007話 ~ デリバリー・勇者と魔王のいる世界
勇者プライムのパーティーメンバーは大きく変わった。
復活できなかった者は一人だけであったが……。
魔王の“自爆”という能力は、見えない恐怖として各地に広がっていた。
死んでも蘇る。
そんな勇者パーティーの常識を、灰化という結果が覆した。
貴族の中には、子息を勇者パーティーへ送り込むことで名声を得ようとする者も多かった。
だが、その考えを持っていた者の多くは姿を消した。
灰化という現象は、それほどまでに現実的な脅威として認識され始めていた。
その最初の象徴となったのが、ナリア・カトレアだった。
――プライム新テント
「今日のデリバリー魔王は終わりです」
「たった三匹か……。これなら俺たちから行った方が早いな」
最近は待つ時間ばかりが増えていた。
「は、只今は調整中ですので……」
「わかったよ。……散歩でもしてくる」
プライムは、新しいテントを出た。
以前とは違って丘の上にあり、他のテントとは離れて立っていた。
プライムは一人、復興していく町を遠くから眺めた。
かつて戦場だったその一帯には、今は仮設の街並みが広がりつつある。
焼け跡は、まだ完全には消えていなかった。
デリバリー魔王も色々変わった。
今では三つのセキュリティを通らなければプライムの元には届かない。
それは安全のため。
そして今では、魔王もまた管理される荷物の一つになっていた。
タッ、タッ、タッ。
軽く跳ねるような足音。
子供のような声をした女の子が、プライムへと剣を振るった。
「お姉さまのカタキ!」
振り向いたプライムは、その剣を軽く指先で受け止める。
「新パーティーメンバー、リーシェ・カトレア。か」
──姉に似ず、随分と真っ直ぐだな。
《PM居場所検出窓》には、かなり前から彼女の存在が表示されていた。
それとも本気で、不意打ちになると思っていたのか?
プライムはそう思いながらも、剣を離さないままリーシェを見た。
カクさんからも、事前に話は聞いていた。
「ううう……あんたのせいで、姉妹みんなでお金を稼いでこいって……」
「ん? やっぱりそのことか。カトレア家なら、出せない金額でもないだろう」
「そ、それがお母さまがダメだって……」
「よくわからないが、面倒な家だな」
「うー……プライム様! 先に触媒ちょうだい!」
リーシェは剣を放り捨て、そのままプライムへ飛び込んだ。
もう泣いているようで、前もまともに見えていない。
プライムは軽く手を伸ばし、リーシェの頭をぽんと押さえて止めた。
泣きながら腕を振るう新人……昔の俺かよ。
「よくメンバーになれたものだな。得意技は何だ?」
「え? そうだな~私の魔法は凄いらしいんだからね」
「意味わからん。取りあえずやってみな」
「メルキオル様に、滅多に使うなと言われた技だからね。どうなっても知らないよ」
「メルじいに?」
嘘ではないだろう。
メルじいのやつ、また変なのを送り込んできたな。
「いいからやってみろ」
リーシェは、頭を掴まれているプライムの腕を逆に掴み、呪文を唱える。
「ぐるぐるしちゃえ!」
次の瞬間、プライムの視界がわずかに歪んだ。
世界が回るというより、〝重心だけがずれていく〟ような感覚。
「お、なんだか眩暈が……それに、変な風邪っぽさもあるな。これがお前の魔法か」
「そうだよ! こうやって私が回ると、もっと……きゃぁ」
リーシェの声は途中で途切れ、そのまま意識が落ちた。
その首を、背後からヴェルサスが静かに支えている。
「プライム様、反魔法は弱くても危険ですので……」
「反魔法?」
「状態を反転させる禁術です」
「禁術?」
「はい」
彼はそれだけ言うと、力加減を変えずに拘束を続けていた。
「そんなことより、お前の方が見えるかどうかの限界が危ないな」
「まだ半分のメンバーには見えていますし、プライム様に見えているうちは問題ありません」
ヴェルサスのそれは笑顔なのかどうか、プライムには自信がなかった。
「彼女は、連れて帰ります」
「そうだな、ありがとう」
暇だし、少し新しいメンバーでも見るか。
プライムが丘を下る。
そこにも仮設の住居が立ち並んでいた。
その通りの先に、遠目にはカクさんと見間違えそうな巨漢がいた。
「僕、事務処理担当なんです。プライム様には一匹たりとも危険な魔王は触れさせません」
「そ、そうか。頑張れ」
今のはエスクルか。
そして、あっちがレキット……。
箱が今にも崩れそうだな。
「箱、倒れそうだぞ?」
「いいえ、平気です――プライム様が声を掛けなければですけど……」
彼女は魔法書……に挟んである書類を見ていた。
「ま、頑張れ」
「有り難うございます」
人は見かけによらないな。
……まあ、そもそも見えない奴もいるが。
まだ、本部のようなテントの中には大勢のメンバーがいるらしい。
「見知ったやつらが少なくなったな……」
「あーしらは、覚えてくれてるっしょ?」
「姉さん、それは期待しない方がいいかもよ。へぼ勇者だし」
自分の拠点に魔王が現れた。
デリバリーされて来たようには見えない。
「さっき、あーしら。勇者と魔王を倒すなんちゃらっていう仲間になったよ。えへぇ」
「敵陣潜入、簡単でした。でも、今は仲間です」
《PM居場所検出窓》には表示はない。
……なのに、名前検索ではパーティーメンバー扱いになっている。
「ルゥ」と「レェ」
プライムは一瞬だけ視線を上げた。
そう、よく見れば魔王は、魔王らしくない。
魔王意匠に包まれた衣装ではない。
まるで人間の様な――そこにいるのはただの子供だった。
こいつらやっぱり、魔王を倒したいらしい。
つまり勇者になりたいのか? まさか……。
「シュ、シュ、シュ。また、あーしやっつけて持ってこようか?」
「姉さん、こんな場所では経験値が……」
「あ、そーだね。あの三兄弟は遠いし勇者連れて行こうよ」
「それが賛成。でも姉さん、勇者はもういないよ、逃げたね」
「じゃあ、勇者が寝ている間に、持って行く……とか?」
「姉さんそれ、誘拐だけどね。いいけど」
ルゥとレェはヒソヒソと、おでこを付け合い相談をしてた。
そして二人は、そのまま暗闇へ溶けるように消えて行った。
――プライムはテントに戻ると、セキュリティーを三重にしていた。
「どうしたんじゃ? 」
「どうしたんじゃないんだ、双子の魔王がいる!」
プライムは唾を飛ばしながら、落ち着かずにいた。
「ほう」
「ほう、じゃない。デリバリーされて来たようにも見えないし、《PM居場所検出窓》にも表示されない。それなのに名前検索ではパーティーメンバーだ」
息継ぎも忘れたように言い切る。
「……しかも、勇者になりたいとか言うし」
「ほほう」
メルじいは感心したように頷くだけだった。
その反応が、余計にプライムを落ち着かなくさせる。
「もういい! やつらのことは任せるからな! 俺は寝る!」
自分の部屋へ入ると、ろくに鎧を脱がないままベッドに入った。
……だが、眠気は一向に訪れない。
真夜中になる頃。
考えることにも疲れていた。
このテントには、プライムしか知らない抜け道がある。
一方通行の狭い道。
その出口には誰もいない。
「俺がいなくても、なんとかなるだろ」
そのあと、辺境の地では魔王がいなくなったという話が残っている。
……だが、その姿を見た者は誰もいなかった。




