超越する空
──着弾。
瞬間、世界が引き裂かれる。
ストリムランスが命中したその場所に、『世界の風穴』が開いた。
空間がひしゃげ、重力が捻じ曲がる。周囲の物質は崩れ、光の粒子となって消えていく。
それは、まるで現実そのものを削り取る『白い暴食』そこにいた存在は、跡形もなく飲み込まれる……はずだった。
「ぬああああああああ!!!!!!!」
歪みの中心、光の爆風の渦中に、まだ「声」がある。
「うおおおおおおおお!!!!!!!」
──いる。消えていない。
エクスキャリバーンが、ストリムランスを──『全消滅』の魔法を、両腕で抱え込むようにホールドしていた。
光の槍はうねり、抵抗し、空間そのものを削ろうとする。だが──
「はああああああああああ!!!!!!!!」
咆哮と共に、全身から噴き出す魔力で、エクスキャリバーンは、それを『押し潰した』。
ゴゴゴゴゴ……ッ!!!
地鳴りのような衝撃波が走り、ストリムランスは砕け、光の破片となって霧散した。
「ま、まじ……かよ……」
あまりにありえない光景。ルルルンは言葉を失う。
この魔法は、すべてを貫く究極の攻撃魔法。あらゆる耐性も、魔法反射も、魔力の無効化も──例外なく破壊する。それがストリムランス。
それを『腕力』で防がれた?
違う。あれは防いだのではない。
ねじ伏せ、潰し、魔法そのものを殺したのだ。
(本当に……エクスキャリバーンなんだ。設定通り……いや、それ以上に)
ルルルンの背筋を、氷のような戦慄が這い上がる。
これは『ルルルンが』戦って勝てる相手じゃない。最初から、そういう風に【設定】した存在なのだから。
「誰だよこんな設定作ったのは……」
俺だよ!と心の中で一人ノリ突っ込みをして、ルルルンは改めてエクスキャリバーンを見据える。
「どうしたライバルよ、こんなものか?お前はもっと強かったはずだ!魔法の力が落ちたんじゃねえのか?」
「魔法の力が落ちた?」
「あぁ、そうだ!以前のお前はもっとすごい魔法使いだった!まだ本気を出していないなら、早く本気を出せ!!その方が俺も楽しいからな!!」
「もっとすごい?」
考えてもみなかった、可能性。
この世界に来て魔法が使える事実にはしゃいで、見向きもしなかった。
(ヨコイケイスケの身体じゃないから?)
今のこの状況で考えたくもない可能性、極界魔法を使った反動か、ルルルンの魔法刻印は魔素を取り込み過ぎてオーバーヒートのような状態になっている。
確かに以前のヨコイケイスケならこんな事にはならなかった、限界を感じる事すらなく無限に魔法を行使していた。
(ヨコイケイスケではない事が本来の力を発揮できない足枷になっている?)
それが本当ならば由々しき事態だが……
しかし現在の状況は、そんな事を考える余裕を与えてくれない。
目の前にいる巨大ロボは確実に自分の天敵であり、状況は芳しくないのだから。
「悲しいなぁ、かつての好敵手が悪の道に足を突っ込んじまうってのはよぉ!!」
「突っ込んでない!!勝手にストーリーを作るな!」
エクスキャリバーンの中では、この世界でルルルンは魔女を名乗り、凶悪の限りを尽くす、本当にどうしようもない魔法使い。そういう事にでもなっているのだろう。
「聞いたぜ、魔女ってのはこの世界で悪の限りを尽くす、本当にどうしようもねえ魔法使いだって、しかしながら、それがお前だったとはね」
「想像通りの事いいやがって!!誰に吹き込まれたのか知らないが、それは間違った情報だ!!」
「現にお前は魔女の住処にいたじゃねえか!!お前が魔女でなかったら、誰が魔女なんだ!!」
「俺は魔女じゃない!!魔法少女だ!!!」
意地で言い放ったその言葉にルルルンはハッとする。
俺は魔法少女だ……つまり。
「俺は魔法少女ルルルンだ……」
「そうだ!お前は魔法少女ルルルン!そのライバルとして、俺様の手で!魔女に堕ちたお前に引導を渡してやる」
「エクスキャリバーンが俺の作った設定通りなら……」
そう呟くと、ルルルンは自身の手を見つめる。
エクスキャリバーンの設定以上に、ルルルンの設定も【※ミズノカオリが】めちゃめちゃに盛っている!
エクスキャリバーンが設定通りの強さなら、ルルルンもカオリの設定通りかもしれない、だとすれば可能性はある……。
「え―――!なんですそれ!魔法完全無効とか!エクスキャリバーン、ズルくないですか?」
「いや、最強の魔法使いに対抗するにはこれくらいしないと」
「だめです!ズルです!ルルルンはそれを打ち消す最強魔法を持ってもらいます」
「なにそれ、いたちごっこじゃん」
「それくらい拮抗した力関係でいいんですよ、この二人は!」
「カオリ楽しそうだな?」
「はいっ!!あ、それと魔法使いじゃないです!魔法少女ですからね!!」
ヨコイケイスケの記憶……
過去、カオリと交わした何気ないやり取りを思い出す。
エクスキャリバーンに対抗する唯一の魔法、魔法少女ルルルンにしか使えない、どの界位でもない、この世界には存在しない、発動する事は絶対にできない世界の理を越えた魔法。あの時気まぐれでカオリと設定した。
【超越魔法ヘブンスフォール】を使える可能性が。
【超越魔法ヘブンスフォール】──
すべてのアンチマジックを無効化し、唯一、エクスキャリバーンに対抗するために設定された、ルルルン専用の禁じられた一手。
それは理屈も原理も超越した、文字通り『存在しないはずの魔法』。
「……これが発動しなかったら、勝てないかもな」
ルルルンは静かに息を吸い、そして重く沈むように吐き出した。
賭けるしかない。一か八かの、無謀な一手。
両手を天へと掲げる。まるで『天に願う』ように。
「頼む……」
「何だ?何をする気だ!?」
エクスキャリバーンが警戒の声を上げるが、ルルルンは耳を貸さない。
ただひたすら、集中する。
意識の奥底──ミズノカオリが設定したはずの、ありもしない呪文構造を『想像』する。
──詠唱なし。
──魔素なし。
──発動条件なし。
それは、魔法のすべてを否定する『最終兵器』
ならば、必要なのはただ一つ──
『願い』だ。
「……目に映るすべてよ、沈め」
静かに、だが確かな響きを持って、ルルルンは『願い』その魔法の名を告げる。
「天を落とせ──超越魔法ヘブンスフォール!!!!」
一瞬、世界が静止する。
風が止まり、音が消え、空が震え、地面に微細なひびが走り、空間がかすかに歪む。
何かが起こる──そう確信できる『兆し』が、確かに感じられた。
しかし──
「……何も起きない、だと?」
エクスキャリバーンが辺りを見渡す。身構えていた力を緩め、困惑の声を漏らす。
「まさか……ハッタリか、ルルルン?」
「……なにも……起きない……?」
力強く唱えた魔法の名。天を裂くほどの思いを込めた願い。
だが──
空は青く、雲ひとつ動かず、地は静かで、光も揺れない。
ただ、ルルルンの手だけが、虚空に向けて伸びていた。
奇跡は──起きなかった。
いや、当たり前だ。
ルルルンは『魔法』を誰よりも知っている。
原理も、理論も、構築式も、触媒も──それらすべてを無視した『存在しない魔法』が成功するはずがない。
それは理解していた。わかっていたはずだった。
何も起きなかった空に手を伸ばし、ただ“祈る”ことしかできなかった自分の行為に、ルルルンは肩を落とす。
「……やっぱり、無理か……」
静かに、力なく、そう呟いた。
だが。
対照的に──エクスキャリバーンの反応は、まったくの『逆』。
「そうだな、ルルルン……!そうこなくちゃ、面白くない!!!!」
笑っていた。狂ったように、興奮を隠さずに。
ルルルンが下を向くなか、エクスキャリバーンは、何かを見つめ、空を見上げていた。
「……なにを、見て……?」
その視線の先。
ルルルンもつられるように、空を見上げる──そして、言葉を失う。
「な……なんだこれ……」
空いっぱいに浮かぶ『魔法陣』
いや、魔法陣という言葉でさえ、生温い。
見たこともない巨大さ。まるで世界の半分を覆うかのようなスケール。
空に刻まれたそれは、どんな言語体系にも該当しない、まったくの未知の紋様。
火・風・水・土・光・闇・滅──いずれの属性にも属さず、すべてを内包するようで、何一つ重ならない。
魔法の世界に存在しない、設計外の構造。
明らかに、ルルルンの記憶にあるミズノカオリと共に設定していた『ヘブンスフォール』のものではない。
だが──『それ』は、ルルルンの魔力に呼応していた。
「……これが、超越魔法……」
世界を見下ろすその陣の中心が、淡く、しかし確実に光り始める。
累計Vが15000越えていました(´;ω;`)
ありがとうございます!!!!!!!これからも頑張ります!!!!!




