天使の歌2
それから半年後
「変わるもんだなあ」
政直は“グレーエリア”と通称される場所にいた。
暖かい日差しの照る青空の下、政直は空気を思い切り吸い込んだ。去年までは自殺行為でしかなかったシェルター外での呼吸は、もう危険なことではなくなってきていた。
ごく一部地域を除き、花は完全に殲滅されたからだ。人々は我先にと土地を拓き耕し作物の種まきと苗植えに勤しんでいる。
人々が大地を取り戻したとき、ある問題が浮かび上がった。花のせいで多量の犠牲者が出たことで、自然と土地の所有者も多く亡くなっていた。誰の物でもない、所有者のない土地が大量に生まれてしまったのだ。誰もが花の脅威に絶望し、こんなにも早く人類が大地を取り戻せるとは誰一人として予想していなかったからだ。最大の功労者ともいえる政直すら、今の状況を奇跡だと思っているぐらいなのだから。
つまるところ、所有者不在の土地を巡った激しい争奪戦が勃発することが危惧されたのだった。
しかし争いは殆ど起きなかった。所有権に関するトラブルがあったとき、皆が冷静に話し合い譲歩し、理不尽な主張をする者はごく僅かだった。
それにはあの天使の歌が効いていた。花を駆逐するだけでなく人々に希望を持たせた歌に、誰もが清廉な気持ちで事に向かうようになっていた。人々は利益を奪い合うことよりも、協力し合い豊かな生活を築き上げることを目指していた。不要なトラブルが少なかったお陰で、復興は予想されたより遥かに早く進んでいた。




