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異電無頼結戦 ファントム・デストラクター  作者: 植木 早苗
序章 旅路の果て Journey’s end
8/10

第八話

 タイタンは依頼人から報酬を受け取ったそのあしで、キャピトルヒル自治区にある、グレムリンの私邸へ向かう。


「グリアン、はいるぞ」


 玄関を開けるとゴミ部屋。

このゴミ屋敷の一室は部屋一面がディズプレイになっている。

その部屋にはクッションがよくきいている豪華なゲーミングチェアに座った、女性。

年の頃は20代前半、ストレートに伸びるシルバーブロンドの髪を乱雑に伸ばしている。

座っているので背の高さはわからないが、猫背のせいか、本当の身長より小さく見える。

耳の先端が特徴的に尖っている。

それは彼女がエルフであることの証左だ。

エルフにしては体型はふくよかだ。

ふくよかは控えめな表現かもしれない。

上半身から下半身にかけて、胸周りと腹周りと尻周りは直線でつながっている。

それが細身であればスレンダーと呼ばれるのだろうが、

胸も腹も尻も肉付きがあまりに良すぎる。


 まわりくどい言い方はやめて端的に言ったら肥満体だ。


 買い物はネットですませ、食事は主にジャンクスナックかシリアルバー。

飲み物はエナジードリンクだ。

掃除はしない。

年がら年中、座ったままでネットにダイブしていれば、いかにエルフといえどこの体型になるのは必然であると言える。

ネットにダイブする時は網膜(レティナ)ディスプレイでダイブするので、この壁一面のディスプレイは別にいらないし、特に意味はない、らしい。

グレムリンいわく雰囲気がでるから、らしい。


 タイタンにはそう説明しているが、実際にはディスプレイは何分割にもわかれていてさまざまなニュースやらどこかの監視カメラの映像やらネット動画やらSNSやら株価情報やらを絶え間なく表示している。

グレムリンは表示された情報をすべてリアルタイムに把握して仕事に役立てているのだ。

 

 いつ来てもゴミ屋敷なのにあきれて、タイタンは「少しは片付けろ」とぼやく。

「エントロピー増大の法則によると、宇宙は常に膨張しているんだよ。この部屋のゴミも熱力学の第二法則にしたがっているだけだよ。この世界は常に無秩序に近づいている」

「片付ければエントロピーは減少するだろ。少なくとも俺が片付けてる間はな」

「キミこそがマクスウェルの悪魔だね」


 グレムリンに食料品や日用品、宅配便や郵便物を渡す。

――ここに来る途中で買い出しをしてきたのだ。

ついでにあっちこっちの宅配ボックスに配達されていた宅配便や郵便物も回収してきた。


 グレムリンはネットで注文するが、自宅に届けない。

なぜなら宅配でネットへのダイブが中断されるのがイヤだから。

別に自宅を知られたくないわけじゃないらしい。

それでタイタンがあちらこちらで間借りしている宅配スペースから回収して渡すのが常なのだ。

宅配スペースに置くなら玄関の前に置くのと変わらないと思うかも知れないが、グレムリンの注文量はちょっとおかしいくらいに大量だ。

玄関の前があっというまに埋まってしまう。

だから宅配スペースの容量ごとに自動的に注文品をサイズに応じて振り分けるマクロを組んで注文している、とのことだ。

タイタンが宅配スペースからグレムンに届けた後の荷物は、結局、別の部屋に山積みになるだけなのだが……。


 ついでにタイタンは蒐集品(コレクトグッズ)のモンスターのオブジェの検索リストに「21世紀初頭モデルのひとつめちゃん」を追加する。

このオブジェはシリアルナンバー入りで、販売されたすべてが一点物のレアものだ。

造形物の作者(クリエイター)が転売禁止としたため、前の所有者の遺品がごくまれにオークションでやりとりされる。

グレムリンはこのリストにあるオブジェを常にネット上で検索して、オークションや通販サイトに出品されると即座に落札、購入の手続きをする。

よっぽどの身の程知らずの高値がついてない限りはとりあえず入手しておくのだ。

そうして、タイタンの目利き通りの値段であればタイタンが引き取る。

値段が釣り合わなければどこかのサイトに出品して流通させる。

そんなことは滅多にないが。

グレムリンは出品、販売された品の出自を調査して裏どりをとってから購入するので、に贋作をつかむ心配は皆無だ。

信頼は積み上げられた実績だ。

だからこそ、タイタンはほとんどの場合、グレムリンの言い値でモンスターオブジェを購入する。


「神は、我々を人間にするために、何らかの欠点を与える。ってことだな」

「なんか言った?」

「なんでもない」


 グレムリンの私邸を清掃し、各部屋のゴミを片づけてひとまとめにする。

タイタンがこの一軒家を掃除をする必要も無いし、グレムリンはゴミ屋敷のままでも暮らしていける。

だがタイタンは掃除せずにいられないし、ゴミを片付けずにはいれらない。

それは単なる性分なのだ。


 実はグレムリンはこの邸宅を購入するまで、賃貸を転々としていた。

グレムリンはほとんど身一つで入居するため、どの賃貸も借りた当初は荷物もなく、広々としたスペースなのだが、徐々にゴミに浸食され、足の踏み場もなくなる。

片付けようとか捨てようとか、そもそもそういう発想がグレムリンにはないのだ。

そのためゴミは積み上がっていく。

ゴミの中から必要なものを探すのは面倒なので、必要な時に必要なものは新たに注文し、そうしてまたゴミが積み上がっていく。

時間の経過と共にゴミで部屋の中が身動きできなくなるか、床が抜けるか……どちらにしても、どうしようもなくなると部屋をそのままにして行方をくらまして引っ越す、ということを繰り返していた。


 引っ越すこと93回。


 もはやどんなに経歴を偽装しても部屋が借りられなくなり、今の一軒家を購入した。

グレムリンからしてみると、この家がゴミに埋もれたらまた次の家を購入すれば良いくらいにしか思っていない。

もちろん、引っ越しが先に延ばせるなら、いくらでも先に延ばしたいとは思っている。

引っ越すくらいの金があるなら、ハウスキーパーでも雇えば良いと思うが、知らない人間が出入りする事(ついでにハウスキーパーは絶対に小言を言う)とゴミが増える事を比べたら後者に軍配が上がる。

タイタンがなにも言わなくても、毎週のように掃除してゴミを片付けてくれることには感謝しても感謝したりないとも思っているが、自分で片付けようとは思いつきもしない。

そんなわけでグレムリンの住まう場所はつねにゴミ屋敷になっている。


 今週も掃除した結果、ゴミはかなりの量になった。


「じゃあ、ゴミを捨てながら帰るわ。また、様子見に来るからなるべくゴミはまとめとけよ。片付けておけとは言わないから」

「ありがとう。前向きに検討するよ」

「……検討はいいけど、そのあと実行しろよ……期待はしてないけどな」

「”期待はあらゆる苦悩のもと”、だよ」


 なにか言いかけて、あきれ顔のまま、タイタンは集めたゴミを玄関にまとめる。

そのままゴミを持ち出し、途中のゴミ収集ボックスに捨てる。

ゴミの分別は必要ない。

21世紀の初頭までゴミの分別は捨てる側の仕事だったらしい。

今は自動運転の回収車がすべてを回収し、回収後にAIが分別して適切に処分される。



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