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元魔女は村人の少女に転生する  作者: チョコカレー
2部:復活の魔女達
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11話:反抗期



「……ぐッ!!」


 シャティアにとって痛いという感情は滅多に抱かない物であった。何せ防御魔法を常に薄く展開し、何かあろうとも魔法でそれを未然に防いでしまうからだ。故にシャティアはそうそう怪我をするような事は無かった。あったとしても服がボロボロになってしまうとか、裂けてしまうとかその程度であった。

 だからこそ、シャティアは今感じている痛みはエメラルドの怒りそのものなのだと理解した。あれだけ人を傷つける事を嫌い、治癒魔法だけに特化していた彼女がここまでの攻撃魔法を行う。事態は自身が思っている程深刻だとシャティアは理解した。


 潰れた木々から脱出し、シャティアは抱えていたモフィーをそっと草むらの上に降ろした。怪我はしていない。ギリギリ防御魔法を施したのでモフィーの身体には一切の傷は無かった。その代わりシャティア自身が深刻なダメージを負う事なったが、彼女からすれば友人が無事なだけで満足だった。

 ひとまずモフィーを戦いに巻き込まない為にその場所に隠し、シャティアは再びエメラルドの方へと飛び出す。そこではかつての純粋な少女とは程遠い醜い表情をした人形が立っていた。


「あくまでも歯向かうんですね……この私に!!」

「ああ……お前は私が止める」


 エメラルドはそう言って青い瞳を揺らした。呪いは発動していないようだ。またいつ発動するか分からない為、シャティアは警戒心を高める。

 先に動いたのはエメラルドだった。両腕を振るうと一気に強烈な魔力砲を放つ。シャティアは森の中に居るモフィーにも被害が行かないよう、それを真正面から受け止めた。手の平に防御魔法を張り、包み込むように耐える。だがエメラルドの攻撃は想像以上だった。苦肉の策でシャティアは手を弾き、魔力砲の射線をズラして上空へと飛ばす。


「……ちっ!!」


 自分の防御魔法よりもエメラルドの攻撃魔法の方が威力が高かった事にシャティアは舌打ちをした。出来れば魔力の元を切って攻撃を打ち消したかったのだが、どうやらエメラルドは本気で殺しに来ているらしい。これは自分も手加減は出来ないな、とシャティアは辛そうな表情をする。


「あまり私を……舐めない方が良いですよ!!」


 カラカラと音を立てながら身体を有り得ない方向に曲げ、エメラルドは異様な動きをする。そして突如腕が突き出てそこから魔力砲が飛び出した。すぐさまシャティアは先程と同じ様に防御魔法を展開する。だがその魔力砲が捻り動き、下からシャティアを突き飛ばした。


「……うぐッ!?」

「治癒魔法に特化していた私が戦えないと思いましたか?叡智の魔女らしくありませんね。シャティファール」


 上空に吹き飛ばされたシャティアは浮遊魔法で体勢を取る。だがエメラルドも同じ様に浮遊魔法で宙を飛び、いつの間にかシャティアの目の前まで迫って来ていた。

 月のように煌びやかな黄金の髪を靡かせながら、死人のように白いその顔を近づけてエメラルドはそんな事を言う。そして唇を引き攣らせて歯茎を見せながら悪魔のような笑みを浮かべると、指を走らせた。


「【罪の枷】」


 エメラルドがそう言うと指先から小さな魔法陣が飛び出し、それがシャティアの四肢に触れた。その瞬間シャティアの身体は鉛になったように重くなり、浮遊魔法を使っているにも関わらず落下しそうになった。

 すぐさまシャティアは魔力波を放ってエメラルドを遠くに突き飛ばす。そして自身の肩を手で抑えながら辛そうに息を吐いた。


「はぁ……はぁ……」

「その魔力の枷は貴方を縛り付け、魔力を吸収する……覚えていますよね?貴方が私に教えてくれた魔法です」


 エメラルドは口元に手を当てながら懐かしそうにそう言った。もちろんシャティアもこの魔法は覚えている。何せ自分が考案して作った魔法であり、一番適正がエメラルドに教えた魔法だから。言わばこれは二人の思い出の魔法である。そんな魔法の対象に自分がなるとは、とシャティアは悲しそうに唇を噛んだ。


「最も、無尽蔵の魔力を誇るシャティファールなら大した枷にもなりませんよね?せいぜい身体が重くなるくらいです」


 パンと手を叩いてエメラルドはあっけらかんとそう言った。大した問題でも無さそうに、まるで世間話でもするように軽くそう言う。

 事実、シャティアにとって魔力を吸収されるという行為は然程痛い物では無い。悪霊との戦闘の時も魔力を吸収されようが全く問題は無かった。だが、今の子供の身体のシャティアにとって重り、という物は一番厄介な物だった。魔力の塊で出来た枷なだけあって浮遊魔法を使っても重みを感じ、辛い物がある。シャティアは冷や汗を垂らした。


「どうしました?かつての仲間を傷つけられませんか?当然ですよね。貴方はとても優しい。私達魔女を率いた貴方にとって、私達は娘同然……」


 いつまで立っても動き出さないシャティアを見てエメラルドは嗜めるようにそう言った。邪悪な笑みを浮かべ、小馬鹿にするように目を細める。

 シャティアは何も言えなかった。エメラルドの言っている事は的を得ていたからだ。

 

「でも私は違います」


 エメラルドはそう言うと突如シャティアに向けて強烈な魔力砲を放った。今までで一番大きな魔力の塊。シャティアは重たい腕を無理矢理上げてそれを受け止めた。だが、身体の重みのせいで全力を出す事は出来ない。今度のは射線をズラす事も出来ず、シャティアは魔力砲の衝撃を受けて吹き飛ばされた。


「ぐっ、がッ……!」

「人間の味方をすると言うのなら、例え母親のような存在であった貴方でも私は躊躇無く殺せます。分かりますか?私の怒りは、貴方ですら止められないんですよ」


 またもや服が破け、シャティアは堪らなそうな表情をする。何とか防御魔法のおかげで傷は負わずに済んだが、着々と追い込まれている。

 見下しながら言葉を述べるエメラルドを見上げ、シャティアはどうしたものかと考えた。


 怒りや恨みの力によってエメラルドはかつて無い程の力を発揮している。否、元々素質はあった。だが彼女の優しい性格がそれを戦いでは無く癒しに向けていただけだ。だが堕落した今の彼女は違う。人間を殺す為だけに魔法を使い、全てを滅ぼそうとしている。その時の魔法の威力はとてつも無い物だろう。

 シャティアはエメラルドの覚悟が本物なのだと察し、流れた汗を拭った。チラリと森の方を見てモフィーが居る辺りを確認する。今の所被害は行っていない。もう少しだけ全力を出しても問題無いだろう。


「クク、ククク……」

「……?」


 突然シャティアはお腹を抱えて笑い始めた。その奇行にエメラルドも眉を潜め、何かして来るつもりかと警戒心を高める。シャティアは笑いで目に涙を浮かべながら、それを拭って口を開いた。


「これが娘の反抗期、という奴か……うむ、なるほど。確かに、中々辛いものだ」

「……何を言っているんです?頭がおかしくなりましたか?」

「フフ……ああ、そうだな」


 シャティアはそう言って自身の母親の事を思い浮かべた。普段から好き勝手する娘のシャティアを育てている彼女は、さぞかし苦労している事だろう。申し訳ない気持ちになりながらシャティアはそっと目を瞑り、次の瞬間エメラルドの背後へと移動した。


「……ッ!?」

「確かに、私はお前達を傷つけるのは辛い」


 魔法陣を展開してそこから魔力の鎖を解き放ち、それをエメラルドへと巻き付ける。そして更に腕の魔力を込め、思い切り彼女を殴り飛ばした。遠くに吹き飛ばされたエメラルドは鎖でまた引っ張り戻され、元居た場所に戻ると再び拳で殴り飛ばされた。


「ッ、ぅう!?」

「だがそれ以上に、私はお前達が人を傷つけるのを見たく無いんだ」


 上空に飛ばされたエメラルドを鎖で引っ張り戻し、森の中へと叩き付けた。そして以前鎖は巻き付けたまま、拘束されて動けなくなっているエメラルドにシャティアは精一杯の魔力波を放った。眩い光が森の中に落ち、落雷のような轟音を立てて爆風が巻き起こる。


 衝撃が収まった後、そこにはボロボロの姿になったエメラルドが居た。ローブも焼け焦げたように見窄らしくなり、人形の身体にもヒビが入っている。だがそれでも無事なのは、ギリギリ防御魔法を使ったからだろうか。

 シャティアは警戒心を高めながらゆっくりとエメラルドの側まで下降した。エメラルドは苦しそうにうめき声を上げながら、身体を起こして立ち上がる。


「か、はッ……フフ、流石……強いですね。シャティファール」


 エメラルドは口から血を垂らしながら弱々しくそう言った。

 何故人形の身体なのに血が流れるのだろうか?とシャティアは首を傾げる。恐らく首までの部分はまだ魔力で生きていた頃を再現しているのだとうと勝手に推測する。そこでシャティアはふとある事に気がついた。今のエメラルドは人形、という事はその身体は何で動いている?

 そこまで考えてシャティアは視線をエメラルドに戻した。彼女が何かを企む様に笑っていたからだ。


「だけど……強過ぎるが故に貴方は足下に気が回らなくなる事がある……皮肉ですね。強者が故の油断ですか?」


 シャティアはエメラルドが何を言っているのか分からなかった。モフィーの事を言っているのだろうか?それなら十分距離を取って居る。安全の確認も取れている。問題は無い。では単なる嘘か?動揺を誘う為の罠か?否、エメラルドはそう言った戦法は得意では無いはず。ではその言葉は一体何を意味しているのか?

 シャティアが疑問に思っていると、背後から足音が聞こえて来た。そして同時に聞き覚えのある声が聞こえて来た。


「こっちから光が見えたが……ッ! なんだコレは!?」

「た、隊長! あの女の身体……人形じゃ……!?」


 シャティアは振り向かなくとも背後に居るのが誰だか分かった。騎士達だ。彼らはこの状況を見て驚いたように声を上げ、エメラルドの事を指差して驚き惑っている。

 シャティアはすぐに自分の姿を見られる前に隠れるか幻覚魔法を使おうとした。だがその前にシャティアの身体にはエメラルドから放たれた魔力砲が直撃し、彼女はそこら一帯から遥か遠くまで吹き飛ばされた。


「それが貴方の弱点。小さな魔力しか持たぬ者達の存在に気付けない……彼らはずっとこちらに近づいていたんですよ?ですが貴方は、自身の膨大な魔力が邪魔してその気配に気付けなかった」


 エメラルドは嘲笑するように口元を歪めながらそう言った。

 シャティアは規格外の魔力を持っている。その魔力は放出してしまえば外部に影響を与えてしまう程。故にシャティアは普段からそれを抑えていた。だがエメラルドの戦闘ではその余裕は無かった。力を出してしまったが故に、彼女の膨大な魔力は自身の感覚を惑わせ、遠くから近づいて来ていた騎士達に気付く事が出来なかった。その僅かに出来た油断と隙をエメラルドは狙っていたのだ。


「貴様……まさか魔女か!?」

「黙れ人間。貴様等のような薄汚い生物に名乗る名など無い」


 騎士達は剣を抜いてエメラルドと対峙した。だがエメラルドは塵でも見るかの様に蔑んだ瞳をし、その碧眼を真っ黒に塗りつぶした。その瞬間、騎士達はピクリとも動かなくなり、その場で硬直した。

 呪いを解除し、エメラルドはガクリと肩を落とす。そして疲れきったように息を吐いた。


「……っく……流石、我らが魔女を率いる者、シャティファール……何とか遠くまでおいやったけど、どうせ貴方ならすぐ戻って来るんでしょうね」


 エメラルドは弱々しくそう呟いた。彼女もまた無傷とは言えなかったのだ。防御魔法を使ったとは言えエメラルドはシャティアの全力の魔力波を受けた。そのダメージはかなりでかい。それに魔力砲で吹き飛ばしたと言えどシャティアならその程度すぐ戻って来るだろう。まだ戦いは終わっていない。その事を感じ、エメラルドは気を引き締め直して立ち上がると森のある方向を見つめた。


「でも……それで時間稼ぎは十分。その間に私は貴方を絶望の淵へ落とす……あの娘を使って」


 禍々しい笑みを浮かべながらエメラルドはそう言葉を零し、フラフラと頼りない足取りでモフィーが眠っている方向へと向かって行った。



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