9、協会
9、協会
戦士の協会は聖域に本部を置き、支配地と最前線に支部が設置されていた。
聖域は昨日の騒動があり長居したくなかったので不思議がるミナモを説得して前線の支配地に移動した。
移動は馬車だった。
安馬車はダイレクトに振動が伝わってくるので尻が痛い。
恐ろしいことに移動には五時間もかかるらしい。渋滞のない道を馬車が進む光景は面白かったがいかんせん長すぎ。すぐに飽きた。
その間に色々と教えてもらう。
まず地理。簡易な地図を見せてもらって驚いた。
この国の形は多少の違いはあるものの日本列島とおなじだった。
日の出の国の聖域は俺の世界でいう東京都の辺り。
聖域を囲むように六つの支配地が広がり、神奈川、埼玉、千葉、茨城、栃木、群馬の順に一番から6番支配地と割り振られている。
聖域の宮殿には天皇がおり、各支配地は大将が守っているのだとか。
俺たちが向かったのは一番支配地――神奈川の西端。
次にレベル。
個人のレベルは目安に過ぎないらしい。どれほどの敵にどれだけの攻撃、或いは防御を行ったのかが経験値として累算されて一定値を過ぎるとレベルアップ。
だから経験値1の敵を百回相手にした者と経験値100の敵を一回相手にしたものの得る経験値は同数になる。場数を取るか質を取るかは別としてそれらが同レベルとは言えまい。
なので目安。組を作る時や依頼の難易度を示す数値。実戦派の戦士たちはあまり気にしないという。
RPG経験者としては悔しい。まあ、はぐれな金属を何万匹と狩っただけの人間が大魔王を倒すのは無理があるから反論はできない。
他にもナノデバイス操作は神術と呼ばれて神官や巫女にしか使えないとか。
どんな魔物と戦ったとか。大規模の依頼の話とか。
情報を集めている内に長いと思っていた旅程が終った。
馬車が二階建ての建物の前に停まる。
同乗者たちに続いて降りるとそこが協会の建物だという。協会のある場所は最前線に近い位置だから同時に中心地にもなるのだろう。
思い返してみれば二十名ばかりいた同乗者も武装した戦士やそんな戦士を相手にする商人らしき人たちばかりだった。
石造りの建物に入る。
読み書きが怪しい俺は手続きをミナモに任せた。
その判断は正解だった。横から書類を覗いてみる。書かれている文章はなんとなく意味は読み取れるが,微妙に俺の知らない文字や字体が混じっていた。
ミナモと仲間になってよかったと実感する。現金なものだ。
組の手続きのついでに俺の戦士としての登録も頼んだ。借りばかり増えていく。国債ってこんな感じに増えていくのだろうか。
半刻ほど待たされて渡された鉄のネームプレートには名前と八桁のナンバーが刻まれていた。
妖精持ちの神具はかなり珍しがられたが、深い事情は詮索されなかった。ミナモもそうだったがこれが戦士たちの流儀なのだろう。
過去は顧みない。今と未来だけが彼らの興味の対象。前向きなことだ。
生活の糧ためのみに選んだ俺の方が珍しいのか。
命を懸けて樹海を切り開くなどそうでもないとできないのだろう。生きるだけなら術は他にいくらでもある。
だが、俺には他に術がない。
経歴がない。
縁がない。
知識も経験もない。
この身ひとつだけが俺の全て。




