24 親バカ
「真剣そうに悩んでいたと思ったら、間抜けなことを抜かすのね」
思わずため息が出たわ。キリっとしたキメ顔で話し出すものだから、どんなことを悩んでいるのかと思ったのだけれど。所詮コーイチはコーイチね。
「ありゃ、こっちはかなり真剣に悩んだつもりなんですけども」
まじめそうな表情が一瞬で崩れた。何を考えているかは知らないけれど、妄想未来話に耳を傾けるつもりはなくてよ。
「はいはい。でも意外だったわ。あなたが親バカになるとは思わなかったもの」
私に、もうちょっと余裕があったら話につきあってもあげてもよかったのだけれどもね。あぁ、ほら。カチンときて文句を言いたそうな顔をして、そして自己嫌悪で解決させるのね。俯いちゃって。ホント、頼りないんだから。
「親バカか。確かにそうかもな。まだ可能性を見つけただけだってのに、一人で舞い上がってたわ」
ホント、甲斐性がないんだから。思ったことがあるならしっかりと言いなさいよ。私には受け止める度量がないって、思い違いをしているのかしら。イライラする。
「可能性、ね。そんなものはどんな子供も持っているわ。そもそも、子供に限った話でもないわね」
大人だって化けるときは化ける。何か一つ心に芯を立てたとき、何か一つ意地を持ったときに生まれ変わったような成長をする。
コーイチにはそれがない。だからどこか無気力で、自分を捨てたように生きている。見ていてホントにイライラする。コーイチに、じゃない。
私が既に、意地を失っていそうなことにイライラする。
「チェル、大丈夫か」
「えっ?」
気がつくとコーイチは、私の隣に立って顔を近づけていた。ボサボサな黒髪に、チリチリのヒゲ。さえないおっさんの顔をして、眉だけは心配そうに八の字にしている。
「また余計なことを考えすぎた顔してるぞ。思いつめすぎてて俺が近くにきても気づかなかったしな」
言いながら乱暴に頭を撫でた。男のくせに小さくて細い手で、髪をわしゃわしゃと。髪型に遠慮しない温かな手は、幼い頃を思い出させてくれる。
「男のくせにやわらかい手ね。そんなのだから剣も振れないのよ」
「剣どころか運動もダメだからな」
自嘲しながらのはずの笑顔が妙にやさしくて、弱い部分を包み込んでくれるような包容力を感じる。
コーイチはずるい。意地も何もないくせに、やさしさだけは人一倍持っているのだから。
不意に、そのやさしさに縋ってしまいたくなるじゃない。
「やめてくれない。髪が乱れるわ」
だから突き放してやる。脆弱な人間なんかに、頼ってなんていられないもの。
「おっと、こいつは失礼。でもな、むやみに悩みこむなよ。話ぐらいは聞いてやれるんだからな」
「話しか聞けないくせに。いいわ。親バカになるなら精々子供たちをかわいがりなさい」
そうしたら私になんてかまっていられなくなるでしょう。これ以上、期待させないで。
「子供……かっ。そうだな。そうするよ、チェルと一緒にな」
「なっ、片手間に私をかわいがるつもり?」
「逆だよ。チェルと一緒に、子供たちをかわいがるんだ。八人もいちゃ手に負えねぇ」
情けない表情には、ちょっぴり含みが込められていた。これはコーイチの挑戦状ね。いいわ、受けてあげる。何が狙いか知らないけど、そうやすやすと私は落ちないわよ。
私はコーイチに、余裕のある微笑を浮かべてやったわ。
「ほんと、情けないんだから」
ついでにため息ものせてやったわ。




