その3
紆余曲折あり、サブクエスト消化など忙しない日々を送ってきたが、やっと魔王領との境界線までたどり着いた俺たち。
魔のオーラがビシバシと伝わってくる。
シスタも若干不安そうだ。
全身ガクガク震えている。
「トイレ無いですかね?」
だからあれほど道の駅に寄るか聞いたのに。
ここから先はアイテムの補充も運任せだ。
ガソリンはある程度タンクに入れてきた。
このために危険物うんたらの資格をとっておいた甲斐があったぜ。
暗雲立ち込める魔王領に俺たちは侵入するのであった。
「来たか……」
もはや兵士一人も見当たらぬ城塞に少年は一人たたずんでいた。
風を感じながらどこか遠くを見つめている。
彼は一カ月ほど前からここにいた。
上司の命令で勇者を待ち伏せしろと言われてからずっとここにいたのだ。
最初はウキウキ相手を待っていたのだが、三日、一週間、半月と待てど待てども来なかった。
明日は来るかな、明後日なら……。
そんなふうに花びらをちぎっては占っていた日々を送っていたのだ。
少年は歓喜に震えていた。
「さぁ……戦争を始めようじゃないか」
ニヤリと、口角を上げてそうつぶやいた。
俺たちを乗せたガレリアが辿りついたのはビッグキャッスル城塞。
かつては王国の防衛線として機能していたのだが、すっかりさびれてしまっている。
魔物が闊歩する危険地帯になっていた。
「でやぁ!」
「ホーリーブレード!」
「ギャァァァ!?」
絶えず現れる魔物を一掃する俺たち。
どうやらサブクエのしすぎでレベルが上がりすぎたのかあんまり苦戦しない。
「なんか行ける気がする」
シスタも先ほどまでの不安な表情はどこへやら、明るさが戻っていた。
俺もまさかたった二人でここまでやれるとは思わなかった。
この調子ならホントにいけるか魔王討伐。
「否―――」
「ッ!」
キィン! と鉄と鉄が打ち合う音が響く。
俺は寒気を感じ、とっさに剣を抜いたのだった。
「ほう……防いだか」
「な、敵襲!?」
シスタも一瞬遅れて反応する。
俺は後ろにジャンプして刺客と距離を取る。
「何者だ!」
「消え行く者に名乗る名前は無い」
俺好みの答えだ……。
「あの人……どこかで……」
「? 知っているのかシスタ?」
「うーんどこかで見たような気がするんですけど……」
シスタは何かが引っかかるのか首をひねって考え込んでいる。
戦いに集中してくれ。
「ハッ―――」
すると目の前の刺客の姿が消えた。
一体どこに……。
「後ろだ」
「があ!?」
気づいた時には真後ろにいた。
俺はダメージを負ってしまい、前に倒れこむ。
かなりレベルを上げていたはずだが、こいつは強い。
「今、回復を……!」
「させるか!」
「キャア!?」
ヒーラーのシスタではあの速さに反応できない。
なんとか杖で防御したが、ふっ飛ばされていく。
「く、シスタ!」
俺は彼女に駆け寄り、抱え起こす。
「おっさん……私……守るって……」
言ったっけそんなこと。
「気をしっかり、傷はあっっっさいぞ!!」
「ヒール!」
彼女は自分で傷を治した。
サスガダァ……。
「ほう、まだ王国にそんなヒーラーがいたのか」
「何……?」
「しばらく勇者が来なかったのでな、狩りつくしたのかと思っていたぞ」
「何ですって……!」
なんか剣をぶんぶん振り回しながら物騒なこと言いだした。
つまりこれまで旅だった勇者はこいつに倒されたということか。
「先代の無念を晴らす!!!」
俺は怒っていた。
あいつがそんなことをしなければ俺がニートをやめることはなかったからだ。
「おっさん……」
違うんだシスタ。
そんな崇高なものを見る目で俺を見ないでくれ。
「無双スラッシュ!」
「見切った!」
「なに!?」
仕掛けてきた奴の技を捌く。
確かにアイツの身体能力は脅威だ。
けれど技のパターンはそう多くは無かった。
「シスタ! 補助魔法を!」
「分かりました! アクセラレーション!」
シスタの魔法によって、俺の動きが加速する。
消費の激しい魔法なので何度もは使えない。
ここで一気に決めたいところだ。
「ぐっ……俺が中年に負ける……?」
俺の猛攻を凌ぐので精いっぱいなのか、徐々に焦りの表情を浮かべる刺客。
次で決める!
「ユニゾンアタックだ!」
「了解! ピコハンマー!」
「とらきばやぶり斬!」
シスタの攻撃魔法と、俺の剣技が合わさり最強に見える。
力と技が結びつき、大いなる火力を呼ぶ。
「「ピコは? 斬ッ!!!」」
「ぐわぁぁぁぁ!?」
大ダメージと化した一撃。
刺客はそれを受け、膝をついた。
「くそ……」
恨めし気に俺を地べたから睨みつけてくる。
なんと滑稽なのだろうか。
「くっ、このヒネクレ流剣術が負けるなんて……」
「あっ! 思い出しました! コイツ何代か前の勇者ですよ!」
「何だって!? それは本当かい?」
「……そうだ。俺の名前はヒネ・クレト。ヒネクレ流剣術76代目師範だ」
大したことなかったよその剣術。
道場畳んだ方がいいよ。
「なんで勇者を襲うなんてことを……」
「言っても分からないさ……今のお前たちには、な」
なんか意味ありげなこと言ってる。
何か知らんがコイツの顔見てると腹立ってきた。
もう一発くらいなぐっておこうかな。
「……行きましょうおっさん」
「シスタ」
拳を構えた俺を制するように前に立つシスタ。
そうだよな。
死体に鞭打つ真似は僧侶さん的には認められないよな。
「トイレもれそうなんで」
「ああ……」
どうやら俺の勘違いのようだ。
「俺以外にも寝返った勇者はいるぞ! そいつらは俺よりもつよ……ってもう聞こえてない?」
少年の声は途中まで聞き取れたが、尿意をもよおした彼女に急かされて最後の方はよくわからなかった。
シスタはトイレにぎりぎり間に合った。
泊まるところが無いため、必然的にキャンプをするはめになった。
どことなく虚ろな目をしていた彼女はフラフラと折りたたみ式の椅子に座った。
暗闇の中、パチパチと焚き火の音だけが響いている。
「おっさんどうもな」
皮肉を言ってくるクソガキ。
ウッキ―ッ! 今年は何年だぁ!?
俺の怒りのボルテージは頂点に達しそうだった。
「聞けて良かった(小声)」
だから俺も精一杯の皮肉を絞り出した。
「私、おっさんのこと好きだわ!」
椅子から立ち上がり、満面の笑みを浮かべながらそう彼女は言った。
こんなにイライラ100%の「好き」があるとは知らなかったな。
世間は広いや。
「クレトがやられたようだな」
「いえ、ここまでは計算通りでございます」
「だろうな」
魔王城の玉座の間、そこではいつものように魔王と副官がなんか話をしていた。
「次は僕の番ですかね」
暗闇から一人の少年が現れた。
年はこの前の少年と同じくらいか、やや幼さを感じさせる顔だちだった。
「お前か……ふむ、期待している」
「お任せを」
魔王に対し一礼をして、再び暗闇に消えていった。
「ご安心を。きゃつは出来る男です」
「わかっている」
玉座に肘をつき、気だるそうに副官を見ている魔王。
「それにしても……」
「ああ……」
魔王城の外は毎日のように雷が落ちていた。
ビシャーンゴロゴロと、絶えず轟音が鳴り響く。
「建てる場所間違えたかな……」
「どうりで土地代安いわけですね……」
どこか不安そうな顔でお互いため息をついていた。




