32.夢
夜、就寝の時間である。
「ニア君、寝る前にボク達の話を聞いていると言っていたねえ。そういえば彼自身の話を聞いたことがあるかい?」
「言われてみれば聞いたことが無かったです。でも皆さんのお話大好きですよ。とっても仲がいいんだなっていうのを聞いてると、私も楽しくって」
「それは良かった。じゃあ今夜はボクが聞かせてあげよう。彼が語らない彼の物語をね」
ニアはロマと一緒に寝るようだ。ニア専用の部屋も早々に整えてやらねばなるまい。
俺はソファに深く腰を預けながら二人にお休みの挨拶をする。
どうにも相棒が不調だ。以前とは正反対の症状で、気を抜くとすぐに臨戦態勢を取ってしまうのである。こんな状況でこれまでの時間を取り戻そうとしないでいいから…
彼女たちが部屋に入っていくのを確認し、俺も中腰で自室へと向かう。
今日は本当にいろいろあった。ベッドに体を横たえようとするが、仰向けは視覚的に、うつ伏せは物理的に不都合が出る。自然と横向きになり一人膝を抱える様にして目を瞑った。
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ぼんやりと目を開く。あれ?今日は何をする日だっただろう。
もしかしてダンジョンに向かう日だったか?まずい、皆を待たせてしまう。
集合時間に遅れがちの俺はゲンジによく注意されていた。ロマも時間すれすれ組だが、彼女の方がわずかに早いことが多く、それよりも前に着けばギリギリセーフだ。
手早く身支度を整え、ブレストプレートを身に着けて完全武装完了だ。
待ち合わせはどこだっただろう、協会か?多分そうだ。とにかく外に出よう。
家の外に出るとマスターが立っていた。コイツはなんでこんな時間にこんなところにいるんだ?
「お前!こんな時間まで何やってんだよ!遅れるぞ、早く行こうぜ」
あれ、まだ一緒にパーティ組んでたっけ。もう解散したような。そうだ、集合場所はどこだっただろう、忘れてしまった。
「何言ってんだよ、今日はお前の結婚式だろうが!ニアちゃんとロマちゃんが待ってるぞ」
そっか、そういえば今日は二人との結婚式だった。
…血の気が引いた。おい!もう少し早く迎えに来るとかあるだろうが!さすがに結婚式に遅刻はシャレにならない。
「何回も起こしただろうが!お前の方が足早いんだからひとりで行け!走れ!」
おい!場所は!?
「俺の店だよ!行け!」
礼を言って全力で走る。見えた!戦乙女の看板だ!
スイングドアに体当たりするようにして店内に転がり込む。前にもこんなことをしたような気がするがデジャブだろう。そんなことをしたらオヤジさんに殴られる。
店の中を見回すとロマがいた。これはまずい…遅刻だ。しかしその格好はどうしたことだろう。
下着?にしては布面積が気持ち多いが、ワンピースにしてはあまりにも布が足りない。胸の上半分は完全にさらけ出されてしまっているし、スカート?の丈はへそ下までしか隠れていない。下も布地というよりは紐に布がくっついているという方が近いのだが…
総じてあまりにも扇情的な格好である。ええ?その格好はまずくないか、捕まってしまうぞ。俺は相棒を隠すため反射的に片膝をついた。
「明晰夢か。やれやれ…ボクの夢のくせに、ちっとも思い通りにならないとはねえ。キミまで出てきて早々に傅くとは…自分の裏側を見せられているようでなんとも複雑だよ」
ロマは何故かきわどすぎる格好をしているが、やはり気分を害しているようだ。無理もない。
とにかく遅刻してしまったことを謝る。ニアもやはり怒っているのだろうか、もしかして既に帰ってしまったのだろうか。
「遅刻?何の話かな。ニア君は見ていないよ、ふぅむ。まあボクの夢だ。少し待っていたまえ、呼び出してみようじゃないか」
さっきからロマと会話がかみ合わない。顔には出ていないが、これは相当頭にきているのだろう…なんとか機嫌を持ち直させるようにしないと、このままでは結婚式がめちゃくちゃになってしまう。
「ご主人様!やっと会えた!ああ、やっぱりその格好は素敵です!それにしてもこんなこと初めてだったなあ、いつもはすぐに会えるのに。あれ?ロマさんだ。わ、すごい格好。スタイルが良くないと恥ずかしくて着れないなあ…私ももっと胸が大きくなるかな」
良かった、ニアは帰っていなかったようだ。しかしなんだろう、いつもよりも砕けた感じというか、距離感が近いというか。接客業のせいか?翼が生えているからだろうか?…いや、もう結婚するほどだからな、こうなるのも普通か。
「ニア君、なんだか気安い感じだねえ。ボクの中では思慮深い子と認識しているつもりだったけれど、自己認識の甘さを痛感するよ。変な風に再現してしまってすまないね」
「えっと、ロマさんはイメージどおりでした!でもお話を聞いていた時は男の人だと思ってましたけど、まさかこんな美人な人だとは思っても見なかったなあ。最初は驚いちゃいましたけど、考えてみたら女の人で良かった!ご主人様と三人で楽しくしましょうね!」
「ふぅむ。その翼、短時間しか確認できなかったけれど、なかなか細部まで再現されているじゃないか。いや、ボクの想像で補ってしまっているのか。ちょっと触るね、ほほう。温かいし、見た目よりも柔らかいんだねえ。手触りも良い、ボクの手がシーツか毛布を撫でているのだろうけど」
「あはっ、くすぐったいですよ。そんなことをしちゃういけないロマさんにはお返しです」
「あっ、ダメだよ、ああ、謝るからやめておくれよ」
なんだ、唐突にキャットファイトが始まったぞ。お嫁さん二人の仲がよろしくて大変結構だが、俺は完全に動けなくなってしまった。あれ、でも我慢しなくてもいいのか?相棒もその遊びにまぜてまぜてと大はしゃぎである。いや、そういうことは結婚式を挙げた後にしないとダメだ、我慢だぞ。
盛り上がる二人は機嫌も持ち直してくれたようだし、今日の結婚式について聞いてみよう。
「ええ?結婚式?この三人でかい?いやはや…我ながら何というか…ふぅむ。ボクも楽しんでしまいたいのは山々なのだけれどもねえ。目を覚ました時にひどくこう、やるせない気持ちになりそうじゃないか」
「名案ですね!さすがご主人様、また結婚式しましょう!きっと何回やっても良いですよ」
くそ、俺の頭が悪いせいか話についていけない。多分下半身に血が集まりすぎているからだ、まずは目を瞑ろう。眼前の光景を目にしていてはいつまでたっても血が足らない。
「じゃあ、誓いのキスからいきましょう。今日は特別にロマさんからどうぞ!夜の方の初めても譲りますから二回目と三回目は私でいいですよね?あ、三回目はみんなでしましょうか、きっと楽しいですよ。その後は流れで、ご主人様には頑張ってもらわないとですね」
「はあ…ノワール君から変な知識を仕入れるべきではなかったかもしれないねえ。知らないままであればここまで頭の悪い想像を見せられて落ち込むことも無かったろうに」
「ほら、ご主人様も立って立って、ロマさんからお願いしますね」
俺はニアに腕を取られて反射的に立ち上がってしまった。いや、考えてみれば今は完全武装中だ。相棒の臨戦態勢がバレるはずがないのである、大丈夫だ、問題ない。
「ほ、ほほう…やはりさっきの一件はボクに印象深く刷り込まれてしまったと見える。まったく、キミは罪な男だねえ」
「わあ!ご主人様、準備万端!じょうざいせんじゅう?ですね、こっちも準備しないと」
常在戦場のことだろう、まあ結婚式に完全武装している程だからな。二人の視線につられて下を見ると、俺は下半身に何も身に着けてはおらず、相棒と目が合ったような気がした。
嘘だろ!俺は下半身裸で外を走ってきたとでもいうのか!!
マスター!お前は指摘しろよ!ふざけてんのか!?
「はーい、ロマさんこっちを見てください。大丈夫ですよ、きっと上手く出来ます。ご主人様も、ロマさんも、私も。もちろん初めてですけど、素敵な初夜にしましょうね」




