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3、異世界

3、異世界


 妖精さんからこの世界について聞いた話をまとめてみる。

 あ、興味がない人はここからしばらく読み飛ばしてください。




 世界は機製樹木という存在が支配しているらしい。


 量子コンピューターと運営管理ナノデバイス――デウス・エクス・マキナによって生み出された惑星環境管理装置。要するにナノデバイスで樹木と同化して半機械化した植物群。

 当初は樹木の浄化能力を強化して惑星環境を正常値に戻そうという試みだったが、人類による汚染は浄化を上回っていたため失敗。結果、人類こそが環境管理の障害であると認定し、人類文明を攻撃し始める。これを第一次人樹大戦という。ここ、テストに出ますよ。


 人類の兵器に対して機製樹木は他生物の機械化を実行支配。圧倒的な物量で進軍。半世紀に及ぶ両者の争いは陸地の95%を機製樹木が覆うという結果に終わる。

 人類の一部は巨大船団を設立。海上に避難。機械と植物の特性上、海上での活動は困難なため機製樹木から逃げられた。


 ごく一部の機製樹木――神木が人類の保護を実行。世界で十ヶ所のみ存在する聖域の発生。以降は神木対樹海の争いとなる。これを第二次人樹大戦という。ここも要チェックや。

 双方ともに環境の悪化だけは避けたいためルールが設定。樹海内で法則化する。


 樹海は直接的な人類殲滅の優先順位を下げ、機械化胞子による人類の支配に方針転換。

 神木が胞子を防ぐが、冬季による活動低下時に僅かずつ胞子の侵入を許してしまう。以降、生まれてくる子供は機製樹木の要素を含み始める。

 樹海の打破にはデウス・エクス・マキナへの到達による命令破棄が必須。

 樹海はいくつかのブロックごとに親木と呼ばれる管理端末が存在する。親木を倒し、神木の枝を接ぎ木することで支配地を聖域として奪還できる。


 人類が胞子の汚染で支配される前に聖域を広げ、デウス・エクス・マキナに到達しなくてはならない。

 ここは日の出の国の首都。




 以上、こちらの世界の歴史でした。


 要するに暴走した機械植物を止めるために親玉を倒せという話だ。

 完全に異世界だ。ファンタジーだ。

 そりゃあ物理現象なんて凌駕するわけだよ。だって、法則が違うじゃん。


「で、どうやったらこれ取れるの?」

「一般的な神具と違い神器は個人特定武装です。外せません」


 ふざけんな。やっぱり呪いのアイテムじゃねーか。

 頭を抱えたいのを我慢して話を進める。


「で、お前は神器の妖精だっけ?」

「はい」

「他にも強い神具には妖精がつくと」

「はい」

「つまり神具の意思みたいなもんだ」

「その認識で問題ありません」


 中二設定かよ。高校生を巻き込むな。妄想は心の内に秘めて腐らせとけ。

 できれば夢だと思いたいのだが、どうにもこうにも実感する感覚が現実を受け入れろと告げている。

 何の因果か、俺は異世界に来てしまったらしい。

 呪いのアイテムは厄介以外の何物でもないが情報を得られたのは僥倖だ。


「お前、あー、名前は?」

「神具であればその銘が名前となります」

「三つあるんだが、お前はどれなんだ?」

「全てです。神器は三つでひとつの存在ですので」


 名前はない、と。どこの吾輩な猫だ。


「適当に頭から一字とれば」

「では、アヤ、と」

「で、アヤ。お前は俺がどうしてここにいるか知っているのか?」


 本題に切り込む。

 俺の目的は異世界を救うことでも冒険することでもない。元の世界に還ることだ。

 付き合う義理はない。


「知りません」

「……本当に?」

「私がご主人様の所有物になったのは先刻のこと。それ以前のご主人様についてはわかりかねます」


 それは、そうか。

 というか『ご主人様』とか『所有物』っていうのは心臓に悪いな。まあ、道具なんだからおかしなことではないのだが。


「ですが」

「あ?」

「デウス・エクス・マキナであればご主人様のことも何か調べられるかもしれません」


 惑星を救うための管理コンピューター。

 確かにそんな機械なら世界中のことを把握していても不思議ではないか。

 で、お前は俺に世界を救えというのか。


「だが断る」

「その台詞はお好きなのですか?」


 ネタが通じないのはつらい。

 なるほど。異なる文明文化が触れ合った時に起こる交流の一形態が戦争という。

 よろしいならば戦争だ。通じないから言わないけど。


「この世界に魔法とかはあるのか?」

「ありません。高度なナノデバイス操作や機製樹木からナノデバイスの主導権を奪う技法が似ていますが、似て非なるものです」

「十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない、か。そういうのに頼るのも無理なのな」

「デウス・エクス・マキナであっても時空間跳躍などは不可能かと」


 ファンタジーさんまじ使えねえっすわ。


「まあ、色々とわかった。少なくとも俺はすぐに戻れないわけだ」

「私はご主人様がどこから来られたかわかりませんが、おそらく」


 帰れない。

 正直、帰らなければならない理由も希薄だったりするのだが、得体のしれない世界に居座るよりはずっといい。

 帰れるなら帰りたい。

 深々と溜息をつくと同時に腹の虫が鳴った。かなり、盛大に。ぶちこわしだ。


「………」

「空腹であれば食事をとられるべきかと」


 いや、そうなのだが。

 考えてみれば半日以上は何も食べてないし飲んでいない。


「食べ物、か」


 食事をしたければ飲食店に行くか、食材をそろえて料理するしかないのだが。どちらにしても金がいる。或いは物々交換。

 着の身着のままどころか全裸で放置されていたこの身は無一文。

 働かざる者食うべからず。至言だった。


「店屋とかはあるのか?」

「あります」

「どうやって利用する?」

「貨幣をお使いください。日の出の国では1銭、100銭、1札、10札という硬貨と紙幣が普及しております」


 微妙に地球の日本の文化に近い。

 俺がこの世界にいるのもそこらへんに理由があるのかもしれない。

 とにかく、言葉が通じるのはでかいし、文化に共通点があるのも助かる。


「ちなみに、金を稼ぐのはどうやって?」

「元手があるなら商売。なければ商家に弟子入り。日雇いの労働もありますが時期によって募集は増減があります」

「……即金になりそうなものは?」

「樹海内で敵を倒すのがよいかと」


 RPGかよ。魔物が金持ってんのか。

 不信の目を向けるとアヤは続けてくる。


「魔物が金銭そのものを持っていることは稀です。ですが魔物を倒すと何者の支配下にないナノデバイスが残ります。これを神社に奉納することで礼金が支払われます。支配するナノデバイスが増えるほど神木は力を増しますので」


 そういう仕組みなのな。

 てか、本当に魔物がいるのな。

 くそう。アヤの奴が俺を戦いに誘導しているとしか思えないんだが。

 しかし、帰れないならこの世界で生存するための生活基盤を確立する必要がある。

 異邦人である自分はあらゆる知識が不足している。多くの人物と接触のある商売や労働は避けるべきだろう。どこで露呈するか知れたものではない。

 その点、魔物狩りならソロでも大丈夫。

 試してみるか。

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