49.満員御礼こたつ会議
「…みっともないところを見せちまったね。まあなんだ、アタシが死んで無いってことは分かった。命を救ってもらった事も感謝するよ。しかし随分とおかしなことになっちまってて、何が何だか頭が追い付いてこないってのが正直なところさ」
現在朝食を終えて昨夜の出来事をかいつまんで説明したところであるが、姐さんもさすがに情報を処理しきれないようだ。死んで生き返る経験などあるものでない上に、若返り、尻尾の再生、ニアとの再会。無理もなかろう。
しかし病み上がり?にしてはよくもまあ食べたものである。あの体のどこに入るのかという程にするすると吸い込まれていく様はいっそ痛快ですらあった。
姐さんのお替りに次ぐお替りでニアはてんてこ舞いであったが、俺としては相棒を落ち着かせる時間を十分に取れて助かったのは内緒である。
「サンドラ、アタシの名前はサンドラだ。恩人のダンナから姐さん呼びは流石にね…それ以外なら好きに呼んでくれていいからさ。しっかしまあ、こんなにうまいメシが作れるようになるなんて、おチビちゃんも成長したもんだ」
「…ニアです。姐さんは私に名前を教えてくれませんでした。だからもうごはんも作ってあげません」
「なにむくれてんだい、アンタだって名乗ってなかったじゃないか。そういうトコは成長しないね、だからいつまでたってもおチビちゃんなのさ」
やはり長く暮らしていただけのことはあると、二人の気安いやり取りを微笑ましく見つめる。姐さん、いやサンドラが一枚上手の様であるが、見た目的にはそんなに年が離れていないように見えるのも面白い。
「あー、ニア君とサラ君、でいいかな。ボクはロマだ、よろしくね。じゃれ合いながらでもいいからボクの話を聞いて欲しいのだけれど。ここではなんだし、あっちに移動しよう」
俺もサンドラ…サラでいいか。自己紹介して握手をする。
「じゃれてません、怒ってます」
「はいよ。ホラいつまで拗ねてんだい、シャキッとしな」
「拗ねてません、怒ってます」
こんな時のために我が家にはアレがあるのだ、そう。話し合いに最適の場所。こたつである。
「なんだいこりゃ、みょうちくりんなテーブルだね」
「こたつです。ロマさんが作ったんですよ、すごいでしょう」
「なんでアンタが自慢げなんだい、それに何がすごいのかさっぱりだ。しかしこの狭さはちょうどいいね、さすがセンセイだ。センスあるよ」
「それはどうも。まあ座りたまえ。ほらニア君も」
俺の正面にはロマ、左手にニア。そしてその正面にサラを迎えての布陣となった。ついに定員の四名を満たし、こたつの本領発揮というわけだ。
「はー、どっこらしょっと」
「姐さん、はしたないです。静かに座ってください」
皆が座ったのを確認して俺も運転席に腰を下ろす。いつも通りにこたつが音もなく起動し、じんわりとした感覚が下半身を支配する。ううむ、やはり気持ちがいい。
サラの尻尾がビンと立って、ゆっくりと下がり、ゆらゆらと揺れだす。どうやら気に入ってくれたようだ。
「なんだいこりゃあ、極楽じゃないか…センセイはすごいものを作るね…」
「そうです、ロマさんはすごいんですよ。ああ、あったかい…」
俺のセリフを取られてしまったが、両名ともリラックスできたようだ。これで円満にこたつ会議を始めることができるだろう。
「うん、落ち着いたところでこれからのことについて話し合おう。まずはボクから説明するよ。サラ君?聞いているかい?」
「ああ、まだ起きているよ。腹も膨れてこんなに気持ちいいんだ。寝るなってのはちと厳しい相談かもね…でもアタシも言いたいことがあるからそれまでは大丈夫さ」
「姐さん、ここで寝ちゃ駄目ですよ。お行儀が悪いです」
「はいはい、分かってるよ。起きているって言ったろう」
ニアの注意がここで良く寝てしまう常習犯の俺に刺さる、気づかないふりをしておこうと平静を装いながらロマを見る。ほら、さっさと議題に移ろう。
「まず、エリクサーとはどういったものか知っているかい?」
「いや、正確なところは聞いたこともないね。聞いた話じゃあ若返りだとか不老不死の薬だとか、酔っぱらいの与太話と思っていたもんさ」
不老不死は大げさだけれどもとロマは小さく笑いながら続ける。
「これは探索者がダンジョンで追い求める宝物の一つだよ。主に金銭目的でね。とにかく希少なものでダンジョンからしか産出しないのに、需要は天井知らず。王侯貴族の政治利用すらされるほどの品だ、これを服用した一般人はサラ君が世界で初めてかもねえ。だから間違ってもコレを使用したことを外で話してはならないよ。良くて実験動物だし、ボク達にも累が及ぶ」
「…随分とぶっ飛んだ話だね。分かった。アタシだって恩を仇で返すつもりはない、墓場まで持っていくことを誓うよ。しかし、実験動物ってのはどういうことだい?」
「治験記録すら秘匿されているからさ。エリクサーを人工的に再現しようと躍起になる連中もいる、ボクを含めてね。そんな連中とてこれを服用できるような大物への伝手もないし、あったとしても相手に大きな貸しを作ることになる。後ろ盾のないサラ君は彼らから見てどう映るかな、出所も気になるのが人のサガだろう」
「なるほど、センセイがアタシの体を気にしている理由がよーく分かったよ」
「よろしい。だからしばらくはここで観察させてもらうからね。またこれからどうあろうとも過去を捨ててもらうよ。自己紹介して早々にすまないが、名前もね」
「名前についてはそのままで問題ないよ、源氏名以外この街で名乗ったことはないからね、今日が初めてさ。尻尾を失った時に名前を封印したんだ、これはアタシの誇りでね。過去を捨てるってのは問題ない、いっそ清々する。ここにしばらくいるってことでアタシからも一ついいかい?」
「もちろんだよサラ君。応じられるかは分からないけどね」
「…アタシはすぐにここから離れた方がいいと思う。アタシをやった奴、アイツは札付きのワルだ。アタシを認識した上で襲ってきやがった。若返った顔をしていても気づかれちまうかもしれない、ダンナたちに迷惑をかけるのはごめんだよ。カネは後でどうにか作って返していくからさ」
「いけません!姐さんは…えっと、体も治ったばかりですし、えっと…」
それについては俺から説明しよう。そいつならすでに衛兵に引き渡してあるので心配はいらないことを伝える。ついでにお友達も一緒のところに送ったし、移動はハーミットケープでの隠密行動。そこら辺の後腐れは全くないので安心してほしい。
そうだ、そういえばサラの頼まれごとを忘れていたと席を外し、回収してきた手鏡を手渡す。金貨は回収できなかったので、補填するためどのくらいあったか教えて欲しいと付け加える。過去を捨てるという話だったのでねぐらを盛大に汚してしまった件は黙っておこう。
「ダンナ…無茶しちゃだめだよ…でもありがとう、大事なものだったんだ。金貨?バカだね…そんなもん気にしないよ。これの方が万倍大事さ…そうだ、ちょっと見てなって」
サラは手鏡を大事そうに抱えた後、木製の取っ手部分をかちゃかちゃといじり出す。やがて手鏡の背面部分を覆っていた部分が外れると、そこには一枚の大きな銀貨が入っていた。
「わ、すごい。初めて見ました」
「大白銀貨だよ、アタシの虎の子さ。アタシはこっちの手鏡で十分、これはせめてもの礼さ、受け取っとくれ」
サラから一枚の白銀貨を受け取る。あの程度のを斬っただけでこの報酬は破格だが、彼女の顔を立てるためにもここは大人しく受け取っておくことにする。
「一件落着、という事でいいかな。じゃあサラ君の体について話そうか、先ほどニア君に抱き着いてボクを尻尾で叩いていた時の話だけれどね、アレは意識的に行っていたのかな?」
「何の話だい?ダンナにキスした件なら謝ったじゃないか。それにダンナだって満更じゃなかっただろう?」
唇をペロリと舐めてこちらを見つめるサラを直視できずにこたつの天板を見つめる。とんでもない話題が回ってきてしまった…俺はなんて答えるのがいい?どうすれば無難に切り抜けられる?
俺は再び俯いて黙秘することを選び、相棒はあの時の感触を思い出しながら静かにお手上げのポーズを取った。




