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母さんと飛行訓練をしたり、魔物狩りの練習をしたり、なんやかんやで三年くらいが経過した。
母さんはスパルタモードに入ると怖いけど、それ以外は基本的に優しい。
ドラゴンという生物が長寿なせいか、それとも俺が長く生きたせいかあっと言う間の時間だった。
クロもなんとか恐怖を克服して飛べるようになったみたいだ。
あと、俺もクロも物理戦闘のみで狩りをやらされていた。
俺は嫌だったが黒は案外すぐに順応していた。
しかも、結構乗り気で俺と倒した数を競うゲームをよく持ちかけてきたものだ。
……ま、良いんだけどさ。
母さんは時折住処にしている洞窟をあける。
虎視眈々と、この世界を侵略しようと企んでいる異形の存在を叩くためだ。
そして今朝のことである。
母さんは俺とクロに向かって言った。
「そろそろ十分ね。あなたたちの名前を付けて貰いにお父さんの所に行きましょうか?」
そう言えばそんな話が大分前にあった気がする。
と、いうか名前ってもっと早くつけて貰える物じゃないの?
俺とクロも産まれたときと変わらずちっこいままだし、やっぱりドラゴンは時間の感覚がずれているんじゃないだろうか?
母さんの背に乗せられて向かったのは暮らしている森から遠く離れた場所。
前に飛行訓練をしたよりもずっと遠くだ。
岩ばかりの痩せた土地。
大地はひび割れ、まばらに生えている木はひょろひょろとして枯れ枝のようだ。
巨大な山がそこにはあった。
山の頂上は暗雲に覆われていて確認することが叶わない。
暗雲はバチバチと雷光を放ち続けている。
暗雲からは時々雷が落ちて地上の木々を焼いている。
……なるほど、凄い場所だな。
母さんは躊躇うこと無く暗雲へと突っ込んでいく。
バチバチと電流が俺達に向かって伸びてくるが、俺達に届く前に電流が凍りついてそのまま砕けていく。俺には理解できないが、恐らく母さんが何かやったのだろう。
しかし、電気を凍らすって……流石氷の理を支配しているだけはあるな。
暗雲を抜けると母さんは山の斜面に沿うように上昇していく。
どうでも良いけど、この世界のドラゴンは高いところが好きなのだろうか?
山頂までやってくると広く平らな場所に出た。
その真ん中で母さんと同じくらいの大きさの巨大な黒龍が眠っている。
寝姿だというのに威風堂々。
やはりこれが俺達の父さんなのだろうか?
山頂上空には小さいドラゴン(母さん達に比べる小さいだけで人間より遙かに大きい)が飛び交っている。そしてそのうちの何体かが山頂へと降りてくる。
どうやら巨大黒龍と同じく黒い色をしているようだ。
「姐さん! お久しぶりです!」
黒いドラゴンたちが綺麗に整列して母さんにあいさつした。
「ヴェル君はまた寝てるのね。いつも寝てばかりだけど、あんなに寝ていて飽きないのかしらね。とにかく話にならないから起こしてきて頂戴」
母さんにそう言われて黒いドラゴンたちが巨大龍に向かって突撃していく。
が、巨大な黒龍がうるさそうに尻尾を振るったことで呆気なく打ち落とされてしまう。
這う這うの体で戻ってきた黒いドラゴンたちが母さんに言った。
「無理です!」
「仕方ないわね」
母さんはいまだ眠り続ける黒龍の元までやっていくと、容赦なくゲンコツを振り降ろした。
「……いだっ! なんだ!? 敵襲か!?」
巨大な黒龍が慌てて飛び起きた。
確かに物理であれだけの衝撃を与えられるのは母さんくらいだもんな。驚くのも無理はないか。
「……なんだ。我が妻フィンクーザでは無いか。森の領域を守護しているはずのお前が何故ここにいる?」
「あなたと私の子が生まれたから見せに来たのよ。ほら、こちらに来なさい」
俺は母さんが手招きするのでそちらへと向かった。
クロも不承不承といった様子だが、一応は従うみたいだ。
「……ほう、お前達が我の子か、ほう、もっとよく顔を見せろ」
「そこでね。お願いがあるのよ。この子達の名前をあなたに付けて貰おうと思って」
「了解した。だが、そっちのお前によく煮た白いのはお前が名前を付けろ。黒いのには俺が名前をつける。実は名前は考えてあってな。お前の名前はヴェルフィスだ」
お、なんかクロが格好良さそうな名前を貰ったぞ。
顔を見る限りまんざらでもなさそうだ。
しかし、母さんは不満そうだ。
「それじゃ、ヴェル君と呼び方が被るじゃない」
「……む。そうか。我の名をとってつけた名前だったのだがな。ならばもう一つ考えてあったトンガリマックスというのはどうだろうか? 我によく似たその子なら将来立派な角が生えるだろう。きっとその名が似合うようになるはずだ。雷の理を司るから、ビリビリパワーなんてのも甲乙付けがたいかもしれん」
……流石にそれはないだろう。クロも滅茶苦茶嫌そうな顔をしている。
「……いいわ。さっきので。最初のが奇跡だったのね。ヴェルフィス。名前が貰えて良かったわね」
「……む、確かにそれも我が考えた名前であるがいつの間に決まったのだ? 今、我がもっとすばらしい超絶爆雷怒濤丸という名前を思いついたところだというのに」
「……ないわね」
と、母さんが言った。俺も同感だ。
この分なら母さんは無難な名前を付けてくれるに違いない。
「……一応名前は考えたあったのよね。ディアシュトルム。あなたのことはディアと呼ぶわ」
……長いな。
でも悪くはない。
壮絶氷雪無双丸みたいな名前を付けられるよりずっといい。
こうして俺とクロに名前がついた。
暫定的に呼び合っていたクロとシロの呼び方はもうしなくなるんだろうな。
それがちょっと寂しい。
「さて、私は森が心配だから帰るわね。五年くらいしたらもう一度ここにくるからヴェル君、それまで子供達の面倒をよろしくね。しっかり面倒見るのよ」
え?
そう言って母さんは飛び立ってしまった。
五年も戻ってこないというのに二、三日家を空けるかのようなノリである。
これも時間感覚の違いなのかな。
「……我にどうしろというのだ?」
凄く困ったような顔をした父の顔がそこにあった。




