前を向く
車輪の壊れた馬車を乗り捨てて、荷物はギンと僕が手分けして持つことにした。
あの後、ディルゴは気を失っていたようでニナさんが怪我を手当てしていた。
「ちかくにサリーも置いたから、魔物はよってこないよー」
「ですかね」
ずっと黙っているクロさんの代わりに、ニナさんがずっと話しかけてくれている。
思ったよりへこんでるように見えてるのかも知れない。顔を上げる。
野営地からは、もう随分と離れた。
その間、もう少しやりようがあったのではと後悔もあった。何しろ手懸かりも何もない旅だ。
王都の方が情報が手に入った可能性だってあったはずなのだ。
逃れられなくなる可能性があるとはいえ、もう少し考えるべきだったかも知れない。
ああ、ダメだ。ちょっとへこんできた。
「くらいにゃー」
頬をつつかれる。振り返ると、ギンはあくびをしていて、引き摺っている荷物の上に、いつの間にかクロさんが乗っている。
ニナさんが仕方がないと、一息ついて、何かを取り出した。
「そんにゃ、あなたにー。はい」
「これ……」
それはディルゴが構えていたナイフだった。
「刃部分、みてみてー」
言われるがまま、見てみると文字が刻まれている。
あるのあ、いかいのけんきゅうあり
「アルノア、異界の研究あり?」
そんな風に読めた。
「アルノアは、魔道の街」
クロさんがようやく口を開いたら。
「帝国にある。ティラーナにいく、通り道。異界の研究は初耳」
意味が理解できて、嬉しくなった。
しかし、ナイフに文字を刻むとはどんな荒業だ。
「信じるの?」
「信じられる人だと思いますよ」
「じゃあ、行きましょう」
あっさりと目的地は決まった。
いく先が決まると、前は向けるものだ。
向かなければ、歩けない。
「ニナさん、これ。それにしても、いつの間に」
「手当てして、最後にサリーおきに行った時に気がついたのー」
狸寝入りとは、狼の癖に。
なんて大人だ。
また、会えるだろうか。
今度は友人として会えればいい。




