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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第1章 スローライフ魔王城
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63 アクアの一日 その2

 朝ごはんを食べた後は魔王城の外にある訓練場で遊ぶ時間になるの。

 みんなが自由に遊んでいる間は、パパとチェル様が危険なことをしないように見守ってくれる。

 水と植物の合体技がうねりをあげた。敵役をやっていたヴァリーに襲いかかる。

「ちょ、ちょっとー。シャレにならなっ、キャア!」

 頭を抱えてしゃがむと、ヴァリーの上をスレスレで通りすぎた。

「うん。だいぶ形になってきたね。フォーレはどう思う」

「そぉだねぇ。もうちょっと角を尖らせるとぉ、かっこよくなると思うよぉ」

 フォーレとプ○キュアごっこをしたあとは決まって反省会をする。合体必殺技ももうちょっとで完成すると思う。

「それとぉ、喉が渇いちゃったぁ。お水ちょうだい」

 フォーレが手で器を作っておねだりしてくる。いつものことだから魔法で水を作ってあげる。

「ありがとぉ。んくっ。おいしぃ。おかわりぃ」

「もぉ、フォーレはしょうがないなぁ」

 いつも一杯じゃ満足してくれないから、四回ぐらいおかわりをしてあげる。ちょっとめんどうだけど、大好きだから満足するまでお水をあげるの。

「あぁ、おいしかったぁ。ありがとぉアクア。大好きだよぉ」

「私も好きだよ」

 お水をあげると決まって抱きついてくる。大げさだなって思うけど、好きだから私も抱き返すの。

「もぉ、死ぬかと思ったじゃないの。もっとヴァリーちゃんをやさしくしなさいよね」

 ヴァリーが握った両手をあげてプンスカ怒りだした。飛び跳ねるたびに赤い髪が跳ねる。

「ごめんヴァリー。プ○キュアごっこはフォーレとじゃないとどうしても嫌なの。他の遊びなら私が敵役になってあげるから許して、ねっ」

 手を合わせて頭を下げる。フォーレは緑の半目でぼーっと眺めるだけだった。

「そうじゃなくてー、もー。わかったわよ。ヴァリーちゃんはレディーだからアクアのわがままを許してあげちゃう。その代わり次に危ない目に合わせたら承知しないよー」

 どうにか機嫌を直してくれたんだけど、笑顔がどことなく怖い。次やったらどうなるかわかってるわよねーって、押しつぶしてくる感じだ。

「ちょ、ヴァリー怖い。もうやらないからやめて」

「キャハ、怖いなんて心外だなー。ヴァリーちゃんはいつでもやさしいよー」

 ヴァリーがウインクすると、風が吹き抜けた。ちらばる青い髪を指で整えながら見上げると、エアとシャインが飛んでいた。

 シャインの肩をエアが両足でガッチリつかんで、荒々しく空を舞う。

「痛たた。エア、少し足の力が強いよ。オヤジと飛ぶときのことはどうでもいいけど、ミーにはもっと手加減してほしいな」

「あっ、ごめんねシャイン。こんな感じで……あっ」

 エアの足からシャインの肩が外れたのを見て、私たち三人は、あって声を上げた。翼を失ったユニコーンのハーフがどうなるかなんて、見なくてもわかる。

「冗談だと言ってくれエアっ! エアァァァアッ!」

 ズドン!

 地面に顔面から衝突したシャインは、亀の胴着を着た一番弱い人が自爆されて死んだときのように横になった。ピクピクしてるから、たぶん生きてると思う。

「まー、シャインだから無事よねー」

「だねぇ」

「えっ、二人は心配じゃないの?」

「キャハ。だって、シャインだもん」

 フォーレもコクリと頷く。心配なのは私だけみたい。

 エアが黄色い翼をバサバサさせながらゆっくり降りてきた。

「あちゃー、ごめんねシャイン。落っことしちゃった。でもさっきまでいい感じだったし、もう一回つき合ってよ」

 エアは返事も聞かないまま動かないシャインの肩を足でつかむと、再び空へ舞いあがった。

 シャインの手と足の先が力なく揺れている。もともと白い瞳をしているんだけど、今は完全に白目を向けていた。口もだらしない半開き。

「うん。シャインだもんね。きっと大丈夫。大丈夫」

 大丈夫、だよね?

 これ以上見ていられないから、目を逸らした。逸らした先では、シェイとグラスが距離を置いて睨み合っている。

「シェイとグラス。どうしたんだろ。なんかケンカしてるみたいに雰囲気がよくない。あっ」

 シェイが走ると右手でグラスに殴りかかった。

 白い腕が伸びるも、グラスがギリギリ避けたから空を切る。代わりにとグラスの爪がシェイの大きな一つ目に襲いかかる。

「あっ、シェイ!」

 私が叫ぶと、シェイが足元から地面に……うんん、影に潜り込んだ。グラスの後ろから出てきてはまた殴りかかる。

「どうしよフォーレ。グラスとシェイがケンカしちゃったよ。止めないと」

「大丈夫だと思うよぉ」

 あたふたしていると、フォーレが冷静に止めた。

「どうしてそんなこと言うの。大切な兄弟なのに」

 フォーレの横顔を見ると、緑の瞳が賢く輝いていた。

「たぶんあれぇ、特訓か何かだからぁ」

「フォーレの言うとおりだぜぇ。ホントにケンカだったらジジイたちが止めてるだろ」

「デッド」

 振り向くと、握力グリップをニギニギしながら、近づいてきた。

「でも、さっきまでトレーニングしてたんだよね。デッドも一緒に。どうしてケンカ……じゃなくて、殴り合ってるの?」

「実践に近い訓練をしようってシェイに持ちかけられたら、あぁなった。僕も誘われたけどメンドーだから逃げてやったぜ。キヒっ」

 そっか。でもやっぱり殴り合うのは痛いよ。もっと平和にできないのかな。

 特訓を見守っていたら、グラスの一撃がシェイのおなかに入った。よろめくシェイに蹴りの追い討ちがかかって倒れる。

「ぐっ、うぅ……」

「俺の勝ちだ、シェイ。ちょこまかして動きがわかりにくかったけど、まだ動きが荒いな。ほら」

 グラスが手を差し伸べると、シェイは素直につかんだ。引き上げられながら立ち上がり、パンパンと砂埃(すなぼこり)を落とす。

「ありがとうございます。負けたのは腹立たしいですが、いい教訓になりました。また手合わせをお願いします」

「いつでもこい。俺も楽しみにしている」

 仁王立ちで受け答えると、二人して笑い出した。

 えっと。友情って、ああいうことなのかな。私にはちょっとわからないよ。

「キヒっ。戦ってるうちに僕のことを忘れてるみたいだ。おいヴァリー、イタズラしにいかねぇか」

「キャハ。いいねー。ヴァリーちゃんがグラスを攻めるからー、デッドはシェイをお願いねー」

 デッドが悪い笑顔になると、ヴァリーも一緒になってニヤついた。

「あっ、デッド、ヴァリー」

 手を伸ばして止めようとするけど、聞こえてないのか走って行っちゃった。イタズラはよくないと思うなぁ。

 フォーレと二人、ポツンと取り残される。

「あの二人もぉ、グラスとシェイによくやるねぇ」

「ホントだよね。あっ、そうだ。特訓で思い出した。ちょうど十日前のママの日のことなんだけど」

 ママに会いに行くのは十日に一度。だから今日は私の番だね。ちなみに順番は生まれた順で、ヴァリーが終わったら二日開くようになっているの。

「私ね、剣を使ってみたいってパパに相談したの」

 手を胸の前で合わせてから、フォーレに首を向ける。

「へぇ、アクアが剣かぁ」

 フォーレも首を向けてくれた。

「そうしたらパパね。私には槍の方が似合うって言ったの。剣が使いたいって言ったのに、槍を持つように不思議な踊りをしだしたの」

「不思議な踊りぃ?」

「うん。サードランナーがバッターにサインを送るみたいだった。主人公が相手のMPを減らすやつ」

「アクア。それぇ、元ネタが違うよぉ」

「そうなの?」

「うん。元は有名なRPGの特技だよぉ」

 知らなかった。フォーレはいろんなことをたくさん知っててすごいな。

 驚いていると、フォーレが緑の髪をゆらしながらコテンと首を傾げた。

「でぇ、おとーがどうしたのぉ?」

「そうだ。槍よりも剣を使いたいっておねだりしたら、仕方ないって感じで許してくれた。けど、納得してない感じだったよ。どうして槍なんだろ」

「アクアが槍って感じだからだと思うよぉ。それにぃ、戦隊物を見るとみんなぁ、違う武器を使って合体させてるよぉ。そっちの方がかっこいいんじゃないかなぁ」

「私が槍を持つとかっこいい?」

 首を傾げると、フォーレが力強く頷いた。眠そうな目もちょっぴり力が入ってるように見える。

 槍か。まだイメージわかないけど、パパもフォーレも言うんだもん。きっと私に似合うよね。なんだろ、急に槍がかっこよく思えてきた。

「わかった。フォーレもそう言うなら槍を使ってみるね」

 宣言すると、フォーレはやさしく微笑んで、んっと頷いた。

 ふと思い出してシェイの方を見ると、デッドとヴァリーが倒れていた。イタズラ、どうなったんだろう。

「おーい、そろそろ昼飯にするから集まれ。食堂行くぞー」

 パパが声を上げると、みんなが返事をする。

 うん、おなかもすいている。お昼ごはんなんだろうな。


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