ふたり6
「え、なになに?なんかついてる?」
「いや、何でもない」
ぼーっと君を見つめている。『ふたり』の不満が脳内で駆け巡っている。
君の顔を鮮明に見たくても、何か違うものを見ているよう。
騒がしくて、冷静で。醜くて、綺麗な。
なんだっけ…。
「じゃあまたあとでね、涼くん」
「う、うん」
『僕は遠のく君の背中をじっと見つめている。何か変なものがついているのだろうか。いや、特に何も着いてはいない。なら僕は一体何故君の後ろ姿を見ているのだろう。まあ、深い意味もなく置かれた視線は僕も知らない』
「なあ、ふたり…。本当に少しで良いから、静かにしてくれよ」
『ん、嫌だ』
キーンコーンカーンコーン!
…。
『頭の中で繰り返されていたチャイムは今更何時限目の事かもわからない。ただ、目を瞑ったままゆっくりと時間が過ぎていくのを感じている。
誰にも気づかれない僕は、いつしか居なくなってしまっても気付かれないのかも知れない』
何も考えたくはない。鳴り響く言葉を理解してしまっても、納得したいなんてことも思わない。
ただゆっくりと時間が過ぎるのを待っていれば良い。何も知らないまま、空白のままでいい。
「おい起きろ!」
「いだぁっ!」
「おいおい!崩れるから机を動かすな!」
「えー、今のは痛そう…涼くん大丈夫?」
頭に硬い響きが走った。突然の事態に俺の身体は脊髄反射。机に伏せた身体は飛び上がっている。
そして、辺りが憂鬱でありながら安堵できる空間だと言う事を理解した。
「あんたいつまで寝てんのよ!怠け者すぎない?」
「ゔぅ、教科書の角で頭殴るとか昭和かよ吉田。また寝ちゃってたよ。うわー、また夜寝れなくなる」
『目の前には夕陽が入る憂鬱な教室。そんな教室には僕含めた四人だけ。進藤優、一ノ瀬怜奈、吉田綾音。そして僕だ。憂鬱からの不安に駆られる前に、3人の顔を見れば少しは落ち着いたのか、頭に来た衝撃を吉田綾音からの攻撃だと理解し、くだらない会話を始めている』
俺の机一つに群がってスマホを静かにいじる君。トランプカードでタワーを作る進藤。俺の頭を教科書で殴った吉田。いつまで経っても寝ていた俺。
個性の強い四人組と言えば聞こえは良いけど、それよりもだ。
どうしていつも寝てしまうんだ。
まあ、それは疲れているせいだ。
夜は眠れないし、頭の中は常にうるさいし。
『なんか、イラつくな。腹立ってきた。
ドンっ。僕は机の脚を小突いた。』
「があー!トランプタワーがあ!崩壊したあ!!この!誰だあ!今!机揺らした奴!後2枚で完成だったじゃねーか!」
「進藤、惜しい。ドンマイ」
「うわーざんねん。優くん惜しかったねー」
「優、早くトランプ片付けろよなー。怠け者も起きたし、あたしは帰るぞー」
『張り詰めた空気も呆気なく崩れ、瞬間に気だるい空気に襲われた僕らは帰りの支度をしている。
いち早く廊下へ出た吉田綾音。進藤優は悔しそうに散らばったトランプカードをかき集め、ケースにしまい、ズボンのポケットに入れたかと思えば、吉田綾音に飛び付くよう廊下を出ていった。
それで、お前は何をしている。一ノ瀬怜奈』
「あれ、一ノ瀬さん?置いてかれちゃうよ?」
「んー、待ってるから早くー」
「あ、ありがとう」
俺がゆっくりと支度をしている間、二人はとっくに廊下へとでていっている。なのに、君はまだスマホをいじりながら椅子に座っている。
君の優しい一面が見れただけでラッキーな日だ。
『張り詰めた空気が戻ってくる。憂鬱に近くなる気持ち。めんどくさい。慌てた僕は待たせるのも悪いと思い、急いで鞄に教科書を詰める。
そして勢い良く席を立った』




