ヘブンスフォール
頭上に広がるのは、自分が設定した記憶のない──未知なる魔法陣。
知らないはずなのに、ルルルンの腕は無意識に天へと伸び、見たこともない印を結ぶ。
脳裏に響く声は、自分ではない。ヨコイケイスケでもない。
それは『魔法少女ルルルン』の声であった。
その声が、意志を持って言葉となる。
【天ヨ堕チロ】
瞬間、空を覆っていた巨大魔法陣が激しく輝き、その光は天より降り注ぐ。
光には熱も、ダメージもない。ただ静かに、世界を塗り替える『白』。
だが、受けた者にだけわかる、明確な異常があった。
「なにっ!!??」
エクスキャリバーンの絶対防御──
『究極魔法障壁※命名ミズノカオリ』が、突如として霧のように掻き消えたのだ。
この魔法は、あらゆるアンチマジックを無効化する【アンチ・アンチマジック】
本来、存在しないはずの超越魔法。
ヨコイケイスケが、エクスキャリバーン対策として『後付けで設定した』空想上のチート魔法にすぎない。
その空想が、現実に発動したのだ。
「……本当に発動、した……」
「魔法障壁が消える……!?」
あの防壁さえなければ、ルルルンの魔法は通用する。
力の差があっても、戦いようはある──
「……なんて、思ってるのか?」
そう思った、その瞬間だった。
「なっ!!!!!!」
ルルルンの隙を突くように、エクスキャリバーンが斬撃を繰り出す!
ズバッ!!
防御魔法をいとも容易く貫き、刃はルルルンの肩を深く抉る。
「ぐああああああああ!!」
「甘いぜ、ルルルン!!言っただろう、お前は『俺の知ってるお前』より弱いってな!!」
痛みで一瞬気が緩んだルルルンに、エクスキャリバーンの巨体が回転し、強烈な回し蹴りが襲いかかる。
ドガァン!!
魔法障壁で何とか防いだものの、衝撃は容赦なく貫通し、地面へ叩きつけられる。
「がはっ!!」
血を吐き、視界が揺れる。
まともに動ける保証すらないほどのダメージに、意識はどんどんと遠のいていく。
「グラン……!」
「させねえ!!!!」
回復魔法を唱えようとしたその刹那、再び斬撃が飛んでくる。
目にも留まらぬ速さ。それをギリギリ紙一重で回避するルルルン。
どう見ても絶対絶命の状況だが、ルルルンの唇には、なぜか笑みが浮かんでいた。
「……ライネスの方が、鋭いな」
直撃すれば絶命するような斬撃を躱しながら、ルルルンの脳裏に浮かぶのは──
この世界で、毎日目にしていた『あの剣』の軌道。
この世界の最強剣士が、今のルルルンを支えていた。
「乱突風!」
突風を叩きつけ、キャリバーンを吹き飛ばす。
間合いを取り、すかさず詠唱に移る。
「超光閃弾!」
放たれたのは、絶界級の光属性弾。
防御障壁が消えた今、直撃すればキャリバーンでも無事では済まない……はずだった。
「キング!!!スラッシュ!!」
エクスキャリバーンの大剣が唸りを上げる。
剣が光弾を真っ二つに切り裂き、そのまま衝撃波となってルルルンを襲う!
「くっ……!」
間一髪で回避するが、遠距離の優位性は失われた。
「……基本性能は、あっちが上……」
接近戦も、遠距離戦も通じない。
魔力の残量は心許なく、回復魔法を多用した反動で、意識がゆらゆらと揺れている。
出血は止まらず、視界も霞んでいる。
「スラーッシュ!スラッシュ!スラッシュ!!」
キャリバーンの斬撃が止まらない。
一撃ごとにルルルンとの距離が詰まり、再び接近戦に持ち込まれる。
「よく躱す!だが、いつまで続く!!おらぁあああああ!!」
キャリバーンの攻撃が剣だけでなく、打撃を織り交ぜたパターンに変わる。
「ぐッ!!」
上からくる斬撃を受けるとすかさず強烈な蹴りが炸裂する。
防御障壁がひび割れ、衝撃は貫通しルルルンに甚大なダメージを入れる。
「ぐっ!!!回復魔法!!」
立て直す間もなく、ギリギリで回復魔法を挟む。
しかし、その分動きが鈍り、防戦一方のまま時間だけが過ぎていく。
出血による眩暈は今にもルルルンの意識を奪おうとしている。
「三呪展開」
消えそうな意識の中で、ルルルンは3つの魔法を同時展開する。
「回復魔法&激熱化魔法&大氷結魔法」
回復をしながら、右手に灼熱、左手に氷を纏わせたルルルンは、その両手で、エクスキャリバーンの剣を炎で弾き、氷の拳を叩き込む!
ガァン!!!
直撃。大氷結魔法の力で、キャリバーンの巨体が一瞬で凍りつく。
「がぁっ」
一瞬の静寂が走り、勝負はついたかに見えた──
しかし──
「苦し紛れがぁ!!」
全身の氷を打ち砕き、エクスキャリバーンは大きく剣を振り上げる。
「時間稼ぎは……できた!」
ルルルンの詠唱は、すでに完了していた。
「爆砕嵐槍!!!」
閃光が収束し、ストリムランスがその手に現れる。
「我が最大の奥義で受けて立つぞ!!魔法少女!!!」
「これで……終わりだぁぁぁぁぁぁ!!」
同時。
エクスキャリバーンの剣も、最大出力で強烈な光を放った。
「正義の一閃」
ルルルンの渾身の魔法が/エクスキャリバーンの最大奥義が
エクスキャリバーンの顔面に/ルルルンの左手を
直撃した/切り飛ばした