よし!みんな丸太はもったか!? 5~趣味と実益を兼ねた結果同僚に待ったをかけられる~
ちょっとの過去と今
私は光を見た。
それは小さな、弱く、私がひと吹きすれば消えてしまいそうな蝋燭よりもか弱い光。
それでも希望を見た。
私を“わたし”として見てくれた稀有な“ヒト”だった。
私が自我を確立してから数年間、仲間からは畏れられ誰も寄り添ってはくれなかった。私は寒さを一人で凌がなければならず、知恵を使い凌げばその分仲間は離れていった。
生まれて数年でたった独りで生きていくしかなかった。
親は何故か居なかった。見た覚えもない。私の記憶にはない。
私の世界は鬱蒼と繁った深い森の中だった。昼も夜も薄暗く1日の境も分からない場所だった。
私の仲間達は弱かった。肉食の魔物に見つかれば即エサだ。肉食動物にも同じように力では敵わない。それが普通だったのだ。
“だったのだ”
私が仲間と違うと浮き彫りになった出来事がある。
私たちは食べ物を探して基本的に森の中を回遊していた。それがこの森で生きていくための決まりだった。一所に留まると匂いに釣られて危険な強い魔物が寄ってくる。
だから動き続けないと生き残れない。
“生き残れない”はずだった・・・
私は親がいないので、食べ物を食べるのも人一倍ヘタだった。教えてくれる親が居ないから他の仲間を見よう見まねで覚えるには時間が掛かったのだ。
壊滅的に遅かった。だから仲間が移動を始めたのに気付かず食べ続けていた。確保するのもヘタだったのだ。
だから森で一番に恐ろしい魔物に追い付かれた。
その恐ろしい魔物は何故か私達を執拗に狙う魔物だった。何故か何て知らない。ただ分かっていたことは追い付かれたら終りと言うこと。
唯一の救いは目が悪く、体の大きさに足が合っていない細さの為に直ぐに疲れ走れなくなることだった。
だから私達は一定の距離を保ちつつ森を移動していたのだ。
そう、近付かれれば終り。だが、私は追い付かれてなお、今もこうして生きている。
何故?
私がその魔物を殺したからですよ。
ええ、身体に合わぬヤツの足を自慢の嘴で啄んで差し上げました。足を潰してしまえばブクブクと肥えた身体のヤツにとっては致命的。
ええ、目をくり貫いて━━━いえ、トドメを刺しました。
それまで白かった━━多分親から貰った唯一の共通点の━━羽は、身体は、翼は━━━
ヤツの返り血で染まりすぎたのか真っ黒になっていました。
その時は絶対的な恐怖の対象に勝って舞い上がっていたのでしょうね。頭から尾羽の先まで黒くなっていたことになど気づかず、ベタベタと気持ちの悪い血を急いで洗い流して、あの時の私は羽が濡れて飛べなかった。もしかすると鳥生で二番目に情けない姿でした。
それから急いで仲間達のところに転びながらも走って、羽ばたきながらも落ちて、どうにか追い付こうとしました。
━━━━結果としては追い付きました。
でもね、変容した仲間はもう仲間ではないんです。仲間だったかすら怪しい。私は黒くなる前から少し変でした。
仲間たちはエサが無ければ移動します。私は食べるものが無ければ知恵を絞りどうにかしようと考えました。
仲間たちは寒くても寄り添うし事でしか暖を取れず死ぬものもいました。私は誰とも暖をとれなくても動物の毛や仲間たちの抜けた羽毛を集めて暖を取りました。
考え方が根本から違っていたように思います。
━━━、ああ、話が脱線しましたね。
私は仲間たちから受け入れてもらえず、けれど怖がられ攻撃されることもなく、その後は付かず離れずで何年か生きていました。
仲間たちの態度にやっと冷静になった私は自分の容貌の変化にやっと気がついたのです。あの頃の私は本当に・・・バカですね。
それから何年かで私は独りになりました。ええ、独りです。
あれだけ私を仲間と認めてくれなかった仲間たちは環境の変化に対応出来なかったのです。そして何故か私は適応出来てしまった。
白い仲間たちは森を覆う白いものに熱を奪われ、食べ物も見付けられずに力尽きていきました。なのに私の黒色の羽は昼間の内に熱を溜め込む事ができた。そして白い何か━━雪に隠れてしまった食べ物を見つけられた。
私は生き残った。たった1羽、生き残って何が━━
仲間が全て逝き、雪は止まるどころか益々積もり高い木々は姿を消した。大きな魔物も恐ろしい肉食動物も消えた。
居るのは背の低い茂みに隠れる小動物。雪の下に埋もれても生き続けた草花くらいだった。
次第にその小動物たちも姿を消した。どうもここよりも低い場所に降りていった様だ。本能的にここは住みづらいと悟ったか。
仲間もその知恵を持っていればな、
もう遅い。もういない
まだ形だけ残っていた木々が芯まで凍った。少し力を入れるとパキパキと音をたてて崩れていった。楽しくて足で壊していると足がかじかんできて歩けなくなりそうだった。本当にあの頃の私は馬鹿なんですね。
それから数えきれない程時が経ちました。何故か私は何も食べなくても生きていました。
それから、どのくらいたったのでしょうね。雪が少し降らなくなりました。でも少しするとまた積もるんです。
私は丁度良い大きな止まり木に留まって雪を凌ぎました。いえ、眠っていたのかも知れませんね。退屈でした。
ある時、何やら私の耳に大きな、本当に大きな叫び声が聞こえてきたんです。
あの時は本当に驚いた。堪らず止まり木から落ちました。
その時の私が見たものは━━━ええ、今でもハッキリと覚えています。
━━━それは、白く、長く、そして光を反射して優雅に翔んでいました。いえ、あれは翔ぶと言うよりも浮遊でしょうか。
それでも私には翔んでいる様にみえました。
それは私に近づいて来てこう言いました『何でそんな場所で居眠りしてるの。退いてくれない? そこは魔素が溜まりやすいんだ。君がそこに居続けると魔素が君に反応して━━━ああ!面倒。良いからそこ退いて。少し運動がてら散歩でもしてきてよ!』と、神々しい姿からはかけ離れた言葉で捲し立てられました。
私は思考が追い付きませんでしたよ。
白状すると“言葉”で話しかけられたのは初めてだったので理解するのに時間が掛かりました。それに他人何て何年ぶりだったか。
開いた嘴が塞がらないとはこの事でしたね。
業を煮やした彼━━性別が不明━━・・・そうですね、吹き飛ばされました。
体当たりでもしたのでしょう。私が永い事居座っていた場所は小高くなっていたので無様にも転げ落ちて中々の距離を転がりました。
彼━━白龍は私の居座っていた場所から何かを取り込んだかと思うとその場に落ちた。
その後は我に返った私が拙い言葉で何かと質問をして彼を困らせました。その後直ぐに飛び立ってしまいましたが、かなり話をしてくれました。忙しそうだったのに。今なら絶対にしない失態です。
それからは色々とありましたね。あの場所から離れてみたり。山━━知らない内に森は山脈になっていました━━から降りて“人間”という生き物に遭遇したり。攻撃されて羽ばたいて反撃したら人間を吹き飛ばしたり。
彼らの行動範囲を観察してみたり。飽きはしませんでした。
興味を牽いたのは彼らの生活のしかたでした。
なんと彼ら人間は食べ物を自分達で生み出すのだ。衝撃的だった。
それから彼ら人間を真似てみたりもした。しかし、私の翼は器用に物を掴めない。足は歩くことには向いていない。
いつしか私は姿までも人間を真似ていました。
そして迫害もやはり受けました。何より年を取らないどこから来たのかも分からない人間は当時は不気味だったのでしょうね。
人間に不用意に近づくと攻撃されました。
・・・正直に白状します。中途半端だったのです。魔物の身体に人の顔をした魔物に見えたのでしょう。今なら理解出来ます。
そこで騒ぎを聞き付けたあの白龍が私を叱りに来ました。
久し振りの話し相手に私は嬉しく、彼の説教も笑顔でうけていました。その時の彼の顔は、初めて見た“呆れ”という表情でした。
ひとしきり怒られた後、何がダメかを事細かに教えられ叩き込まれある誓いを誓わされました。
“人の姿を完成させるまで、怖がられない姿を出来るまでは人に接触しないこと”
これが誓いでした。効力なんてないものでした。彼も少し私が人里に近づく頻度を少なくしたかったのだとおもいます。
やはり当時の私は馬鹿でした。
それ以降その誓いを守って山に人間達が暮らすような家を作り人間を真似て生活をはじめたのです。観察だけはかなりしていました。姿を完璧には出来なくても記憶にある人間の暮らしを再現して暮らしました。もしかしたら今の私の凝り性はここから来てるのかも知れませんね。
何年も、分からないほど時が過ぎました。
接触はしなくても隠れて観察することを覚えた私は人間観察を欠かさず続け、ある日ある噂を耳にしました。
“神々しい白い龍が東の果てで死んだそうだ”
“小高い丘で眠るように死んだとか”
“その子供が王族に手を貸して━━━”
その話を聞いた後の事は余り覚えていないのですが、家には帰っていました。
それからはただ時間が流れていきました。日課になっていた人間の暮らしを続けながら。ただ時間を消費しました。
そして、私は光を見ました。
私がここに留まると山が吹雪に包まれる事を指摘されてから━━━この国が出来る前辺りでしょうか━━━から何千年もたった後、
昔を思い出しながらあの大きな止まり木に人の姿で座っていると
「ちょっと、そこから退いてくれません? 魔素が溜まってエライ事になりかけてるから。てか、退いてください。早く帰りたい、寒い!寒すぎて死ぬ!何で君は平気なんだ!!」
それはそれは小さく吹き飛びそうな、小さな体の子供で。
「あのー!聞こえてますか! 死んでないよね?凍死してないよね?」
とてもではないけれどあの神々しい姿なんてなく
「おおーい! ううぅぅ、早く帰ってこの仕事押し付けた事師匠の奥さんにチクってやる。職務怠慢の上に弟子を極寒の死地に行かせましたって。しかも1ヶ月ナイフ1本で雪山生活何てどこの錬金術の師匠だよ。熊狩って曲がり角でウチの奥さんとバッタリ出会うのかっ!生憎ともう出会って結婚してるっての! あぁぁぁ!寒すぎる! そこの人生きてるなら動いて返事して頼むから無反応は止めて!! すぐそこ退いて魔素浄化するからぁ!!」
姿は人の子、鬣は薄藤で目紅い。白一色の彼とは似ても似つかない━━━
「だぁぁぁぁ!! もう待ってられない!ちょっと手荒いけどどいてまじで!!!!」
━━━そう、纏った魔力が・・・
あの時の私も本当に馬鹿でしたよ。反応のない私にキレたあの方は私に弩級の火炎を放ってきました。
目が覚めると心配そうなあの方が私を看病してくれていました。怪我らしい怪我は無かったのですが、何か胸に開いた穴が塞がっている様な気がしました。
それから私はわが家に招待して驚愕の事実を知りました。
見よう見まねで作った家にある“いろり”とは火をおこして家を暖める役目もあるだなんて、考えもしなかった!
「え?この囲炉裏使ったことない!? 寒くなかったの? 料理は?え?食べなくても生きていけたから食べなくても良い・・バッカ! 食事は心の栄養にもなるの!! 美味しい料理を作って食べるのは生きていく上で大事なこと・・って!寒っ、寒い、寒すぎる! 火を付けないと、薪、薪は?え?家の裏手に置いてる?━━━━凍ってるーーーー!?」
面白かった。きっとこの方を見ていると飽きないと思った。
「ほら、これで暖まる━━━スゴく冷めるの早い。ここの気温魔素だけが原因じゃないね。もう何年も雪に閉ざされたから気候が定着したのかな? 師匠め、こんな寒さの極寒地獄に放り投げやがって、絶対に奥さんにチクってやる。あることアルコト全部言ってやる!」
だから今度はここに留まらずに着いていってみようと思ったのですよ。
「え?この山を一緒に下りる?でもこの家どうするの?天然冷凍庫になるよ?ん?大丈夫、問題ない・・・それはフラグですか?」
たまに訳の分からない事をいう時が有りますが、
「どういう原理か分からないけど家を保存出来るようする? もうしてる・・スゴイネ」
あの時の私は火炎をぶつけられたことなんてこれっぽっちも覚えていませんでした。いえ、頭から抜けてました。これから待っている“外”にわくわくしていたのです。
「そっかぁ、独りだったのか。でもそんな口約束を正直に守るなんて律儀だねぇ。あ、その薄着はダメ。見てて寒いし違和感有りすぎ。ほら、これ着てて暖かい毛皮。━━━ごめん、熊にしか見えない」
だから今はとても楽しいのですよ
「うーん、どうやって師匠にうんと言わせよう。私って今は修行中の身でね、この試練を達成したら本採用って訳の分からない理屈でこの山に放り込まれてさぁ、ナイフ1本でどうしろってんだ。全く━━」
そしてやっぱりあの方は見ていて飽きません
「しかも、1ヶ月の間に色々と試練とかこつけて仕事をさせるし。この1ヶ月何度死にかけたか。何度“GAME OVER”って画面を夢で見たか。夢で良かった!」
観察だけでは知れなかった事を沢山知りました
「あ、師匠!!ここで会ったが百年目!え?━━試験合格? そりゃ、1ヶ月生き抜きましたもの、あたりまえでしょうがぁ!!これで不合格ならあんたの頭をハゲ頭にして奥さんにあの事とあの事とついでにあの事ともチクりますからね!」
それにあの方の周りもとても面白い人たちが集まっていました。
「ええぇぇ、この人、名のある山の守り神ぃぃ!?・・あ、人間が言っているだけでただの長生き? イヤでも、え? 眷属になってる・・・・ふぁ!?、?」
すいません、余りにも━━━ふふふ、勝手に契約しました。仮でしたけど、ポチさんそんなに怒らないで。それにあの時のどうして主から離れていたのですか?
「・・・・先ずは師匠の所で一緒にお世話になろう。ね、師匠。首を立てに振らないなら浮気の事を奥さんにチクります。え?「知ってるわけない、証拠がない?」ふっ、何のために眷属たちを師匠の元に置いておいたと?よくも私の眷属たちをコキ使ってくれましたね!報告を受けてますから。そしてここに、証拠を録画した宝珠━━あ、」
成る程、そう言えばその様なことを言ってましたね。あの人でなしの師の所でコキ使われていたのですか。
「ふ、ふふふふふ。甘いですよ。揚げパンに蜂蜜とクリームを乗せて黒砂糖を乗せたほど甘々です。何度私から録画用宝珠を取り上げようとも代わりはあるもの。何千と。ふふふ、私に弱味を見せたのが運の尽き。私の母親直伝、弱味を握る手段その身で味わってください!」
しかし、あの時の主はかなり壊れかけていた様に思うのですが。
━━━━━
『それはな、セバスよ。』
『はい、』
『ほとんど寝ていなかったのだ主は』
『━━━は?』
『そうそう、主様はまともに眠ってなかったのです。私が居れば主を羽毛で暖めることも出来ましたが』
『うむ、試験という理由から誰も同行できなかった。蛇の身には極寒は足手まといではあったがな』
『きゅーー、僕は藍苺様の護衛でした。だから行けませんでした、きゅぅぅ』
『私などあの人でなしの奥方のご機嫌とりをしろと猫としてペット扱い・・・そのお陰で色々と弱味を掴めたのでなんとも言えませんが』
『ふんっ! ぶるるるるる。ぶるぁぁぁぁ!!』
『ネロは「俺なんてどこぞの貴族に貸し出されて馬車なんて引かされたんだぞ」、「しかも馬車が脆いのに俺に全速を出せとか、何度も鞭で尻を叩くもんだからいたかった!!」って言ってるっす。俺も、あの棚のものを取れだの、喉が乾いたとか、あの店の限定の菓子を買ってこい代金はお前持ちなって言われてましたけど、今聞いたらみんなよりもまだマシでしたっすね』
『『『『・・・何処がマシ?』』』』
・・・本当に主、あなたの周りは面白さと驚きで溢れています。だから少しでも役にたちたかったのです。
なので調子に乗ってしまいました。反省はしております。
・・・後悔?
・・・ふふふ。さて、どうでしょうね。
こうして私は主を得てこの世界を楽しんでいます。
もしも、主を害するような者が居たのなら、そちらに出向きますので・・・・
お覚悟、ヨロシイデスネ?




