ザルな脱出、赤い閃光
牢屋から出て、通路を進む。
僕やディルゴを捕まえた際、かなり派手な行動を起こしたわりに見張りがついていない。
先程もかなり騒いだのに誰も来ないのは、不自然だ。
元々、計画性などないのかも知れない。
石造りの壁。通路は、ほぼ一本道だ。
少し歩いただけで、階段が見えた。
のぼりの階段をあがる。
木製の扉が見えた。
「シロ坊、俺が先に行く」
僕とクロさんの後ろを歩いていたディルゴが、前に出た。扉に耳をあてて、慎重にドアノブに手をかける。扉が少し動いた。鍵がかかっていないようだ。あまりにも無用心で、逆に落ち着かない。
なにか、罠がありそうだ。
そこで、外から音が漏れてきた。
「騒がしいな」
ディルゴも気がついたようで、空気が引き締まる。警戒が高まり、慎重に扉を開ける。
「おいおい…………。こりゃあ」
僕とクロさんも扉を抜けて、外を見る。
見覚えのある景色だ。酒場に、受付。
「ギルド会館。かな?」
僕の言葉にクロさんが、頷いた。
僕たちが捕らわれたのは、冒険者ギルドの地下牢だったようだ。
だが、おかしい。
明かりが灯っているのに、酒場には客がひとりもいない。槍のオッサン達は、この時間まで酒盛りをしていた。この街の住人が真面目というわけでもないだろう。
「外だな」
ディルゴの一言で、進む。
ギルド会館の外には、夜に似合わないほどの喧騒があった。
ディルゴが、また驚いた。
「竜!?」
荷台をひいた竜。
ギンが外を走り回っていた。
車の中から女性の悲鳴が聞こえる。
ニナさんも一緒だ。
それを追いかける一団が見えた。
全員、武器を持っている。
だが、皆、ズタボロだ。
街の様子をみると、所々に人が倒れている。
一人や二人ではない。かなりの人数だ。
これをギンが一人。もとい、一匹でやったのだとすれば、僕の予感は間違っていなかった。
あいつは、やはり、頼りになるやつだったのだ。
「ギン!」
僕の叫びに気づいたギンが、方向転換して、こちらを向く。しかし、戻ってくればギルド会館前で、ギンを追っている集団と鉢合わせる。
そう考えた瞬間に寒気に襲われた。
ギンは振り向いて、制止すると口を開ける。
とっさにクロさんとディルゴを掴んでギルド会館に戻る。
赤い閃光が走り、着弾とともに爆発した。
前に富士の総合火力演習で聞いた炸裂音を思い出す。それが外、扉一枚の向こう側で響いた。
少しして、車輪の回る音が近づく。
慌てて外に出ると、ギンの姿があった。
彼は顔を僕に擦り付けてきた。
なにやら、嬉しそう。褒めて貰いたそうにしているので、頭を撫でる。すると、嬉しそうに鳴き声を出した。
首を捻って、集団がいた方角をみると地面が抉れていた。先で、男達が呻いている。
こいつは、本当に凄い。
絶対に怒らせないようにしよう。
「本当に、本気で、いったい、冗談抜きで、お前さんはなんなんだ?」
ディルゴの声がする。
知らん。
僕が知りたい。




