酒場で楽しく話し合い
「で、いくら出せんの?」
カルディナさんはテーブルに腰掛けると、さっさと聞いてきた。クロさんに静かな場所と指定を受けていながら、連れて来られたのは騒がしい酒場だ。
少々、クロさんが不機嫌になったが、彼女曰く、少しは騒がしいほうが内緒話には向いているそうだ。
「悪いことするのに、悪いことしそうにやってたら駄目よ。悪いことしてますって、言ってるようなもんでしょ?」
そんな風に言われては納得するしかないのだが、悪いことはやはり抵抗があるので、ぎこちなくなっていないか心配だ。
そうしながら、カルディナさんが注文をする。
お肉がおいしいらしい。
それ以外にも、この国境の街には帝国との交易で色々と品が手に入るらしく珍しいものも多いと教えてくれた。
しばらくして、注文が揃う。
美味しそうな匂いがする。
ローストチキンに見えるそれに手をつけて口に運ぶ。味は薄目だが、口に入れると香草の匂いが広がる。旨い、白米はどこだ。
パンしかないのは不満だが、間違いなく旨い。
幸せだ。
そんな余韻を打ち破るように、クロさんがテーブルに袋を落とした。
中身の詰まった音がする。
それをカルディナさんが手に取り、中身を確認する。
「ぶっ!ちょ、マジで?君ら、主人でも殺したの?」
「そんなことはしない、足りるの?」
「ふーん、まあ、いいや。こんだけあるなら、問題なーし。さて、私の取り分って……なに?」
ニナさんが、スッと。袋を取り上げた。
クロさんが静かに言う。
「私たちは情報が欲しいといっただけなのに、なぜそんなに金がいる?」
言われてみればそうだ。
僕らはまだ、本題を話していない。
「えー、子供がこんなお金出して。情報出せなんてヤバいヤマに決まってるじゃーん」
「どこかの貴族の遊びだとは思わない?」
クロさんの問いにカルディナさんは手に持ったグラスを傾けて喉を鳴らす。
「この国の貴族は首輪もしない獣人を連れ歩かないよ。例外はあるけど」
少し、悲しそうな顔をしているように僕には見えた。
それより驚いたのは、街に入ってから、ニナさんはフードを外していない。出来るだけ目立たないようにもしていたはずだが、カルディナさんは気がついていた。
最初に見た姿が情けなさ過ぎたせいか、凄い人としての印象か無さすぎた。
「こう見えて、B級の冒険者なのよー。なめんなガキども」
余裕を持った笑みにどこか恐ろしいものを感じる。底が知れない恐ろしさがある。
が。
「で、カルディナ?私達の話を聞いて、情報を売る気はあるの?使えないなら、ここの払いも持つ気はない」
「ぜひ、顎で使っていただけないですか!?いえ、なんなりとね!はい!」
良く考えれば、情報が売れなくて困るのは彼女である。僕らが仕事を振らなければ、奴隷になるのが決まるのだ。
余裕ぶって酒まで飲んでいるが、やはり駄目な大人である。
「で、いや。もう予想はついてるけどさ。なに?三人で帝国行くなら、正門通ればいいじゃん?他にもヤバい奴でもいるの?」
「ええ、通行するのに手間がいりそうなの。無茶を通せる業者はいない?」
クロさんが外交モードの笑顔で言った。
それを見て、にやけた顔でカルディナさんが言う。
「うーん、普通はリヨンが3枚あれば三人くらい平気なんだけど…………。物によるよねー」
笑顔のままクロさんが、懐から一枚金貨を取り出して、テーブルに置いた。
先日、投げた記憶がある。
「マッ!?そんなもんまで、あんたら。マジ、誰殺したのよ?」
「真っ当に素材を売買した結果」
流石にカルディナさんが、引き始めた。
確かに子供が札束をちらつかせて、何も言わずに働けと行ってきたら誰でも引くか。
彼女が悩んでいるとクロさんがトドメを放った。
「無事に帝国に渡れれば、さらに一枚出す。あなたにね」
「全身全霊で働くわ!任せなさい!」
大人が金になびく瞬間は、なぜか虚しく見えた。
こんな大人にはならないようにしよう。
この世界に来てから、こんな風に思うのは何回目だろうか。
「まあ、とりあえず。ブツだけ確認させてね。業者の規模は最高のに頼むけど、相手の都合もあるだろうし。あっ、ここのお支払も頼んだ!」
しかし。
彼女の笑顔は非常にいい。
何よりも人を惹き付ける魅力があった。
その証拠にこの酒場に入ったとき、かなりの人に話し掛けられ、誰もが親しみを込めて笑いかけていた。
なにより、話を進められてクロさんが文句を言わないのだ。
これは断る話ではない。
「とりあえず、明日。業者連れてくから逃げないでよ!」
「こちらのセリフ。食うだけ食って逃げるなよ」
「オーケー、とりあえずかんぱーい!」
カルディナさんが、ジョッキをクロさんのグラスに当てる。ニナさんもジョッキを掲げて、彼女と楽しそうに笑った。
翌日、ギンにあったらどんな顔をするのか。
今から楽しみだ。
この時は、なんとか物事が上手く進むような。
そんな気がしていた。




