その2
「ん……何か音が聞こえたような」
俺は2階を探索していたがどうやら鍵がかかった部屋が多いので一階へ戻ってきていた。
ぼっちゃんはどこへ行ったのか、ばったり出くわすことがなかった。
さて、一階のダイニングルームへの扉の反対にある扉、その先へ進んでいく。
「ワンワン!」
何やら首が二つ付いたワンちゃん、いや、ゾンビ犬ともいうべきか。
そんな感じの敵がいたのでハンドガンで殲滅する。
さっきからこのようにゾンビどもを倒してきたので弾の消費が激しいのだが、何故かこの洋館には弾薬の類が豊富にあった。
食料はめったにない癖にこういうところだけ充実しているとは、どんな人が住んでいたのやら。
こうなることを想定していたんだろうか。
とりあえず扉があったので開けてみる。
中は普通の部屋だった。
引き出しが付いた机と椅子、あとはベッドと時計ぐらいしかなかった。
とりあえず食料が無いか調べてみる。
机の上には色あせて古びた写真があった。
そこには家族だろうか、おじいさんと若い女性、中年のおじさん、おばさん。小さな少年、少女と一家の集合写真といったところだった。
この家の住人だろうか。
しかし、ゾンビばかりで人っ子一人見当たらない。
やはり本来の住人は逃げ出した後なのだろうか。
ゾンビになってて知らぬうちにやっちゃってた可能性は考えないようにしよう。
さっと考えを振り払い、引き出しを開ける。
そこには何かの鍵があった。
「2階、のかな?」
俺はそれを懐にしまい、部屋を後にする。
その時だった。
「ギャギャギャ!」
動物のような、甲高い叫びと共に何かが突撃してきた。
「がぁ!?」
俺は数メートル吹き飛ばされる。
何があったのか体勢を立て直そうとしてぶつかってきたものの正体を確認する。
そこには動物とは言い難く、かといって人間でもないグロテスクな怪物がいた。
「モンスター!?」
俺は銃を構える。
「この……!?」
が、一瞬早く怪物が腕を触手のように伸ばしてきた。
その攻撃によって持っていた銃を落としてしまう。
「ギャァ!」
万事休すか―――。
「しゃがんで!」
その声で咄嗟に反応する。
俺は頭を抱えて姿勢を低くした。
バンバンと発砲音が聞こえる。
さらにもう一発!と、トドメに怪物の頭にヒット。
血をブシャブシャ流しながら倒れ行く。
あ、危なかった……。
振り返るとそこには制服に武装を施した格好をした女性がいた。
「ここってモンスターハウスか何かなの?」
「た、助かりました……。あなたは?」
「私は警察官よ。名はケイ・サッカン」
「おっさんです。……玄関には鍵がかかっていたんですけど、どうやって中へ?」
「ああ、ガレージから入ったのよ。丁度館へつながっていて」
ガレージ……そんなのあったのか。
逃げることに必死で外観をちょっとしか見てなかった。
「それよりあなたはこの館の関係者かしら?」
「違います、まぁ不法侵入だと言われれば否定できませんが」
「非常時だものね、とやかくは言わないわ」
さすがにゾンビで大変な中、犯罪行為については多めに見てくれるそうだ。
「あなた一人?他の生存者はいるの?」
「はい、ぼっちゃんっていう銃器店の青年がいます。手分けして食料になりそうなものを探してまして」
「そう」
「それよりも警察の方なんですよね?もしかして救助に来てくれたんですか?」
「残念だけどそうじゃないの。この館に用があってね」
「この洋館に?」
警察官一人が何の用なのだろうか。
確かにゾンビが多かったり怪物が出たりただの洋館と言い難いが。
「まあ、一般人は気にしなくていいわ。死にたくなかったら安全な場所で待機してなさい」
「この館に安全な場所なんてありませんよ。まさにモンスターハウスですから」
「そんなふうに言えるなら大丈夫そうね。わかったわ、ついて来て」
頼もしいかぎりだった。
警察官となれば一般人の俺と比べるまでもなく戦闘力があるはずだ。
とりあえずぼっちゃんと合流しよう。
そう思いながら俺は彼女の後ろをついて行くのであった。
一方その頃―――。
おお、神よ。
どうしたらこんなくそったれな展開を思いつくもんだ。
ゾンビが街にあふれて、挙句の果てにはへんぴな洋館で怪物退治とはな。
さっき出会った中年ハゲは役に立たなさそうだし、これからどうなることやら。
二手に分かれて食料を探すことになったが、どうやらろくなものが無い。
弾薬の類はあちらこちらに落ちているが。
なんにせよ食べるものが無いと生きてはいけない。
こんな山奥の大きな館だ。非常食ぐらいないとおかしい。
俺は一階の左エリアを探索中だ。
ダイニングルームはもう何もないし、部屋をあらかた探してみたがどこのかもわからない鍵と模様の付いたメダルぐらいしかなかった。
しかし、どこから現れるのかゾンビだけは多い。
まあ、ストレス発散にはちょうど良かったが。
だが、いけねぇのはあの怪物だ。
ありゃ、やべぇ。
どう見ても自然に生まれたようには見えない。
きな臭くなってきやがったな……。
「まったく泣けるぜ」
俺はタバコに火を付け、一服する。
いつこれが味わえなくなるか分からないからな。
いつもよりハイペースに減っていく箱の中身を見つめ、これからのことに不安を覚えるのであった。
そして場面は戻り―――。
「ゾンビの数は?」
「3体、いや4体いるわね」
あれから俺たちは二階へとやってきていた。
右エリアの扉に先ほど手に入れた鍵が合ったのだ。
だが、一階に漏れずここもゾンビでいっぱいだ。
すっかり慣れてしまったが、俺は一般人なんだが。
ゾンビの数を確認し、二人で同時に飛び出す。
ゾンビがこちらに気付く前に仕留める。
俺も結構な弾数を消費してきたので、狙いが徐々に正確になっていった。
「やるわね……おっさん職業は?」
「ニートですが」
「あ……」
何を言っていいやら、困った表情になるケイさん。
こういう時にからかわれるのも嫌だが、気を使われるのも嫌だった。
それから沈黙が続いた。
「ケイさんはどうして警察官に?」
「藪から棒ね」
「気にはなるでしょう?そうやって若いうちから危険に飛び込むなんてこともすれば」
「ちょっとくさいけど正義感ってやつよ。上司には煙たがれるけどね」
意識高い系はどこでも厄介者あつかいされるんだろうか。
社会経験のない俺には分かりようもないが。
「警察官になったのも犯罪者が許せないから……ってわけでもないんだけれど、助けを求めている人がいるのに、それに気が付けない人もいるのよ。なら、私が自分からそういう人たちを何とかしてあげたいと思ったの」
「立派ですね」
「別に……単に自分がするべきと思ったことをやってるだけ」
そうやって自分を語る彼女の顔を俺はまぶしくて直視できなかった。
20年間ニートとして親に迷惑をかけまくってきた俺とは何もかもが違った。
こういう人が未来をつくっていくんだろうな。
「あなたはどうなの?」
「ただのニートに思想があるとでも?」
「過去じゃなくて未来のことよ。人は変わることができる。いつだってね」
「それができるほど若くはないよ」
「必要なのは若さではないわ。きっかけさえあれば人は誰かになれる」
「若い君に言われてもな」
「25年もあれば世の中がどういうものか分かってくるわ」
「……そういうもんかね」
まあ、働いている時点で俺より偉いわけで。
それでも簡単に認めたくないんだ。
まだ俺にもプライドというものがあったのが驚きだ。
「しゃべりすぎたわ」
「アァ……」
「ぁァ―――」
気が付けば前方からゾンビの群れがやってきていた。
「やれやれ、血を見るのは好きじゃないんだが」
「そうね、それには同感よ」
俺たちは急いで弾を込め直す。
そして銃弾の雨あられを降らせるのであった。




