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食物人間 -しょくにん-  作者: 弦陸 流音
第三章 悪と正義
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第三章 第二話

第二話



我々しょくにんは必死になったことがない。


やはりそうなのだろう。

だからいきなり走って階段から転げ落ちるのだろう。


それどころか、死という物を考えたこともないだろう。

なぜなら…



銃声が聞こえてから、

階段を駆け下りる音が聞こえたと思えば、

いきなり下りのリズムが崩れた。


ゴロゴロとしょくにん達が階段から転げ落ちてきた。


「ちっせっかくの久々の獲物だったのに、逃がしちまった」

という捨て台詞が聞こえてきた。



階段から見える位置なのに撃ってこない。

おそらくハンターはもう撃ってこないだろう。


地下への発砲はご法度だ。


「いててて、首がいてぇ。み、みんな大丈夫か?」


そして3人のしょくにんが立ち上がった。

1人のしょくにんは立ち上がらなかった。


「お、おい、33番が起き上がらない」

「しっかりしろ!A-N-33 33番!おい!」


A-N-33と呼ばれた33番は首から血を流していた。


階段にも血がついているから、

おそらく先ほどの銃声がもたらしたものだろう。


駆け足が近づいてくる。


救護班(レスキュー)だ!けが人はいないか?」


33番の手当を始めたが、開始2分もしないうちに。


「ダメだ…もう助からない。あと少しの命だ」

と言った。


「おい!33番どうなっちゃったんだよ!」

しょくにんの一人がレスキューに言い寄った。


「彼は首に致命傷を負った。もう助からない」

「え?じゃあ33番はどうするんだよ…」


レスキューはためらうこともなく淡々と答えた。


「彼の遺体はこの後、おそらく外しょくが預かり冷蔵室で保管する。

施設からの許可が出れば、そのまま全身を捌いて市場に流すはずだ」


「は、はぁ?言っている意味が分からないって!」


レスキューは外しょくではない。

ポリスやファイヤーファイターと言った公的機関に所属する人間だ。


「あ、レスキューさん、私、外しょくの人間です。以降の対応立ち会います」

俺は胸につけたバッジを見せた。


「お、あんたまさかしょくにんか?」

家出してきたしょくにんの一人が声をかけてきた。

家出したきたしょくにんに立ち会うのは初めてだ。


「あ!ほんとだ見たことあるぞ!なんだっけ…

あんたいえやすだったっけ?」


全身の力が抜けてしまった。


「違う。そいつはおそらくのぶながだ。

俺じゃない。その友達のA-R-787 デルタだ」


のぶなが、やはり施設でも目立つ存在だったんだな。


やけに髪の毛を短く切っているそのしょくにんは

「そうだそうだ、のぶながだったな、俺はA-N-911 カレーラだ」

と名乗った。


そして俺の肩をポンと叩いてきた、

頭髪検査でぎりぎり引っかからないぐらいまで髪を伸ばした男は。


「ある日突然食堂とかで見かけなくなったから家出したんだと思っていたんだ。

俺はA-N-124 クモ と呼んでくれ」


カレーラにクモ、確かに刻んだ。


「僕はA-N-660 二人みたいに名前は付けていない」


660は足を負傷しているようで、

左足を引きずりながら歩いてきた。


「33番はどうだ?660」

とカレーラは聞いた。


「わっかんない…喋らないぞ33番は…」

「そ、そうか…こんなときどうすればいいんだろうな…」



俺達しょくにんは茫然と立ち尽くした。

なぜか。


「俺にもわからない…しょくにんの…人間の…いや、

生物の死に立ち会うのが、今日が産まれて初めてなんだ」


しょくにんは死を目の当たりにすることが無いからだった。



俺達がまごまごしている間に、サラが到着した。


「ユキ!デルタ!家出したしょくにんは無事!?」

「いや、それが…一人…」


彼女は33番に駆け寄った。


腕や首を触り、目を開いてライトを当てたりしている。


「残念だけど、この子はもう助からないわ…」


「それはさっきレスキューの人から聞いた」

660番が答えた。


「な、なあこの後33番はどうなっちまうんだよ!」

カレーラはサラに聞いた。


「この後すぐに本部に向かいながら、

脳や身体がこれ以上痛まないように首を切断する。

息があるうちに」


それを聞いた俺は背筋に何か生き物が這っているかのようにぞぞっと感じた。


「そして本部の冷暗所で保管して、施設からの許可が下りれば、

このまま全身を捌いて市場に流すの。当然脳もね」


…胸の中がざわついた。

他のしょくにんはサラの話を聞いて言葉を失ったようだ。


「つ、つまり、僕達が死んだら、そのあとは人間に食べられるってわけか」

660はサラに問う。


「ええ、でもウイルスが蔓延した個体や、

腐敗が進んだ個体はそのまま焼却されるだけなの」


それってつまり。


「焼却されるより食べられたほうがマシだな…」

と660番は答えた。


その通りだ。なぜなら


「人間に食べれられて、

人間と一つになって生きていくってことか…実に、実に美しいサイクルだ」


と俺は答えたが、カレーラとクモは二人とも別の事を言った。


「死んだら何も残らないってことか…」

俯くカレーラに、660が言う。

「いや、何も残らないことは無い。人間に食べられて人間の一部になるんだ」


「いやいや、食べられたところで、俺は残らないじゃないか」

とクモは答えた。


「いやいやいや、焼却されたら炭と灰にしかならないじゃないか、僕はそんなの嫌だ」

と返す660。


「だが、何も残らないより、炭や灰が残ったほうが、俺はいいな」

そう言うのはカレーラだった。


なんだろうこの感覚、

俺とのぶながが違う道を進んだ時と同じような感じがする。


「僕は、彼が…えーとデルタ君だっけ?

彼が言った美しいサイクルというのが的を射てると思う」


「はーいはいはい みんなケンカはもうおしまい」

と割って入ったサラだが。


「いや、ケンカなんかしてない。

少し意見が食い違っただけだ」


660の言葉に、カレーラもクモも うんうんと首を縦に振った。


「またこのパターンか…まあいいわ、

今から彼の首を落とす。彼も良いと答えてくれたわ」



ストレッチャーに乗せながら移動しているこのガタガタの中、

うまく切れるんだろうか。


足を負傷した660は車椅子に乗ってカレーラが押している。


「3人とも、最後にこの子に別れの挨拶をして」


3人は最後の言葉をかける…と思いきや、

最後の言葉が浮かんでこないらしい。


「33番!33番!と声をかけるだけで終わってしまった」


サラは俺の肩を叩く。

「デルタ!あなたは立ち会いなさい。

いい経験よ ほかに立ち会う人はいる?」


「私、立ち会う」

ユキは立ち会うようだ。


「お、俺達も立ち会う!」

3人とも手を挙げた。


「わかった。ショッキングだから覚悟してね」


サラはカバンから太くて長い見たこともない包丁を取り出した。


さすがは料理人。


33番の喉元に刃を当てて深呼吸する。


流れる水がごとく、

彼女の包丁さばきで彼の首を断った。


その姿に、俺は思わず 美しいと思った。



暴れることも、苦しそうな声を上げることもなく、

33番の頭と体は物の数秒で分離した。


そして

「デルタ、この布を身体の切断面を当てて血を受け止めて」


断面…こうなっているんだな…だが俺は冷静でいる。

そっと布を当てて血が出ないようにした。


「ユキ、ストレッチャーを押して、そんなに力はいらないわ」

「は、はい!」


そして俺たちは本部までストレッチャーを押した。


サラは布で巻いた33番の頭部を大事そうに抱えて歩いた。


本部にたどり着き冷暗所まで運んだ。


「さ、デルタは私ともう一仕事、

生存報告の書類作るわよ、部屋に帰ってね」


俺たちの住む部屋に3人を連れていくことになった。


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