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37.ロマの魔道具

「それでは、失礼いたします」



「旦那様、健闘を祈りますぞ」



 サーシャとサムの二人を見送り、なんだか肩の力が抜けた。



 それにしても彼には助けられてしまった。この歳になっても先達に頼ることができる環境のありがたさを噛み締める。なにか恩返しができると良いのだが。



 俺を除いた三人の話し合いの内容は不明ではあるものの、その様子から成功裏に終わったのだろう。サーシャからの個別呼び出しもキャンセルされてほっと一息といったところだ。



 しかし一息ついている暇はない。俺はサムから伝授された秘策の準備に取り掛かる。善は急げだ、とりあえず暖炉に薪をセットしよう。



「おや、暖炉かい。少し早いのじゃないかな」



「そうですよ、まだ全然平気です。寒いのなら三人でくっついていれば温かいですよ。節約です、節約」



「えぇ…ボクはちょっと恥ずかしいよ。家族なら普通?ふぅむ、そんなものなのかなあ」



 大変魅力的なお誘いだが、恐らく俺が和を乱すだろう。それに俺とて寒いわけではない。三人で、こう、ゆっくりと話し合う場を設けたいという事である。聞いた話では暖炉の前がいいらしいのだ。暖炉の前でゆっくり家族会議作戦を提案したい。



「情報共有する場を設けるのはボクも賛成だよ。でも暖炉の前の必要性はないと思うけどねえ。どうしてもというならば暖炉前までテーブルを移動するかい?キッチンからは離れてしまうが」



「そうです、暖炉前じゃなくても大丈夫です。そうだ、ご主人様の部屋にベッドをくっつけて置くのはどうですか?三人でも四人でも余裕を持って寛げますよ。えっと、ロマさんも自室を広く使えますし」



「部屋を広く使えるのはありがたいが、キミの部屋がベッドに占拠されてしまうねえ。それにボク達の寝る場所が無くなってしまうだろう」



「みんなで寝ればいいじゃないですか。温かいですし、節約です」



 ニアが節約の鬼になってしまった。苦労をかけてすまない…俺に稼ぎが無いばかりに…俺の部屋がどうなっても構わないが、ロマが難色を示すならこの話は一旦お預けである。そう、まさにこういったことを平和裏に解決していくためにも暖炉計画を進めるべきと確信する。



「聞きましたかロマさん」



「う、うん。まあ、それは一旦置いておくとしてだよ。暖炉前というのは暖かい場所で気が緩む、というかまあリラックスした状態で打ち合わせると良いという事だろう。探索中は少し緊張している位がちょうど良いが、相談内容によりけりかな」



「そうです、みんなでくっつきましょう」



「ニア君、最初に戻ってしまっているねえ、話を戻すよ。おほん、そこでだ。今ならばアレが使えるのじゃないかな?確か物置に仕舞っていたはずだろう」



 物置のアレ?記憶を掘り返していく、なるほどな……すみません、ヒントをいただけますか…



「ゲンジ君発案、ボク開発、悪魔のテーブル」



 思い出した。ロマの言う通り物置に仕舞ってあったはずだ。確かに今ならば使えるかもしれない。



 早速物置に走り、ごそごそと探す間もなくすぐに見つかった。でかいから目立つのである。



 それは大きな四角の板と骨組み、四本の短い脚で構成される不思議な家具であった。近くに丸めて保管していた布と毛布セットも一緒にリビングに運び込む。



「わ、なんですかこれ、え?何ですかこれ」



 ささっと組み立ててユニークな外見の家具が完成だ。踏み台にしてはでかすぎる、テーブルにしてはやたらに低い。絨毯代わりに厚地の布を重ね、クロスの代わりに毛布が使用されていてとても不格好に見える。



「これはね、ゲンジ君の故郷で使用されているという暖房器具を魔道具で再現したものだよ。本来は炭を使うとのことだったのだが、火の始末が面倒だし、密閉空間で使用すると中毒の恐れもあるからね。熱源の開発には苦労したものさ」



 とりあえず物は試しだ。俺は「運転席」前に陣取り、ニアはこの席に決して座ってはいけないと注意をする。



「?はい。じゃあ隣に、こう座ればいいんですか?」



「そうそう、ボクはこちらに座るよ。いやあ懐かしいねえ、じゃあ頼むよ」



 向かいに座ったロマの合図を受けて運転席に座るとテーブルの中がほの暗く発光する。この魔道具の動力源は人だ。つまり今は運転席に座る俺の魔力を使用して発動しているのである。



「わあ、じんわりあったかくなってきました。これもロマさんの発明品なんですね」



「温かいだろう?これはね、熱源に火の魔石や術式を使用するのではなく、光系統の物に手を加え、敢えて効率を落としたものを使用しているのさ。魔力から光への変換効率が著しく低く、無駄になった分が安定した熱源になっているのだよ。これを思いついた時は気持ちよかったなあ」



 まあ原理はよくわからないが、安心して使えるのはありがたいものだ。火の始末の心配があるのとないのでは大違いである。今の俺であればこの魔道具の問題点も無視できるものであるし、動力源は俺だから運転コストは無料みたいなものである。これには節約の鬼となったニアもにっこりだろう。ロマは全く良いものを作ってくれた。



「なんだか不思議と落ち着きます。熱すぎないからでしょうか、それに毛布もあったかくて…あふぅ、眠くなってしまいますね」



「ぁふう…ふふ、うつってしまったね。ゲンジ君が悪魔の暖房器具と称していたが、言いえて妙だ。おそらくは心地よい代わりに火や炭の不始末で命を奪うといったところだろう。魔道具化してその欠点を克服したと思いきや、一般人が長時間使用すると衰弱死する仕様になるとはねえ…なんとも業の深い…」



「え”!まずいじゃないですか!ああ、お二人とも早く出てください!死んでしまいます!!」



 ニアがロマの言葉に驚いて飛び出してしまった。衰弱死するのは運転席に座った一般人。あくまで魔力総量や回復力が一般的であればということであり、深層に挑んでいた我々からすれば命を脅かすものではない。というか、これを使用しながらでも魔力は回復する。その分回復が遅くなってしまうのと、六人には狭すぎるというのもあって現役中は日の目を見なかった物だったのだ。



「そうそう、彼の言う通り。それに長時間と言っただろう。一般人でも半日くらいは問題ない見込みだからね。だからまあ座りたまえ。当然ボクが運転席に座っても問題ないし、見立てではニア君でも問題ないが、彼とは別の理由で止めさせてもらうよ」



「そ、そうなんですか?……それじゃあ、失礼します……あぁ、あったかい…」



「あぁ…我ながら良いものを作ったと実感するねえ。とても売りに出せるような品ではないが、その代わりにコレを独り占めしていると考えれば贅沢じゃあないか」



 テーブルの下に入れている足がじんわりと温まる感覚はなんとも言い難い。まるでぬるめの風呂に浸かっているような心地よさに包まれながらロマの言葉に大きく頷く。



「さて、せっかくキミが立案してくれた場だ。一つ有効活用しようか」



 有効活用…?左を見ればニアがぽやぽやした顔で微笑んでいるし、正面テーブルの上に乗せられた双丘は眼福以外の何物でもない。まさにここがヴァルハラであり、これ以上何を求めるというのだろう。あまりに過ぎた欲望は身を亡ぼすものだ。



「キミ、忘れてしまったのかい?これは暖炉の代わりだろう…あと、ちょっと恥ずかしいよ」



 そう言われてテーブル上の絶景がロマの手により隠されてしまった。ほら見ろ、こんな幸せな空間に飽き足らず欲を出すから貴重なものを失ってしまうのだぞ。



「ああ、そういえばご主人様言っていましたね…幸せ家族計画でしたっけ」



 あれ、そんな名称だったっけ。暖炉というワードが入っていたような気がするが、可愛いニアがそういうのならそうだったかもしれない、大体合っているはずだ。



「キミは<暖炉の前でゆっくり家族会議><暖炉計画>と言っていたねえ。まあ家庭内を円滑に回すためのものだからニア君の表現も合っている。冬以外にも行っていくべきではあるが、第一回を記念して、テーブルの名前から<こたつ会議>とでもしようか」



 ああ、俺の代わりに考えてくれるロマはすごい。美人だし、その命名もきっとセンスがある。ニアと並んで俺にはもったいないくらいの素敵な女性だ…賛成です。



「へぇ…こたつっていうんですかこのテーブル。私こたつ大好きです。ご主人様とロマさんと一緒にこたつに入れて幸せです…」



 ニアの素直で純粋かつ清らかな心は我々の支えである。いつも可愛らしく、その言葉は皆を癒してくれている。いつまでもこの三人でこたつに入っていたい…



「…まったく、締まらない会議もあったものだねえ。まあ、確かに悪くないと思うよ」



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