タイマン
狼の剣が首もとに落ちた。
速い。
衝撃で息がつまる。
そのまま、蹴りが僕を襲った。
みぞおちに食い込んで、詰まった空気が押し出される。胃が飛び出そうだ。
蹴りの勢いで後ろに吹き飛ばされる。
地面に倒れるが、根性で立ち上がると狼が僕を睨んだ。
「本当になんなんだ、お前は?ヘタな大人なら、泡吹いて倒れてくれるんだぜ」
「そんなん!子供に使うんじゃねぇ!」
全力で地面を蹴る。
右腕に力を込めて、踏み込む。
だが、狼は剣でそれをいなした。
体が回転する。
「え!?」
回転した体。足をいつの間にか掴まれていた。
そのまま地面に叩きつけられる。
息が出来ない。
吐き出した酸素が、戻ってこようとしない。
「悪いが、寝とけ」
狼が言う。
誰が従うか。
地面を両手で掴む。
石畳に指が入り、それをひっぺがした。
狼にぶん投げる。
「なっ!?」
慌てて避けた狼が体勢を崩す。
その隙に、相手に殴りかかる。
「のおら!」
不安定な体勢にも係わらず、狼は僕の拳をかわしながら剣で僕の腹を払った。
呼吸が止まる。
止まって、動かない。
再起動が追い付かない。
この狼、規格外なほど強い。
何をしても当たらない。
地面に伏せて動けない僕に、狼が近づいてくる。
「本気で何者だ。お前は?逃がした猫は、お前のなんだ?」
「うるせぇ…………、クロさん、返せ……」
「だからよぉ……おっ!?」
何かを言いかけた狼が、言葉を切った。
顔をあげると、何か黄色い粉が狼の顔にぶつけられた。なんとなく、嗅いだことがある匂いがした。
「ぶっ、あ。リコだと!?誰だぁ!?」
言葉には誰も答えない。
その代わりに、周囲から煙幕がおこった。
なにも見えない。強烈な臭いがする。
狼が鼻を押さえる。
見た目通り、嗅覚が強かったらしい。
周囲で僅かに影が動いているように、僕には見えた。
大きな人影が近づく。
それが、何かを振るった。
狼が倒れる。
大きなハンマーが見えた。
大きな影が、こちらをみる。
ハンマーを掲げる。
マジかよ。
振り落とされる。
何度も、顔面が、痛い。
痛くて、息が出来なくなる。
意識が白くなっていく。
「コラァァァァア!」
狼の声がした。
「ガキ、殺してんじゃねぇぇぇぇええ!!!」
牙を剥き出し、鞘から剣を抜いた狼の姿。
あれ?
仲間なんじゃなかったの?
そんな風に考えて、意識が途切れる。
狼の叫びだけが、耳に残った。




