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さすがリック様です!

 ぐったりとしているシンを研究室に置いて、リックと外に出た。


「……さて」


 入口から少し離れた物陰で、リックが口を開いた。


「殿下が子どもの姿になっている件について、詳しく聞こうか」

「な、なんのことだか……」

「僕、殿下があれより小さいころから一緒にいるんだけど」


 甘いマスクと噂のリックだけど、その目は一切笑っていなかった。怖い。


(やっぱりバレてるじゃないですかあああああ)


 ぴくぴくと頬が痙攣する。

 いや、そもそもリック相手に隠し通すなんて不可能だったのだ。


 シンクリッドとリックは歳も同じで、幼い頃から兄弟のように育った関係だ。もし薬によって小さくなった姿が昔のままなら、彼が気付かない道理はない。


「あっ、私、やらなければいけないことを思い出しました! 殿下とお食事をしないと……!」

「逃がすとでも?」

「ごめんなさい」


 反射的に謝る。

 ぶっきらぼうなシンクリッドとは対照的に、リックは基本的に物腰が柔らかい。しかし、その内に秘める感情は、リックのほうが恐ろしい。


(つまり性悪……ではなく、騎士としての冷酷さも持ち合わせていると申しますか)


 心の声も聴かれているような気がして、言い直す。

 リックの目つきが一層鋭くなったような……。


「話してもらえるよね」


 リックは有無を言わさぬ迫力を纏って、そう言った。


「は、はいぃ……」


 目じりに涙を浮かべながら、観念する。


「実は、誤って殿下にお薬を飲ませてしまいまして……」

「薬?」

「はい。若返りの妙薬……の試作品を」

「へえ……だから子どもの身体になってるわけだ。……え? すごくない?」


 リックは少し遅れて、目を見開いた。


 若さを保つことは、古今東西の権力者が常に求め、研究されてきた。


 少し肌が綺麗になる程度の薬でもこぞって買い集めるのに、それが肉体を本当に若返らせる薬ともなれば、その価値は計り知れない。


「でも、偶然できただけなので再現できるかというと……」

「もし製法を確立できたら、大発明どころのレベルじゃないよ。歴史に残る。……もしかしたらそれは、君を奪い合うための大戦争として、かもしれないけど」

「ひぇっ」


 彼の言葉に青ざめる。


 たしかに、作れたらすごいよね〜と思いながら開発していたけど、そこまでの影響力を持つとは……。


「わ、私は平穏に研究を続けていきたいだけなのですけれど……」

「世界がそれを許さないだろうね」

「そんなぁ……」


 父も兄もそうだけど、開発した薬で何かを成し遂げたい、みたいな気持ちはさほどない。


 もちろん作った薬で誰かが助かるのなら素晴らしいことだと思うし、病気で苦しんでいる人を見れば助けたいと思う。


 しかし、本質はただの研究好きなのだ。


「あの、リック様。できれば内緒にしていただけると……」

「ははっ。大方、隠し通せとでも言われたんだろう? 王太子としては大失態だからね。第二王子よりも年下になっちゃったわけだし」

「よくお分かりで……」


 全て見透かされている。さきほどから冷や汗が止まらない。


 どうしよう、どんどん状況が悪化している気がする。


「僕はシンクリッド殿下の騎士だからね。不利益になるようなことはしないよ」

「ということは……!」

「うん、もちろん協力するよ。あちこち根回しが必要だしね」

「リック様……!!」


 両目に涙が浮かぶ。

 心の中で性悪とか言ってごめんなさい。こんなに良い人だったなんて。


「ありがとうございます!」


 たしかに、隠し通すといってもただ隠れていればいいというものではない。


 いきなり第一王子が失踪すれば、大騒ぎになる。

 誰か、根回しをする人間が必要だ。


 シンクリッドはあの姿だし、メルティも政治には疎い。二人だけでは、すぐに問題になっていただろう。


 その点、リックなら万全だ。


「僕なら専属騎士の立場もあって、殿下の委任状があれば短期間なら殿下の代わりができる。殿下は辺境の視察に行っているとでも言えば、しばらく時間を稼げると思うよ」

「至れり尽くせり……っ」


 なにを考えているのかわからない底知れなさから苦手としていたけど、認識を改めねばなるまい。


 ガーターリック・バーン。有能な上に優しい人。


「では、殿下にも報告してきます!」

「ああ、ダメだよ。殿下には、僕が気づいていることは内緒」

「へ……? なぜですか?」

「とっくにバレてるのに欺けていると思い込んで子どものフリをする殿下……面白くない?」


 リックはにやりと口元を歪めて、そう言った。


 前言撤回。やっぱり性格悪い。


 しかし、先ほどのシンクリッドの姿を思い出して……悔しいけれど、同意してしまった。


「ぜっったい可愛いです!!」

「くくく、だよね。じゃあ、よろしくね」

「はい!!」


 リックと硬い握手を交わした。


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