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第67話 予期せぬ事態

「うーん……やっぱり、今日もお客さん少ないね……」


 ウワサ騒動やアウリーサ洞窟でのいざこざなど色々あった日から一夜明けて、ティティルナはいつも通りにお店を開けたが、予測していた通り客足は鈍いままであった。


「まだ昼前だし、きっとこれから忙しくなるって。そうだ、オレ呼び込みしようか?」

「そうにゃ!タダで泊めてやってご飯まで食べさせてやったんだからそれくらい当然やるにゃ!!」


 怪我をしてるから何かと不便だろうという理由で、昨日カーステン家に泊まっていたジェラミーは、泊めてもらったお礼を兼ねて、今日はティティルナを手伝って一緒にお店に立っていた。

 前日、あんなに頑なに存在を認めなかったミッケとも、もはや気にする事をなく、普通に会話をしていた。


「ミッケ!ジェラミーさんは怪我してるのよ?無理させないの。それに、ご飯って言っても余ったパンが勿体なかっただけなんだから。」

「ティニャは甘いにゃ!在庫処分だったとしても、ここはめいいっぱい恩を売っておくにゃ!!」

「おーい、聞こえてるぞ、化け猫。そう言うのは本人に聞こえないところで言うんだぞ。」

「化け猫言うにゃ!!」

「痛っ!引っ掻きやがったな、この暴力猫!!」

「ふふ、ミッケったらすっかりジェラミーさんに懐いて。」

「どこが?!」「どこがにゃ?!」


 こんな風になんて事のない会話をしながら、二人と一匹は、客が居ないながらも明るく和気藹々と店番をしていた。


 けれども、昼の時間が近づくにつれて、ティティルナは段々と落ち着きをなくしソワソワしだしたのだった。


「ねぇ、お兄ちゃんちょっと帰って来るの遅く無いかな?」


 ティティルナは、ここにいない兄について心配をしていたのだ。


 ティルミオは直ぐにでも女王アリの宝玉を換金したいと、朝一番でギルドに出かけて行ったのだが、彼が出掛けてから既に二時間は経っているのに未だ帰って来ないのだ。


 魔物素材を換金するだけなのでこんなに時間が掛かるはおかしい筈だと、ティティルナは兄の身を案じていた。


「確かにな。何かトラブルでもあったんかな……」

「どうしよう。昨日言ってたお兄ちゃんに嫌がらせをして来た人達にまた絡まれてたりしないかな?」

「流石にそれは無いと思うけど……アイツらちゃんと捕まってたし。」

「じゃあ、ギルドで大金を手にする所を見てた人に襲われたとか……」

「うーん……その可能性はあるかもだけど……」


 ティルミオが帰って来ない事に胸騒ぎを覚えて、ティティルナは頭に過ぎる不穏な考えを、ジェラミーに次々にぶつけていった。


 するとその時だった。


「失礼するよ。」


 カーステン商店を担当している役人のオデール・サーヴォルトが、神妙な面持ち入ってきたのだ。


「あ、いらっしゃ……って、サーヴォルトさん。えっと……何かあったんですか?」


 店に入って来たオデールの表情を見て、ティティルナは何か只事では無い気配を察知して、不安そうに声を掛けた。


 するとオデールは、表情を和らげる事なく、難しい顔のまま、ゆっくりと口を開いたのだった。


「ティティルナさん。君たち兄妹は、私に言っていない事が有りますよね……?」

「えっ……?」


 重苦しい雰囲気の中、オデールに問われた事が、一体何のことだか分からずに、ティティルナは頭にハテナを浮かべた。

 けれども、それから直ぐにハッと気付いて、ティティルナは慌てて隣に居るジェラミーの事をオデールに紹介したのだった。


「あっ、そうですよね。ご存知ないですよね、紹介します。こちらジェラミーさんって言って、お兄ちゃんと一緒にパーティー組んでギルドの仕事をしてる人です。今日はお店手伝って貰ってます。」

「えっと……どうも?」


 ティティルナに紹介されてジェラミーが困惑気味にペコリと頭を下げると、釣られてオデールも頭を下げた。


「あっ、そうなんですね。初めまして。私はオデール・サーヴォルトと言って、このお店の担当を……ってそうでは無くてですね!」

「えっ、違うのですか?」


 てっきりオデールの言う、”彼に言っていない事”とはジェラミーの事だと思っていたので、違うと言われてティティルナは再び頭にハテナを浮かべて考え始めてしまった。

 だってオデールに言っていない事が他に思い付かないのだ。


「にゃんにゃのだ役人。一体にゃにが言いたいんだにゃ?!」


 オデールの言いたい事が分からないのはティティルナだけでは無く側で聞いていたミッケも同様だったみたいで、ミッケは少し不機嫌そうに尻尾をバタバタさせながら、用件を早く言う様にと迫った。


 するとオデールは、自分が言葉足らずであった事を反省すると、ここへ来た理由がティティルナたちにも分かるように、一から順を追って説明を始めたのだった。


「そうでしたね、すみません。先ずはコレをお伝えしないとね。いいですか、ティティルナさん。心して聞いてください。」

「な……何をですか……?」


 オデールの雰囲気に呑まれて、ティティルナたちは固唾を飲んで、彼の次の言葉を待った。

 するとオデールは、とんでもない事を言い出したのだ。


「ティルミオ君が、兵士に拘束されました。」


「「何で?!」」「何でにゃ?!」


 それは本当に、まったく予想していなかった事態であった。

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