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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第1章 スローライフ魔王城
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64 アクアの一日 その3

 お昼ごはんを食べ終わったら、みんなでお昼寝をした。

 起きたらパパと一緒にママのいる鍾乳洞(しょうにゅうどう)まで行く。ママの日の移動時間はパパと二人っきりだから、思いっきりおしゃべりができるの。

 フォーレがやさしいとか、シェイがかっこいいとか、エアが元気とか、いっぱいしゃべりたいことがあるから歩く時間も大好き。

 疲れたらおんぶしてくれるし、幸せだよ。

 私はパパの首に手をまわしてしがみつく。パパが両足を持って支えてくれるけど、けっこうずり落ちちゃうの。態勢つらいなって思うと、跳ねるようにして持ち上にあげてくれる。私もおしりに力を入れて、いい高さまで戻るの。

 大きい背中はあったかくて、私の全部を受け入れてくれる。おんぶ大好き。

「そうだ、パパ」

「ん、どうした?」

「朝ね、フォーレと話していて決めたの。やっぱり私、槍を使ってみることにする」

 背中に身体をペッタリつける。肩に顔を乗せて、耳元で話しかけた。ボサボサな髪の毛がチクチクするけど、そんなに気にならない。

「また、どういう心境の変化だ。あんなに剣に憧れてたのに」

 パパは前を見ながら不思議に聞いてきた。一歩一歩の振動を感じながら洞窟を進む。

「フォーレも槍の方が私には似合うって言ってくれたの。きっと何かあると思う。パパも予感してるから、槍がいいって言ったんでしょ」

「そりゃあ、まぁ、なっ」

 言いにくそうに、途切れ途切れ答えた。悪いことしたみたいに、声が小さい。

「剣を嫌いになったわけじゃないんだよ。使ってみたいし。けど今は同じぐらい槍が気になるの。だからパパ、私に槍を教えて」

「そっか、わかったよ。槍の使い方を調べておくから、一緒に練習しような」

 パパと一緒に練習ができる。ただそれだけが嬉しくて、元気いっぱいに、うんって答えたの。


 洞窟を進むと広い空間に出る。半分以上が地底湖になってる場所で、私が生まれた場所。

「ありゃ、今日はクラーケンは待ち構えてないな。アクア、呼んでくれるか」

 うんって返事をしたら、パパは私を地面に降ろしてくれた。声が大きくなるように両手を口元に添えて、目いっぱい叫ぶ。

「来たよママ! 出てきてー!」

 少しすると水面からボコボコと泡が出てきた。泡は徐々(じょじょ)の多くなって、青い身体のクラーケンがバシャーンって顔を出したの。

「いらっしゃいアクア、コーイチも」

 パパが片手をあげて、よぉって気軽な挨拶した。気を抜いて微笑んでいる顔は、見ていて安心する。

「ごめんなさいね、ちょっと遅れちゃった」

「なんかあったのか?」

「ちょっと準備に手間取ったのよ。レディーはいろいろと手間がかかるもの」

 太くて長いイカ足を恥ずかしそうにクネクさせながら、ママは身体を赤く染めた。するとパパは私の肩をポンと叩く。振り向くと、腰を曲げていた。同じ視線に黒い瞳があって、唇はニコって笑っている。

「それじゃアクア、ママの言うことを聞いて楽しく遊んで来い」

 あっ、いつの間にかパパとママのお話が終わっている。毎回いつ終わったかわからないんだけど、私も早く地底湖に飛び込みたいから気にしないようにしている。

「うん。行ってくるね。うんしょ」

 水に潜るときは服を脱ぐようにしている。クラーケンの身体に戻ると服が破れちゃうかもしれない。かわいいし、着られなくなったらもったいないもんね。水色のワンピースを脱いでから、たたんでパパに預かってもらう。

 勢いをつけて飛び込むと、全身に水の冷たさを感じる。透明感のある青い世界。白く輝くあぶくに、ゴツゴツした岩肌。広い地底湖には魚系の様々な魔物がいた。大きさも形もバラバラ。でもみんな一緒に泳いでくれるからやさしいの。

 元の姿を意識すると、自然と身体が変化する。十本の足で水を捕まえて深く泳ぐ。

「ご機嫌ね、アクア。少しずつ泳ぎもうまくなってるわ」

 ママが後ろからすぐに追いついてきた。やっぱりママは速いなぁ。

「そおかなぁ」

「そおよ。自信を持って、ねっ」

 泳ぎながら足を一本伸ばして、頭を撫でてくれる。

「じゃあさ、ママ。もっと練習したら、ママみたいに速く泳げるようになるかな」

「なれるわよ。むしろ私なんて超えちゃうぐらい、アクアは速くなるわ。絶対よ」

 ママがクスクス笑うと、ホントにできるような気がしてくる。もっと練習しなくっちゃね。

 気合を入れていたら、いつの間にかみんなが傍によって泳いでいた。サメとかクジラとかアンコウ、他にもいっぱいの魔物が入れ替わりながら近くに来てくれる。

「身体の使い方がまだちょっとぎこちないわね。私みたいにヒレがあればバランスとりやすいんだけど、そこは魔法でカバーかしら」

「ん~、足の力に頼りすぎてるのかも。ちょっと魔力込めてみる」

 水を感じる魔法は得意なの。抵抗をなくして、力を入れやすいように調整してみる。すると私は自然と、群れから飛び出てしまった。

「わっ、ペースが上がったわよ。やっぱりアクアは天才ね。みんなもそう思うでしょ」

 ママが魔物たちに呼びかけると、嬉しそうな鳴き声が地底湖に反響した。なんだか照れちゃうな。

「えへへっ。ありがと。でも天才は言いすぎだよ。私の兄弟たちの方が、もっともっとすごいんだもん」

 血が繋がってるだけで自慢に思える。みんなに比べたら、私はまだまだだよ。

「そんなことないわ。水のなかなら間違いなく、アクアが一番よ」

 確かに、水のなかなら負ける気はしない。うんん、むしろ負けられない。水中だけは譲れないよ。

「それにアクアが来てくれると、体調がよくなるわ。私だけじゃなくてみんなもそうだって言ってるわ。きっとアクアには特殊な才能があるのよ」

 ママを先頭に魔物たちが鳴き声で、そうだそうだって言っている。特に何かしているわけじゃないんだけどな。なんでだろ。

「ねぇアクア。泳ぐ練習はここまでにして、別の練習をしてみない?」

「別の練習?」

 泳ぐのをやめて振り向くと、ママが立ち止まった。魔物のみんなは私たちの周りをグルグル泳いでいる。

「そう、イカの足は泳ぐだけじゃなくて捕まえることにも優れているの。地上の敵を水中に引きずり込めるようになるわ。でも最初から陸に足を伸ばすのは難しいと思うから、まずは水中で泳いでいるみんなを捕まえてみましょ」

「そっか。この足は立派な武器なんだもんね。うん、やってみる」

「最初は二本ぐらいの足でやってみなさい。慣れてきたら数を増やすといいわ。最終的な目標は十本同時に捕まえることね」

 捕まえる練習か。みんな泳ぐのが速いし、難しそうだな。でも楽しそう。やってみよう。

 今日から新たに、捕まえる訓練をすることになった。


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