9話
「君、一人かい?可愛いね。良かったら一緒に飲まないかい?」
「いえ、私は成人前なのでお酒は結構です」
「では、一曲踊っていただけませんか?」
『どうしよう…一曲くらい踊っても…』
「私の連れに何か用ですか?」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえてくる。先程まで穏やかだった心が嵐が来た海のように荒れ狂う。
「マリー待たせたね。飲み物を取ってきたよ」
『マ、マリー!?ヤバい腰に来た!立ってられない…あっ』
「おっと、危ない。全くマリーはそそっかしいな」
『もう無理…気絶してもいいですかーー!』
「ドラグン侯爵様のお連れの方でしたか。失礼しました」男性はそそくさ居なくなった。
「大丈夫だったか?」
「だめです」
「怪我したのか?」
「重症です!こっち見ないでください」
そのまま、馬車置き場までスカートを膝まで捲りあげ全力で走った。『駄目、駄目、無理…好きすぎて苦しい…』
馬車に乗り込むと寮へと急いだ。
◆◆◆
「今日は楽しかったね。ローズ嬢と沢山話が出来たよ。アルフリードはどうだった?」
「全く楽しくありませんでした。」
「ははっ、所でマリー嬢は何故ホールを走っていたんだい?」
「私にも分かりません。教えてほしいくらいだ…」
「ほう…」
「所で、令嬢達のドレスの色は… あ、いえ、なんでもありません。お忘れください」
「もう一息って所だね」
「何がもう一息なのですか?」
「いや、こっちの話さ。アルフリードには関係の無いことだ」
「はいっ、では帰りましょう」
『頑張ってくれよ。マリー嬢』
◆◆◆
「マリー昨日は何で走ってたわけ?私ビックリしてグラスを落としてしまったのよ!」
「ごめんなさい」
「謝るのではなく、理由を言いなさいな」
「うっ、今は言えない」
「では、落ち着いたらちゃんと説明してね。これでも心配しているのよ?」
「そうですよ。マリー。とても心配しています」
「ありがとう、オゼットぉー、ローズぅー」
今にも泣きそうなマリーを見てそれ以上何も聞かず、黙ってそばにいてくれた。
「そういえば、もうすぐテストの時期ですわね。次は負けませんわよローズ」
「あら?お手柔らかに」
2人はメラメラと闘志を燃やしている。
この学園には半年に一度大きなテストが有り、成績が落ちると容赦なく下のクラスに落とされる。逆に成績が上がれば上のクラス行ける可能性があるということだ。
「2人の成績って…」
「あら?知らないの?アンソニーが首席って事は知ってるわよね?二位がローズで三位がわたくしなのよ。まさか、アンソニー以外に負けるとは思っていなかったからショックが大きかったわ」
「ふふっ勉強は得意なんです」
「って事は、ヤバいのは私だけ!!」
「まあ、そうなりますわね」
「マリーなら大丈夫よ!勉強には覚えるコツがあるんです。なんなら、私と勉強しませんか?」
「ローズ様~」
「決まりね!もうすぐ、連休があるじゃない?うちの別荘で勉強会しましょう!」
「それは勿論女子だけよね?」
「ギクッ!も、勿論よ。マリー根に持つわね」
『だって、リード様がいたら勉強に集中なんて出来ないわよ…只でさえ、今もその調子なんだから…』
◆◆◆
「ねぇ、何でジョルズ様が居るわけ?」
「ごめんなさい。だってジョルズも勉強一緒にしたいって言ってたから、つい…ね?」
「つい…じゃないでしょ!まさか!アンソニー様には!」
「言ってないわよ!ねぇ、許して?最近お父様がジョルズと2人で会うのを許してくれないのよ…」
「仕方ないな…」
「ありがとう、マリー!」
オゼットは嬉しそうにジョルズの隣に座り、勉強を始める。ジョルズにはオゼットがマリーにはローズが教えることになった。
「ここはこうやって…」
「違います!ここはこうです。」
「こう?」
「違います!こうです」
「こうかな?」
「ちがーう!!こうです!!」
「こうね?」
「正解。次」
『こわっ、ローズは勉強を教えると性格が変わるタイプね。もう少し真面目にやろーっと』
◆◆◆
「はぁはぁはぁ」
「では、休憩にしましょう」
『ローズ、恐るべし。午後はオゼットと交換してくれないかな~って無理か…』向こうはただイチャついてるようにしか見えないもん。勉強はしているようだけど…
「始めますよ!」
「は、はいっ」
みっちり1日勉強させられた。ローズ恐ろしい子…
これが後、2日続くと思うと…マリーは軽く食事を済ませると誰よりも早くベッドにはいるのであった。
◆◆◆
『ついにやりきったわ。長かった3日間。ローズは厳しいけど教え方も上手だから、これならなんとかなりそうだ』
「では、また明日ね」
オゼットに寮まで送って貰い、ローズと各自部屋へ戻る。
「マリー、毎日コツコツと勉強してね。マリーとクラスが離れるなんて考えられない…」
「私も!ローズとオゼットと同じクラスがいい」
『そうだよ!忘れるなマリー。イベントの事を!そしてリード様の事を!アンソニーと離れたらリード様を遠くから観察することが出来なくなってしまう…そんなの嫌だ!』
マリーはこの後、テストが終わるまでひたすら勉強をするのであった。
◆◆◆
「やったわ!やり遂げたのよ!」
「もう、すぐ大きな声出すんだから。で、どうだったの?クラスで10番!凄いじゃないの」
「頑張りましたね」
「ありがとう、2人とも~ 所で2人はどうだったの?」
「全く同じですわ…」
「えっ?」
「また、わたくしが負けたの!あーっ悔しい。次こそは負けませんわ」
「私もです」
また半年先の事なのに2人はもう闘志を燃やしている。
『ああ、聞くんじゃなかった…』
後悔しても後の祭りとはよく言ったもんだ…