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飛行訓練


 今日はクロと母さんと森から離れて岩石地帯に来ている。

 ここまで母さんに運んで貰った。

 運んで貰っている間、遙か遠く流れる地面を眺めていたのだが、その速度は思いの外速かった。

 上空で分かりにくいが、リニアのような速度が出ていたんじゃないかと思う。

 森を超えて、人間達の住む街を見送って、穏やかな平原地帯を越え、更に湿地帯を越えたその先。

 俺達が住んでいる森から多分数百キロ離れているんじゃないかな。

 母さんが降り立った場所は、地面の隆起が激しい乾いた土地。

 土や石で出来た塔のようなものが乱立している。

 そしてその土の塔の間を強烈な風が絶え間な吹き抜けている。

 絶えず赤っぽい土煙が上がり続け、視界はすこぶる悪い。

 クロが降り立った直後に「ワイルドロックスか」と呟いていたので、人間達にはそう呼ばれている地なのだろう。気になったので訊ねてみる。

 

 「どんなとこなの?」


 「風吹きすさぶ死んだ土地。草木が根を張る前に風で種子が飛ばされる。だからこの地に草は生えないし、草を食む魔物も現れることがない。しかし、古代では最も発展した都市が存在した場所とされてるな。その都市では風の力で動く機械がいくつも作られていたらしいぞ。古代の文明を発掘するためにルキアノ王国も何度か軍を派遣したようだが、その手前の湿地帯を越えることが出来なかったと聞く。俺にもこの地へ向かう軍への参加要請があってその時に事情を知った」


 「でも、母さんはあっさり突破していたけど」


 「空を飛べりゃ苦労はねぇよ。どうしたって湿地帯の沼地に足は取られるし行軍はままならねぇ。時間ばっかりかかってそのうち食量が尽きる。それに、あの湿地で一番恐ろしいのは馬鹿みてぇにでけぇ魚の魔物だ。それがうじゃうじゃいる。ま、でかいとはいえ、あれほどじゃねぇぞ」


 クロは母さんを指さした。母さんクラスの大きさの魔物がホイホイいたら困る。


 「なる程ねぇ。ここに巨大都市があったようには見えないけど」


 「……大分昔の話だからな」 


 「え? そんな昔でも無いわよ。ここら辺に人間がいたのは四千年ちょっと前くらいだから」


 どうやら母さんは話を聞いてたらしい。

 そう言えばずっと昔からこの世界で生きてたんだもんな。

 時間スケールが俺達とは違いすぎる。


 「でも、なんで知ってるのかしら? 教えた記憶は無いのだけれど?」


 母さんは首を傾げている。

 ここで前世の記憶があるって言ったらどうなるんだろ?

 なんか、母さんはあんまり気にしなさそうな気もするな。

 

 「……う~ん。やっぱリ私の影響なのかしらね? それより、そろそろ飛ぶ練習をしましょうか」

 

 勝手に何かに思い当たったのか、母さんは話題を変えた。

 多分、それは間違っていると思うけど言わないでおく。


 「……本当にやるのか?」

 

 クロが嫌そうに言った。


 「ええ。いつまでも飛べないままじゃ不便でしょ」


 今日、丘に来た理由は空を飛ぶ練習をするため。今のままでは翼がただの飾りだ。

 今まであまり翼は動かしてこなかった。

 ここら辺でしっかり動かす練習をしておきたい。


 俺達は母さんの手に乗せられて、この辺りで一番高い石塔の上に連れてこられた。


 「ここから飛んでみなさい」


 俺は絶句する。

 いつも暮らしている断崖よりは低い場所だが、それでも地面まで数百メートルはあるような場所だ。


 「なるべく翼を大きく広げて、上に上がってくる風を掴みなさい。本当に落ちそうになったら下でお母さんが受け止めてあげるから」


 俺は眼下を眺める。

 そして思わず笑ってしまった。

 下で待ち構えていると母さんは言うが、頭の天辺が石塔の真ん中辺りまで来ている。

 乱立している石塔の間にどうにか収まってはいるがぎゅうぎゅうで窮屈そうだ。

 

 「……ほら、俺はここで見てるから先に行け」


 そう言いながら、クロは鼻先で俺の体を押してくる。

 

 「まさかと思うけど、クロ、高いところが苦手なの?」


 「あたりまえだ。人間は飛べるように出来てねぇ……あ、今は人間じゃねぇのか」 


 やっぱりクロもそうか。まだ自分の変化に戸惑っているみたいだ。

 うんうん、長く染みついた感覚って中々抜けないよね。

 俺もゴブリンだった頃の感覚が抜けきらないしね。


 翼があるとはいえ、今の俺は紐無しバンジーを強要されている状態に近い。

 俺は高所恐怖症ではないが、自殺願望はない。

 だから落ちないためのイメージをする。

 そう、あれがいい。

 ゴブ生よりも更に前の人間時代の家族旅行で体験したハンググライダーのアクティビティの記憶だ。

 いきなり鳥のように自由に空を飛ぶよりも空中を滑るように降りる。こっちの方がよほど簡単だろう。

 幸い上昇気流は絶え間なく吹いている。すぐに落ちて死ぬことはないだろう。

 それにいざとなったら魔法で風を起こせば何とでもなるはずだ。


 ……ならば。

 後は腹を括るだけだ。


 俺は翼をめいいっぱい広げて断崖から一歩を踏み出す。

 ごうごうと立ち上ってくる風が下あごを撫でて通り過ぎていく。

 ……だが、もう一歩が出ない。やはり地面は恋しい。

 今までに腹をくくる局面はいくらでもあった。

 住処にしていた洞窟をを急襲され、ゴブリンという矮小な身で人間の二倍近い極を誇るオーガに初めて真っ向から挑んだとき。

 冒険者から命からがら逃げおおせる為に川に飛び込み落差数十メートルの滝に身を任せたとき。

 あの時に比べれば全然絶望的な状況じゃない。

 今の自分は孤独でもなければ、下には助けてくれる母さんだっている。

 だからこそだ。

 久々に出来た家族なんだ。人間だった頃だって俺は両親に褒められたくて勉強を頑張った。

 あの時の心境が今一度戻ってきた。

 だからこそ出来れば母さんの期待には応えたい。


 だから俺はもう一歩を踏み出す。


 上昇気流に乗った俺はまるで透明なクッションの上にいるように体が浮いた。

 身に受ける風を逃さないように翼を使ってしっかりと風を掴む。

 浮いたはいいがあまり自由に動けない。

 まるで浮き輪の上に乗ってプールの水面に浮いているかのような感覚だ。

 地面が遙かと奥に見える。落ちたら洒落にならないだろう。

 恐怖に手足をじたばたとを動かしてみるがあまり効果がない。

 しばらく藻掻いて藻掻いて……全然地面との距離が縮まないことに気づいた俺はようやく落ち着きを取り戻した。

 しかし、すぐに今度は逆の焦りが生まれる。段々地面が遠ざかっているのだ。

 

 ……これは不味い。

 どんどん浮かんでいって大気圏を突破してしまうような嫌な想像が頭を過ぎった。

 バランスが上昇に傾いていると言うことは、重力よりも揚力の方が上回っていることになる。

 俺は落ちないようになるべく多くの風を受けようとしているわけだ。つまり、それを逃がしてやれば良い。

 俺は上昇気流を逃がすべく翼の角度を傾けた。すると、受ける風が減る。

 しかし、今度は前方へとスピードがつき始めた。

 ぐんぐん加速しながら風を切って進む。遠ざかっていた地面がまた近づいてくる。高度が低くなったところでまた翼で風を掴んでみることにする。するとまた俺の体は上昇を始める。

 両翼の角度を変えてで風の受ける量を変えると、俺の体は旋回をした。

 翼を軽く畳んでみたり、広げてみたり。

 色々な風の受け方を試してみる。


 ……なるほど。これは楽しい。

 

 絶え間なく吹く上昇気流のおかげで羽ばたかなくてもずっと飛んでいられる。

 よほどの事が無い限り、早々落ちないことも分かった。

 なるほど、高さになれる意味も含めて初めて飛ぶ練習をするには良い場所だ。

 

 ある程度翼の動きを確かめたところでアクロバット飛行を試してみる。

 急降下から急上昇。さらに旋回。体を傾けて斜めに飛行

 

 ……調子に乗りすぎたのだろうか。


 斜めに飛行していると一際強い上昇気流が吹いて、俺はバランスを崩しリバーシの駒のようにひっくり返された。

 ドラゴンの翼は背面から落ちると風を受けられるようには出来ていないらしい。

 風を掴むことも出来ずに為す術もなく落ちていく。

 その途中、母さんが俺に手を伸ばしてくるのが見えたので大人しく身を預けることにした。


 母さん似キャッチされた俺は母さん似頼んでもう一度スタート地点の岩の塔に戻して貰う。

 一度目は乗車を拒否するほど怖く映る絶叫マシンも、仕組みが分かった二度目は自ら嬉々として乗りに行くあれだ。


 俺が二度目のフライトに挑むべく岩の塔へと戻ってくると、未だ岩の塔から足を踏み出せていないクロの姿が目に入った。

 自分で一歩踏み出すのは厳しいので、ここは少し手を貸してやろう。

 恐る恐るといった風に下を覗き込んでいたので、後ろから突進をかましてやった。

 こんなに楽しいのに飛ばず嫌いは勿体ない。

  

 「グルアアアアアアアアアアアアアッ」


 絶叫の声があまり可愛くない。

 むしろ若干低音で怖い響きだ。流石小さいとは言えドラゴンだな。

 クロは恐怖からかダンゴムシのように小さく丸まったまま地面へと真っ逆さまに落ちていった。 

 そこに母さんが走り込んでいって危なげなくキャッチする。

 そしてその場で母さんとフライトの個別特訓をする事になったようだ。

 ガチガチに縮こまったクロの翼を母さんが無理矢理指で広げて上昇気流に乗せている。

 

 そんな光景を下に見ながら俺は大空へと飛び出した。

 日が暮れるまで飛行訓練は続いた。


 星空の下、母さんの背に乗って森の住処へと帰る。

 帰りの道中、クロが「ソラコワイ……ソラコワイ」としきりに呟いていた。

 どうやら俺が断崖から突き落としたことが軽いトラウマになってしまったようだ。


  

……すみません。

作者本人が書いた内容をすっかり忘れていたため、ざっと読み直してからの久々の投稿です。

一応言い訳させて下さい。

基本、休みが日曜日しかありません。日曜に予定が入るともう悲惨です。

で、平日土曜は平均で毎日一時間ほど定時から残っている。

日曜以外、あんまり執筆時間が取れないんですよね。

日曜に書くときは集中して一個の作品だけを進めます。

ツイッターが面倒なのでここで告知します。

この作品は深刻なストック不足です。

なるべく頑張りますが投稿できなかったらごめんなさい。

一応、他の作品のストックは3週間ぐらい掛けて20話分蓄えたのでそのうち纏めてこの話もストックを作ります。

今の予定では月一回は最低でも投稿します。

あと、ある程度ストックが出来たら投稿ペースを上げる旨を告知します。


暇ならでいいのでこちらもどうぞ。

「廃人やり込みゲーマーが異世界に転生した場合」

https://ncode.syosetu.com/n3384ek/


現在投稿済み十五話で、ストック分として三十六話まで出来てます。

ストックが増え続ける理由は投稿するタイミングが無いからですね。

投稿がめんどくさいのです。

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