。


あまりの輝きに涙がボロボロと溢れてくる。

まぶしさで頭がクラクラして、足元の感覚も曖昧だ。


「おお……! 来てくださった! ここは光族の地です!」


光の衣をまとった案内役が、救世主を見るような目でことはを仰ぎ見ていた。

ことはは目を極限まで細めながら歩き出すが、

地面が巨大なLEDライトみたいに発光していて距離感が掴めない。


歩きづらいんだけど。


「光族は、この世界の光を正しく動かすために“高位の古代語”を必要としているのです!

ことは様、どうか……世界を導く死語をひとつ、お願いします!」


「……また死語なん? 毎回毎回、よくもまあ都合よく新しいステージが用意されるよね……っ」


涙目になりながら、母の言葉を思い出して叫んだ。


「キラキラ!!」


瞬間、光の粒子が満天の星のように舞い散った。

空が虹色に揺らめき、地面の輝きがさらに増す。


光族の民が一斉に「おおおお……!」と声を上げた。


「す、素晴らしい……! 失われた光族の基本儀術“星霊乱舞”の古代語だ……!」


案内役がハンカチを握りしめて震えている。

ことはは涙を拭いながら、脳内の引き出しを漁った。


ええい、もうこれで行く!


「ハッスル!!」


白い光が奔流のように世界を駆け抜けた。

すると、ぐったりしていた光族の民たちが一斉に顔を上げた。

疲れ切っていた者まで全身を眩しく輝かせ、突然ものすごい勢いで動き始める。

なぜか数人、頭頂部からツヤツヤの髪まで勢いよく生えてきてるんだけど。


「じょ、上位の活力古代語……! 失われた光族の生命活性術だ!」


「いや、髪までハッスルしなくていいから!」


ことははもう目が限界だった。

早く帰りたい。

最後の力で絶叫した。


「まっしろけっけ!!」


バツン、と世界の輪郭が消えた。

完全な白。

自分の手すら見えない。


「来ます……光の王が、ついに現れます……!」


白の中心から影が浮かび上がり、

光を吸い込みながら巨大な白い王となった。


マッシロ=ケッケ王、降臨。


「よくぞ我が名を呼んだ、ことはよ……」


声まで白い。

意味は分からないが白い。


王が手を掲げると、白い光の波が世界を包んだ。


「マッシロ=ケッケ・王式!!」


光の衝撃がことはを包み込んで吹き飛ばした。

痛くはなく、むしろ柔らかい。

干したての巨大な羽毛布団に叩きつけられたようだった。


「……ふぇっ!?」


跳ね起きると、そこは自分の部屋。

朝日が差し込み、布団を頭からかぶっていた。


コンコン、と母がドアを開けた。


「ちょっとことは、朝よ。起きなさい……って、あんた、寝不足? 顔がまっしろけっけよー?」


鏡を見るまでもなく、真っ白なのが分かる。

ことはは枕に顔を埋めてため息をついた。


◆


夜の空気は、少しだけ冷たかった。

窓を開けると、街灯の光がゆっくり揺れて、

その揺れが胸の奥にやわらかく染み込んでくる。


光族の地で浴びた光が、まだ体のどこかに残っている気がした。


「昔はねぇ、あんた、光みたいにキラキラしてたんよ」


母の言葉がふっと蘇る。

あの言葉を聞いたときは、

ただの昔話だと思っていた。


でも今は、

少しだけ意味が分かる気がする。


異世界で叫んだ死語たち。

キラキラ。

ハッスル。

まっしろけっけ。


全部、私の中にあった“家族の光”だったのかもしれない。


部屋の隅に置いた死語辞典が、

今日は静かに眠っている。

もう光らない。

もう呼ばれない。


でも、胸の奥がほんの少しだけあたたかい。


「ことはー、あんた、今日の顔……なんかほわんしとるよ?」


母がドアの隙間から覗いてきた。

そのズレた形容に、思わず笑ってしまう。


「母さんのせいよ」


「ええやん。ほわんは、あんたに似合うよ」


母の声は、光族の王よりずっとやさしい。


窓の外の光が、ゆっくり揺れた。


私はその光を見ながら、小さく呟いた。


「……バイビー」


その言葉が、

静かに夜の空気に溶けていった。


――完――



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