また揉めたら凄いのをみつけた
へこんでいるときに、今まで何をしてたのかを考えてみると。とにかく、好きなものを食べていた。豚骨らーめんが食べたい。
なぜ、この世界には豚骨らーめんがないのだ。
目の前には、馬や豚みたいな生物が放し飼いにされている。豚にしては足が長く、目が多い。この世界の生物は複眼が多い気がする。
今日は馬車をひく馬を買いに来たのだが、交渉が長引いている。
「なぜ、売っていただけないのでしょうか?」
「値段があわないからな。嫌なら帰れ」
クロさんが、こちらを見る。
首を横にふり、嘘な気がすることを伝える。
しかし、こちらの交渉材料は金銭だけなので相手が首を縦に振らない限りは交渉は難しい。
ニナさんはもう諦めた様子だ。
馬車をひく馬を売っている場所は、この街に一ヶ所だけだった。それが昨日、買い取りで揉めた作業場の裏にあるとわかった時から、嫌な予感はしていたのだ。
店の店員は僕らを見るなり、何やら嫌そうな顔をした。馬を買いたい旨を伝えると腕をくんで、さらりと言った。
「安くて、マルス金貨3枚だな」
「…………あまりに高くありませんか?」
昨日、相場を知らずに痛い目をみたので今回は宿の人に聞き込みをしてきたのだが、荷馬車をひく馬で高くてリヨン金貨5枚との話だった。
6倍は吹っ掛けられている。
しかも、その安いと言われた馬を見たが痩せていて今にも倒れそうな老馬だ。
これはあまりに酷い。
色々と揉めてしまったからか、しがらみが出来てしまった。しかし、こちらに非があるようにおもえないので反省はほどほどだ。
冒険者ギルドには、もうあまり関わらないようにしたい。
その後も健康そうな馬を選んでクロさんが、交渉を続けたが最初のような会話が続いてしまう。
もう僕も諦めてしまっていいような気がしていた。僕がひけば良い話なのだから。
ニナさんが牧場を眺めているので、それに続く。
すると奥に檻のような場所を見つけた。
そして、その中にありえないものが見えた。
「竜?」
「え?はっ?どこどこ?」
わからない様子のニナさんに指をさして教える。
「あそこ、あそこ」
「おー!ほんとだー!」
ニナさんのテンションがあがる。
やはり竜というのは、珍しい生物らしい。
それに気がついた店員がいやらしい顔をした。
「なんだ、見ていくかい?」
嫌な予感しかしない。
しかし、予想外に。
「みたい」
「みるみるー」
女子二人がノリノリだ。
クロさんは外交モードがひっぺがれた。
竜とはそんなに珍しいのか、覚えておこう。
そのまま、店員に連れられて牧場の奥に進む。
「すげえ……」
思わず声が漏れてしまう。女子二人も食い入るように見ている。
それは大きな檻で丸くなっていた。
強靭な四肢に、翼を持つ、銀色の鱗に覆われた竜。神々しささえ感じられる美しさがあった。
「これ、どうしたんですか?」
女子がみとれているので、僕が聞いた。
「近くに墜落したのを仲間が捕まえたんだよ。貴族に売る予定だったがキャンセルになってな」
竜も売り買いされる世界とは驚きだ。
しかし、こんな綺麗なのにキャンセルとは。
「理由は翼だ。よくみろ、折れてんだよ。片方な」
三人でみてみると、確かに体に隠れた片方の翼が無かった。しかし、それはそれでかっこいい気もする。ロマンのわからない大人もいたもんだ。
「そうだ。こいつなら、リヨン金貨1枚で売ってやる」
にやついて店員が言った。
「竜に馬車をひかせるなんて、粋じゃないか。どうだい?」
様子を見る限り、無理だとわかっていっている。
嫌なやり方だ。こんな大人にはならないようにしよう。
竜の目を見る。力強い目だ。
少なくとも、こんな場所にいるのは似合わない。
ここから、出してやりたい。
そんな気になる。
クロさんを見ると、何を勘違いしたのか彼女は頷いた。嫌な予感がする。
「買います」
「は?」
クロさんはにっこりと微笑んで、リヨン金貨を1枚店員に渡す。その笑顔にクラクラした。
そして、僕の予想した通りに言う。
「シロ」
「はい」
「よろしく」




