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5、脱出

5、脱出


 幸い本殿の他の箱に服が入っていた。

 アヤ曰く小袖という着物と精緻な刺繍で桜を描いた羽織り。靴も拝借する。

 数時間ぶりの服は温かいという感想以上の安堵を与えてくれた。文明に生きる人間に全裸は酷なのだとよくわかる。パンツはいてないけど!

 窃盗に関しては申し訳ないが、一番貴重な神器を返却不可となってしまっている以上、開き直るしかない。


「改めて行くか」

「はい。では、私が誘導するのですね?」

「ああ。まずはここから脱出する」


 現在地は日の出の国の首都中心地、神木に隣接している神社らしい。神社は王の住まう宮殿の一部でもあるので脱出は困難が予想される。

 神域に変態が出没したせいで警備が厳重になっているし。

 いや、俺はちゃんと服着てるからメロスなんて知らない。


「本殿の外には誰もいません」

「本殿なのに警備は常設じゃないのか」

「誰も入れませんから」

「俺は入れたぞ」

「ご主人様は資格を有しておられます」


 資格。本殿の扉を開ける。神器を手にする。

 そんな特別な物は持っていないはずなのだが。


「胞子の汚染が規定値以下でなければ本殿には入れず、神器も起動できません」

「機製樹木の胞子、だったか」


 胞子というかナノデバイスな。


「元来、神具は機製樹木を討滅するものです。それを使おうという人物が機製樹木に汚染されていては本人を害しかねません」


 ああ。なるほど。

 であれば強力な神具であるほど使い手は汚染の少ない人間でなくてはいけないわけね。

 そういう意味なら確かに俺は汚染0だもの。最強クラスの神器だって使えるだろうよ。


「ご主人様には感謝しております。このまま来ることのない使い手を待ち続けるかと思っていましたので」


 全て偶然だから感謝されるべきではない。むしろ、やがて訪れる本来の英雄たる人物から掠め取ったのかもしれない。

 だが、呪いのアイテムじみていなかったとしても今の俺にはアヤの助けは必須だった。

 都合のいいように利用している罪悪感に嫌気が差す。


「行くぞ」


 いろんな感情は飲み込んで話を戻した。

 アヤは俺が開けた扉の隙間から外に出ると宙に上り、周辺を観察する。

 合図が出たので静かに外に出た。

 星明りのおかげで夜でも移動に困難はない。砂利道は音を消しようがないので石畳の上を行く。逃亡者としては道の端とか影を行きたいけど、異世界の夜は静寂が支配していた。ほんの少しの物音で居場所が発覚してしまう。

 先行するアヤが巡回の隙間を狙って誘導してくれるので思い切る。


 無言で歩き続けること体感で三十分ほど。

 アヤが物陰に入り込んだところで止まった。僅かに遅れて合流するとアヤが肩に乗ってきた。

 声を潜めて話しかける。これ以上ないぐらいの距離なのは好都合だった。


「どうした」

「あちらを」


 小さな手が指し示す方に視線を送る。

 百メートルぐらいだろうか。広場のようなスペースの奥に門があった。高い城壁の僅かなスペースを頸木のように繋ぐ門扉と見えるだけでも十人以上の守衛。

 門は門でも城門。防衛拠点。

 篝火に照らされた威容はとてもではないが個人で立ち向かえる代物ではない。

 ここにきて行き止まりとは。


「他に道は?」

「四方の門にも同様の警備が」


 つまりどこでも一緒なのか。


「城壁を超えるのは?」

「定期的に巡回がありますので」


 縄を使おうがフリークライミングだろうが途中で発見されると。

 手詰まり。あと少しだというのに。


「ヤタを使いましょう」


 アヤの提案でなんとなく察した。

 小さく『ヤタ』と呟くと左手に手の平サイズの鏡が生じた。

 アメノムラクモの剣ときたらヤタの鏡にヤサカニの勾玉だろう。


「どう使うんだ?」

「ヤタは特殊なスキルを使えます」


 マジックアイテムという認識でいいのか?

 だが、転移のような方法はないという話だったはずだ。


「具体的には特殊スキル付与。ナノデバイス操作・スキル再現・全ステータスブーストです。今回はナノデバイス操作を使いましょう」


 いや、そんなこと言われても。

 俺のパソコンのスキルはせいぜいワードのブラインドタッチとネットの巡回ぐらいだぞ。パソコンの自作もプログラムの構築も無理。

 ナノデバイスなんて原理も理解できないような装置使えるわけがない。


「実際の操作は私が。ご主人様はイメージしてください」

「イメージねえ。具体的にどうするか」


 ナノデバイスを使って城門を攻め落とす?


(勘弁してくれ)


 人殺しなんて御免だ。この世界の法律も価値基準も知らないが、因縁もなく殺人に手を染めてたまるか。

 それに仲間を殺されれば今まで以上に彼らは俺を追ってくるだろう。当面はこの世界で生きるのだからおいそれと敵対者を作るべきではない。公的機関ならなおさらだ。


「煙幕は可能か?」

「はい。一分ほどなら」

「さっきステータスブーストとか言ったな」

「十秒ほどのステータス倍加能力です」


 ステータスとか言ったよ。自分の能力を数値化できるのか?

 あ、疑問に思っていたら頭の中にイメージがわいてくる。



カンダソウタ

レベル1

HP100 SP50

神具SSS

力5 速さ8 体力7 知性10 器用さ4


 RPGみたいだ。というか初期ステータスとしてこれがいいのか悪いのか。というか神具のランク基準はわからないがSSSとかチートだろ。

 果たしてこのステータスを倍加したところで役に立つのか疑問だった。

 煙幕を張った混乱の隙を突くには心もとない。


「門の外の兵はどれだけいる?」

「お待ちを」


 アヤが遠回りしてから上空に上って偵察してくる。


「五名でした」

「内から逃さないための布陣か」


 この体勢は俺を想定している。

 なら、突破は困難だろう。


「アヤ、こういうのは可能か?」

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