第31話:下着が来た
(綾乃視点)
静まり返った深夜。突然警鐘の音だけが鳴り響く。
「どうやら下着が来たようですわね」
「……下着じゃねーよ。敵だよ」
わたくしの言葉に恭子さんがツッコミを入れるが、わたくしは間違ったことを言っていないと思い、頭の上に疑問符を浮かべた。まあそんなことよりも早く下着を手に入れて、クマさんパンツとはおさらばですわ。
「警鐘の鳴っている位置からして、西側から攻めてきたんですかね?」
わたくしは警鐘の位置を確認する。東西南北にそれぞれ四か所設置されているとのこと。今なっているのは西側の警鐘と思われる。
「さあ! 参りましょう!」
「あいよ」
鉄くずの壁をそのまま移動していく。街中の入り組んだ道を走るよりも余程速い。少し走ると暗闇に光る何かが団体で現れている。
「空にも光るものがありますわね? またフクロウ型ですかね」
「そうだろうな」
「じゃあ、空は恭子さんに任せましたわ。わたくしは地上部隊を撃破します」
「了解」
気怠そうな返事が返ってくるが、気にせずわたくしは鉄くずの壁から飛び降りた。
向かい来る光の群衆に、こちらも向かって行く。暗闇の中、段々と敵のシルエットが見えてきた。その中にバッタ型がいた。
「面倒なのがいますわね……」
わたくしとしてはカマキリ型を先に倒しておきたかったけど、バッタ型は鉄くずの壁を飛び越えてしまうので、放っておくわけにはいかない。
ハンドガンを構えて次々とバッタ型に射撃する。数発の弾丸がバッタ型の眉間に命中した。そして目の光が消えてその場から動かなくなった。
「他のバッタ型は……」
見渡してみるも他のロボットに埋もれているのか確認できない。仕方なくカマキリ型に攻撃を定める。
カマキリ型の胴体に数発打ち込むが止まらない。流石に二匹までしか攻撃する時間がなく、接近戦を余儀なくされる。
(花鈴さんや佳那子さんのように、接近戦の装備がないから、出し惜しみなく戦わなくては)
そう思い、向かい来る団体にハンドガン以外にも頭部のバルカンも一斉に撃ち込む。
激しい銃撃音と破壊音が鳴り響く。敵の攻撃を回避しつつ反撃を続ける。
片方のCPUコアで戦闘を行いつつ、もう片方でドロップアイテムを確認する。
「設計図来た!」
他の皆には、わたくしが下着の設計図を優先しているように思われているのは心外ですわ。ドロップした二つの設計図とアサルトライフルの設計図を順番に製造していく。敵を大量に相手をしているから、部品が揃いやすい。
まずはアサルトライフルを製造した。できた瞬間にアイテムボックスから取り出して、ハンドガンはアイテムボックスに戻した。
そのまま戦闘を続ける。バルカンもアサルトライフルも連射が利くので、多数の敵を相手にする場合は便利である。しかも相手は恐怖がないので闇雲に街に向かって進むのみ。固まった状態なので狙いが定めやすい。
倒しているとドロップしたての装備ができあがった。ジェネレーターYタイプである。これでエネルギーの最大供給量が飛躍した。
そのまま回避と攻撃を繰り返しつつ、次の設計図を製造する。そして製造が終わるとそのまま改良も行い、すぐに装備ができるようにした。
「できましたわ!」
早速装備するために少しの時間が欲しい。
「恭子さん! こちらの敵を攻撃して少し時間を稼いで下さい! 装備を追加します!」
「わかった!」
恭子は返事をすると空の敵をキャノン砲で牽制しつつ、バズーカ砲で地上の敵を攻撃した。
その間にわたくしは少し後退して、アイテムボックスからできあがった装備品を取り出す。接近戦用のマジックソードである。既に改良して左腰アーマーのマウントにはめれるようになっている。それを接続する。
ジェネレーターも強化されたので、問題なく使えるはず。刀身のない剣の柄を握りしめ引き抜く。するとマジックソードは金色に光り輝く。
試し切りなどをしている暇はないので、そのまま戦線に戻る。
「恭子さん! ありがとうございます! 準備は整いました!」
恭子さんはわたくしの声に反応して、バズーカ砲を再び上空へと向ける。
実態のない光る剣をカマキリ型に向けて斬りかかる。カマキリ型は鎌で受けようとしたが、鎌ごと敵の胴体を切り裂いた。
「凄い切れ味……」
思わず自分の右手に握られたマジックソードを見てしまう。花鈴さんの片手剣よりも切れ味がいい。
わたくしは嬉しさでにやりと笑ってしまう。
元の世界にいた頃、わたくしは一番が当たり前と思っていた。だが花鈴さん、佳那子さん、恭子さんはわたくしを置いて行くかのように、あっという間に強くなった。そんな自分が情けなく感じていた。足手まといになっているのではないかと思えてしまい……。
だがこの戦いで急激に成長できた。アサルトライフルにマジックソード。この二つがあれば、接近戦と中距離戦が可能だろう。恭子さんと遠距離攻撃を競っても勝てないだろうが、バランスも大事である。
次々と敵を切り裂いていく。固いムカデもお豆腐を切るようにすっぱりと切れる。
戦っていると恭子さんの砲撃がこちら側に飛んできた。どうやら上空の敵は倒し終えたらしい。
わたくしも乱戦の中で戦っているのに、恭子さんの砲撃のセンスは抜群である。わたくしに当てることなく、敵だけに当てている。
しばらく敵を斬りまくっていると、気づいたときには静寂した夜を取り戻していた。




