ふたり3
『朝、僕は目が覚める』
「…」
『朝、僕は目を覚ます』
「ゔぁ…」
『朝!僕は目を覚ましたぁ!!!』
「う、うるせえー!」
『カーテンの隙間から入り込んだ光の感覚は、僕の顔を覆う様に鬱陶しい。そして、目覚ましの音はうるさくもなく、穏やかに僕を起き上がらせてくれた』
「うるせえって言ってんだろ、毎日毎日俺の睡眠削るようなことしてさ、身体があることはな、いいことだらけって事じゃないんだよ、お前は辛さを知らないんだよ!」
俺は嫌いだ、この体質。
人とは違うこの体質を特別に思っているわけでもなく、将又、この体質を言い訳にして世間から逃れたいわけじゃない。ただ本当に、この体質から逃れたいだけ。
『機嫌の悪い僕は身体を起こして、高校の制服へと着替える。そして、洗面台へと向かう。その途中に昨日の出来事を頭の中で考えていたけれど、寝起きのせいなのか、まだはっきりとは浮かび上がってはこなかった』
指示する様なナレーション。この言葉に従うのは嫌いだ。でも、何となくその言葉通りに動いていた方が、お互いにとって都合がいい。
『顔を洗い、歯を磨く。いつもと同じ支度を済ませれば、リビングへと向かうだけ』
「母さんおはよう」
「いつも早いわねー、おはよう」
「まあね、目覚ましがうるさくて」
「え?いつも目覚ましなんてしてないのに?珍しいわね」
「いや、なんでもないよ」
リビングに入ると、朝から忙しそうな母親は朝食の支度をしていた。
母親とすれ違いな会話をして、俺は朝から『ふたり』と言う存在の無駄さを痛感してる。
信じてもらえない体質で、証明もできない体質。
もし、俺と同じ様な体質を他の人が持っていたのなら、その人とは仲良く慣れそうだ。しかし、お互いが俺の様に自分の体質を隠していたなら、一生一人きりだ。
『リビングの椅子に座って、母親が作る朝食を黙って待つ。僕ってどうしてここまで母親に甘えているんだろうか、手伝いの一つや二つでもできると言うのに』
「母さん、俺がちっちゃい頃に言ってたこと覚えてる?」
「えー?なんか言ってたっけ?」
『突然だ。何を思ったのかなんてわからないけど、僕はそんなことを聞きたくなった』
「もう一人の声がするって、言ってたやつなんだけどさ…」
「あー、確か小学生くらいの頃よねー」
『朝食の準備をしながら、僕の話に合わせる母親、僕は続ける』
「そうそう!俺、実はさ…」
「あの時はびっくりしたのよ?涼が変な病気持ってるんじゃないのかって。お父さんも凄い心配してたわねー」
「…あー、確かに心配された記憶ある、懐かしいな」
『僕は本当を言おうとした。だけど両親に気を遣ってしまう。だから、そんなことはやっぱり言えない。でも、そこには情けなさも、苦しさもなくて、言っても意味がないと言う悲しさが滲む様に感じられるだけだ』
俺は、やっぱり病気なのだろうか。
こんなこと現実的にはありえないし、良く考えてみたら、病気以外の何者でもないのではないか?そうなれば一度、精神科に行って診てもらったりすれば原因がわかるんじゃないだろうか。
「なあ、お前はどうなりたいんだ?」
「えー?なんか言った?」
『僕は僕が何処かに行ってしまいたいなんて思わない、だけど、お前といるのが苦しいのは確かだし、もし僕がこの世で生きていたら、僕はお前なんかと会っていないし、会いたいなんてことも思わないかな。それだけは確か』
「いや、なんでもない。学校行ってくる」
「はーい、いってらっしゃい……え!ご飯は!?」
「いらないや」
「はい!じゃあお弁当、しっかり食べてね」
『母親からいつもの様に、それも当たり前に弁当を受け取る。苦し紛れにも、逃れるようにリビングから出る。そして玄関、学校で定められた白靴を履いて外に出る』
「あっつ、夏だな」
『「暑い」って感覚を誰とも共有できないのに、僕は一人呟いて道を歩き始める。そして今日も憂鬱な学校へと歩いて向かうのだ』
「あー、はいはい。そうしますよ」




