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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第1章 スローライフ魔王城
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34 秘密の話

 お父様との話を強引に断ち切ってから部屋に戻ると、父子(おやこ)四人が白いソファーにかたまって幸せそうに眠っていた。

 ソファーに身体を沈めて寝息を立てているのはアクア・フォーレ・グラスの三人で、コーイチはすぐ傍の絨毯に身体を預けていた。

 子供部屋は用意してあるけど使っていない。幼い子供たちから目を離すには、まだ早すぎる。

 あらあら、ソファーを占領されてしまったのね。不細工な寝顔をさらけ出していてよ。

 無防備な寝顔についつい笑みがこぼれてしまう。

 でも、よかったわね。昨日は目も当てられなかったもの。意地を張るグラスに、怯えて動けないアクア。互いが牽制しあって部屋の両隅を占領したせいで部屋の空気がくっきり四分割したもの。

 足音を立てないようにひっそりと歩き、天蓋つきのベッドに潜りこむ。

 ベッドが私の絶対領域なのはともかく、白いソファーでコーイチがさみしそうにしていたのには憐れみを覚えたわ。アクアとグラスと寄り添いあって寝たそうだったもの。

 ソファーを見ると、幸せそうな寝顔が三つある。

 青い衣に身を包むアクアは身を丸めて横になっていた。緑の衣に身を包むフォーレもアクアと似たようなかっこうだ。そして人間の姿をなしていないグラスは、手足をまっすぐに伸ばし、姿勢正しく眠っていた。

 それぞれがデザートのように甘い夢でも見ているのだろう。

 アクアとグラスにはまだ若干の距離がある。その間を仲介するようにフォーレが入り込んだから均衡を保っているのよね。三人だからバランスがとれているのかしら。

 まだコーイチの子供は五人も残っている。全員が同じ空間ですごしたらどうなるのか。誰もが強い個性を持っていることから、容易にはまとまらないだろう。

 おかしなたとえだけど、きっとモンスターハウスとなるのでしょうね。

 苦労図が浮かびすぎて笑えてきた。億劫ね。今日はもう寝てしまいましょう。

 ベッドに身体を預けて目を閉じた。暗い世界に、静かな寝息だけが聞こえてくる。

 すんなりと眠れない。妙に目が冴えるわ。明日もやりたいことは多いから休んでしまいたいのだけど。

 チェルが寝返りを打って身体を横にすると、むくりと何かが起き上がる気配を感じた。

 何かしら。コーイチに夜這いするような度胸はないはずだし、死体のように寝ていたからゾンビ化しない限り立ち上がらないと思うけど。

 不思議に思いながら聞き耳を立てる。ソファーの沈む音が聞こえたので子供たちの誰かだろう。

 こんな時間に起きるだなんて。お花でも摘みに行くのかしら。

 足音はソファーから降り、ペチペチと何かを叩き出した。

「おとー、起きてるぅ」

 間延びした甘い声から、フォーレだと推測。どうやらコーイチの顔を叩いて起こしているようね。

「んっ、んん……フォーレか。どうしたトイレか? 重いんだけど」

 眠気に引きずられた声で問いかける。まだ夢うつつな感じね。

「違うよぉ。みんなが寝ているうちにぃ、スキルのことを教えてもらおうと思ってぇ」

 スキル?

「んっ、スキルねぇ……おいフォーレ。誰も聞いてないだろうな」

 コーイチの声が覚醒した。朧げ(おぼろ )なままで会話していい内容ではないようね。

「うん。大丈夫だよぉ。アクアもグラスも睡眠(すいみん)草の匂いでグッスリだからぁ」

「睡眠草って、それはフォーレのスキルか。それとも魔法か」

「魔法だねぇ。だから聞かれないよぉ。でぇ、おとーのスキルだけどぉ、マイルームって何ぃ?」

 マイルーム? コーイチに固有スキルがあるとでもいうの。

 驚きのあまり起き上がりそうになるのを堪えて、耳を傾ける。とても重要な何かを話しそうな予感がする。

「何でフォーレが俺のスキルまで知ってんだよ?」

「秘密ぅ」

「まぁ、いいけど。どうせモンムスたち全員のスキルも知ってんだろ」

「うん。名前だけはねぇ。おとーが知っているのと同じぐらいかなぁ。みんなに経験値ブーストLと完全人化があるんだよねぇ。後は個人で違うみたいだけどぉ」

 コーイチから諦めたようなため息が漏れる。

 ちょっと待って。コーイチはため息が漏れる程度でしょうけど、私にとっては天地が引っくり返るような大事よ。

 今すぐ立ち上がって問い詰めたい気持ちを必死に抑えつて、聞き耳を立てることに専念する。もう、眠ってなんていられない。

「マイルームは俺も詳しくしらねぇ。それとフォーレのことだから、他の二つも知ってるんだろ」

 コーイチの問いに沈黙が返る。おそらく首を振ってこたえたんでしょうね。たぶん首肯の方。

「俺の子供全員に遺伝した経験値ブーストLも、ぶっちゃけ効果がわからねぇ。どれだけブーストされるのかも、いつ発動しているのかもな」

「たぶん、いつも発動してると思うよぉ。感覚的にそんな気がするぅ」

「そっか。でも不確定だからな。他のみんなには言うなよ。特にチェルには。ぬか喜びだけはさせたくねぇんだ」

「ん、わかったぁ」

「で、続いてステータスチェックは名前のままだ。目標の強さとスキルを確認することができる。俺のスキルで唯一、自認ができるやつだ」

「そっかぁ。それでみんなのスキルをチェックしたんだねぇ」

「まぁな」

 やられたわね。こんな重大なことを隠していただなんて。少しコーイチを見くびりすぎていたわ。コーイチにも成長する要素があるだなんて。

「俺のスキルに関してはこんなとこだ。ンでもって、俺に経験値ブーストLはおそらく適応されねぇと思う」

「なんでぇ?」

「俺の成長期なんてとっくにすぎてるからな。たぶん一番効率のいい時期を逃してる。だから期待ができねぇんだよ。その代わり、フォーレたちは充分に化ける可能性を秘めてるがな」

 最後の言葉だけは、妙に自信に満ちあふれているじゃない。いつしか言っていたわね。子供たちが化けるって。何の根拠もないと思っていたのだけれども、そんなスキルが見えていただなんて。

「そっかぁ。じゃあ一生懸命ぇ、育たないとねぇ」

「あぁ、力を持たない俺の代わりに、チェルを支えてやってくれ。ぶっちゃけると俺、フォーレたちが怖いんだ。愛しているんだけど、手に負えない気がして」

「大丈夫だよぉ。あたいもぉ、アクアもグラスもぉ、きっと他のみんなもぉ、おとーのことが好きだからぁ。だから立派な魔王になってねぇ」

 え、コーイチが魔王に?

 フォーレのとんでもない発言に、コーイチの笑いが漏れる。

「ははっ、さすがに魔王はねぇよ。でも人間の魔王か……威厳のカケラもねぇな」

「それはぁ、あたいたち八人でサポートするよぉ」

 コーイチは一笑するけど、フォーレは真剣みたいね。

「そっか、頼もしいな。でも一つだけ約束してくれ。何が何でもスキル・月下美人だけは使わないって」

「ん~、そのとき次第かなぁ。いくら自制していてもぉ、使わなくっちゃいけないときはくると思うからぁ」

「ちっ、イッコクも世知辛いこった。もぉ疲れた。寝ちまおうぜ」

「あっ、もう一つぅ」

「どうした」

「ギュっと抱きしめてほしいなぁ。そのまま寝ちゃいたい」

「わがままなお嬢様なことで」

 最後の一言にはあふれんばかりの愛情が込められている気がした。会話が終わると、部屋に寝息が二つ増える。

 ベッドのなかでチェルは身体を硬直させる。流れる汗が止まらない。

 なんってことかしら、偶然とんでもないことを聞いてしまったわ。コーイチもまさか、私が起きているだなんて思わなかったでしょうし。

 身動(みじろ)ぎ一つするのもためらいを覚えた。衣擦(きぬず)れの音が大きく響きそうな気がする。

 フォーレもなんってことを私の部屋で相談してくれたのかしら。対処に困るわ、偶然とはいえ……ホントに偶然かしら。

 ふとフォーレの性格を考えたときに疑問を覚えた。のんびり屋で何も考えてなさそうなのに、アクアとグラスの関係を改善した本人だ。

 もしかしたら聞かされたのかもしれない、という可能性に気づかされるのだった。


 翌朝

 フォーレがコーイチに引っついて寝ているのを発見したアクアとグラスが、文句を言いながらコーイチに甘えるのだった。


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