みことヴァイオレーション 第一章 -principium-
さっそく本編ですね!主人公が初登場します!
ただ、ちょっと覚えにくい名前かも...
世界観もここで明らかになります。まあ異能力ものなうえに世界観が未来なので、造語が増えていくと思いますがそこはあまり気にせずに読んでください(汗)
第一章 -principium-
1
今から88年前。丁度二回目の東京オリンピックの年、日本で初めて【能力】が確認された。当時確認された能力は今でいう《加速》等の肉体強化系の能力だった。
政府はこれを極秘で研究し、そして2042年。遂に人工的に能力者を生み出す技術を開発し、それを公表した。
それでも最初は指先からライター程度の火を出したり、スタンガン程度の放電しかできなかった。
しかしそんな中でも、極めて強い能力を有する者が現れ始めた。
政府はそれを【超常者】(オーバー)と名付け、そして国内の至るところに育成機関を設けた。
今では、兵器さえも凌ぐ能力を持った超常者も現れ、日本は世界の一歩先を進む最先進国となった。
勿論そうなれば、敵は多い。…………というか、日本国内には既に山ほどの不法組織が存在し、日々暗躍している。俺が通う水無月学園も、国内最先端の能力者育成施設兼開発研究機関だからなのか、日常のごとく不法組織からの襲撃を受ける。
そのため、それを毎度毎度撃退しなくてはならない。普通そういうのは国の軍隊とか警察がやるべきことだろう。しかし───
「【発火】!!」
「くっ……!!」
ゴオオオオオッ!!
───この俺如月津槙は生徒であるにも関わらず、襲撃者と戦わせられていた。
第一章
1.
「ちぃっ!!ちょこまかと!!」
【発火者】の襲撃者は苛立った様子で大量の火球を飛ばしてくる。
「っ.........!!」
飛んでくる火球を冷静に見極め、最低限の動きで躱す。
他にも襲撃者はいたのだが、今は全員地面で伸びている。
「うおおおおっ!!」
再び襲撃者が火球を飛ばす。まるでマシンガンを撃っているかのようなテンポで火球の嵐が荒れ狂うが、どれも全く狙っていない。数撃ちや当たるという考えなのだろうか。
いちいち避けるのも面倒だ。
「ふっ…!!」
避けるのではなく、当たりそうなものだけ斬り落としながら襲撃者に向かって一直線に走る。
「なっ!?」
予想外の行動に驚いたのか、一瞬だけ怯む襲撃者。その隙を逃さず、懐に潜り込む。
そして左手だけ刀から手を離し、掌を襲撃者の腹部に叩きつける。
ドスッ
「あ……………………」
襲撃者の身体から力が抜け、その場に崩れ落ちる。
乱れたワイシャツを整え、あたりを見回す。ずっと通用門前の駐輪場で戦っていたのだが、はっきり言って酷い有様だ。アスファルトは一部捲れ上がり、垣根もめちゃくちゃ。校庭を囲うネットの柱も二本ほど折れている。
「シラハ。どうだ?まだいるか?」
虚空に向かって話しかける。しかし、ただ独り言を言っている訳ではない。
『そうじゃな。あとは体育館で新入生たちが相手をしておるやつだけじゃ』
少女のような高いトーンの声に似合わない爺さん口調が聞こえ、俺のワイシャツの襟から一匹の白蛇が顔を出した。
こいつが白刃だ。
「しっかし、雑なやつらだな。全く統制がとれていないうえに個々の技術も最低だった」
『まあどうせ、誰かに雇われただけの連中なんじゃろうな』
地に伏して動かなくなった襲撃者が持っていた銃や着ている戦闘服確認してみると、案の定ネットで簡単に手に入る安物だった。
「なるほどな、確かにそうらしい。………じゃあそろそろ体育館の方の応援に………」
そこまで言いかけたその時だった。
ドオオオオオオオンッッッ!!!!
二階にある体育館から大音量の爆発音が鳴り響き、黒煙が上がった。
「い…嫌な予感………」
階段を駆け上がり、体育館に飛び込む。そして視界に入ったのは、限りなく全壊に近い半壊状態の体育館だった。天井は崩落し、壁も半分以上が崩れ去っている。普段なら湿気がこもってしまう体育館だが、今だけはとても風通しが良くなっていた。
床もところどころに穴が開き、焼け爛れている。
ポン
突然肩に手を置かれ振り向くと、同情の表情をした一人の女性がいた。俺のクラスの担任で、『鋼の女』の異名を持つ実践担当教官。武田咲だ。
「あのー、教官?まさかとは思いますけど…………」
「そのまさかだ」
教官は溜息をつき、ぽんぽん、と再び俺の肩を優しく叩いた。この人がここまで優しいのは、最高に気分が良いときかもしくは、本気で人を哀れむときだ。
そして今日のは後者だろう。直感で分かる。
「後片付け、頼むぞ。“雑用”」
…そう。俺が感じていた嫌な予感とはこれだ。つまり、“この酷い有様の体育館の瓦礫を、全て俺一人で撤去しろ。”ということだ。
「うーそーだーろおおおおおぉぉおォォォおお!?」
風通しが良くなった体育館に、俺の叫びが空しく響きわたった。
ガラガラガラ………
瓦礫の山が時折崩れる。修理代、どれぐらい掛かるんだろうな……。まあ、国立学園だから、国から金が出るのかな?……ってことは税金から出るのか。なんか複雑だな……。
瓦礫を抱え、外に出す。この作業を何度も繰り返す。
俺の身長の倍ある瓦礫も、俺一人で運ばなければならない。せめてもう一人いれば助かるんだけどなあ……。やっぱ雑用一人は辛いだろ。
そんな風に、心の中で愚痴っていたそのときだった。
「やっほー、ツマキくん♪」
「………?」
声がした方を振り向くと、一人のスーツ姿の女性が一際でかい瓦礫の上に立っていた。
腰まで伸びた茶髪を後ろで一つに纏めており、スタイリッシュなスーツがよく似合っている。能力庁の監察官、平賀鈿女だ。
「平賀さん、お久しぶりです」
「久しぶりだねぇ?」
この学園で問題が起きる度、この人は監察官として現場に来る。そして俺は毎度後片付けに駆り出されるため、なんだかんだでこの人とは顔見知りだ。
「今日も後片付け?大変だねぇ?」
「まあ、一応給料貰ってるんであんまり文句は言えないんですけどね……」
鉄材を肩に担ぎ、崩れた壁から外に投げ捨てる。瓦礫が大きな音を立て、他の瓦礫の上に落下した。
「お、シラハちゃん」
「ぬ?お、平賀じゃな。久しぶりじゃのう」
瓦礫に腰掛け、欠伸をしていた白刃に平賀さんが声を掛ける。なんだかんだで白刃とも顔見知りだ。
「色々学園側から説明があるのじゃろう?行かなくてよいのかの?」
「退屈だし、もう一人に任せてるから大丈夫だよー」
「………職務放棄にはならぬのか?」
「あはははは。…………あー、ちょっとまずいかも」
じゃあ職務に戻れよ。今のご時世色々就職難なんだから転職とか簡単にできないぞ?
なんてことを口には出せないので、とりあえず苦笑いだけしておく。
「早く行った方が良いんじゃないですか?学園側から政府の方に言われちゃったら色々まずいと思うんですけど」
「まあ、そこは監察官の立場を利用してなんとかするよ」
「………職権乱用め」
「あはははははは♪」
なんの悪気も無さそうな、無邪気な表情で笑う平賀さん。……まさか、本気で悪気が無いんだろうか………。
「でもまあ、やっぱり行かないとまずいよねえ……」
「そりゃそうですよ」
「そっかー。じゃ、またねー」
軽く手を振り、そのままあっさりと平賀さんは体育館から出ていった。
「……相変わらずマイペースな人じゃな」
「確かに」
結局、瓦礫の撤去作業は日が変わるまで終わらなかった。まさかの十二時間以上寝ずの作業だったよこのやろう。
「ふああ……もう終わったのかの?」
いつの間に用意したのか、瓦礫に毛布を掛けて作った即席の枕で寝ていた白羽が目を擦りながら伸びをした。今は白蛇ではなく十歳前後の少女の姿だ。白い肌、白い髪、紅い両目に巫女装束。とにかく、色彩が白と赤しかない。
「……呑気で良いよな、全く」
「まあ、雑用などわしの仕事ではないからの」
「くそ……まあいいや。ほら、帰るぞ」
「うむ」
白羽は再び白蛇の姿になり、俺の肩によじ登った。
「目立たないように上着の中に隠れてろよ?」
「分かっておる」
まだ冷たい春の夜風を受けながら、俺は水無月学園を後にした。
………夜っていうか早朝だけど。
「はあっはあっはあっ……」
激しく息をしながら、そっと目を開ける。
「っ………!!」
周囲は、まさしく血の海という表現がぴったりだった。広大なゴミ置き場と思われるそこの一角は、生臭い鉄っぽい匂いが充満していた。見渡す限り、見えるのは
赤、朱、紅、緋、赫。
時折ぐちゃぐちゃの塊が転がっているが、果たしてそれがいったいなんだったのか。それ以前に、元々こんな見た目だったのかそうじゃなかったのかすらも分らない。
「くっ……うっ……」
脚に力が入らなくなり、膝を付いて座り込む。ビチャッという嫌な音と共に赫が飛び散った。
「あっ……あああああ………」
血で真っ赤に染まった両手を見る。その赤色が、あの記憶を呼び覚ます。眠る度に夢に見てしまう、一番封じ込めたい記憶。
「ああああああああああああっ!!」
胸が苦しい、息ができない。
目眩がし、嘔吐感までしてきた。
怖い。目の前のぐちゃぐちゃの塊が怖い。充満する臭いが怖い。手を赤く染める液体が怖い。………自分が怖い。怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわい。
視界がぼやけ、体中の感覚が麻痺する。肩と脇腹から、大量の鮮血が溢れ続ける。
「………………」
ゆっくりと、地面に倒れ込む。そして、意識は闇の中に落ちていった。
はい。主人公の境遇でした。
最後のはプロローグで出てきた人です。次でその正体が明らかに!?(笑)
あとヒロインの登場もそろそろかなー。(シラハはヒロインじゃないんですよ)