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駐在さんの自己処理

 橋本夫妻のレガシィアウトバックがカーブの向こうに消えた後、公一と良江は駐在所で一日の報告と、事務連絡をPCに打ち込む。

 今日の勤務時間の5時半が来た事を、公一の腕のグランドセイコーが示していた。

 良江と一緒に感謝に戻る。蒼白になっていた顔はいつもの公一の顔に戻っていた。


 夕食と入浴。いつもなら取り留めの会話をして、楽しい時間を過ごす時間。

 今日はいつも話をリードする良江の表情が硬い。

「今日の公ちゃんは変だよ...」

 良江の一言で公一の表情が変わった。しかし覚悟を決めたように話し始める。

「私が小学生のころ、うちは経済的に恵まれてなかった。それはイジメの対象になったんだ。中学になりイジメはエスカレートした。ひどい目にあったよ。そのいじめグループの中に今日の橋本先生の姉がいた。今日は顔を見た時、その姉の面影を見た気がして驚いたよ。本籍の住所は正にその姉、愛美の家だったから間違いなく親族だと思った。そして夫人の名前が字は違うがマナミ。死んだはずの愛美が蘇って来たのかと思ってしまった。」

 公一がそこまで話すと、

「それだけで、あんなにも取り乱してしまったの?公ちゃん程の人が」

 と良江が聞く。

「あの5人が消えた話は情報が見事に消されていた。皆、地方の名士の子息でその親たちにとって致命的なスキャンダルだったんだろう、子供たちの存在すら消し去るように情報規制がされ、事件直後は誰もこの話をする者もいなかった。いなくなった男子二人が仕切っていた柔道部に私が入れたのもこの頃、必死に努力して、体も作った。それから先は多分君が知ってる私だと思う」

 良江は黙って公一の話を聞いている。続けて公一は、

「実はあの5人が消えた日、私は体調不良で休んでいた。母が仕事に行った後も布団の中で、ウトウトしてたよ。そして夢なのか、現実なのか分からない悪夢を見たんだ。拾った拳銃をもって奴らのたまり場に行って、飲酒・喫煙・ドラッグ・大麻、そして狂って性交しているのを撃ち殺す。しかし一番凶暴な奴に銃をとられ、撃たれそうになったが、何故か拳銃が爆発して撃った奴が死ぬんだ。私は必死にうちに逃げ帰って布団に潜り込む。目が覚めたら夕方で、お袋が晩御飯を用意して、緊急呼び出しで学校に行くところだったよ。詳細情報がどこからも出ないから奴らがどうして消えたのかは謎だったよ。大人でも逮捕案件になるさっきの行為を、まだ中学生の子供がやるとは考えにくいし、私がそのころハードボイルドの小説に、のめり込んでたから、そんな夢を見たのかとも思ったんだ」

 ため息をついて、公一は続ける

「あの悪夢を見た日以降、私は自分を俯瞰から見ているような感覚を覚えるようになったんだよ。柔道の試合も射撃大会も、そして銃を乱射する犯人と対峙した時も。でも今日、愛美が目の前にいる幻覚が見えた時、私は中学1年生の弱い私に戻ってたんだ。震えが来て、吐き気がして、脂汗が出たよ。」

 良江は黙って公一の話を聞いている。公一は続けて、

「今も夢なのか本当なのか分からなくなる事があるんだ。刑事時代に事件の詳細を洗いなおそうとした事もあったけど、案件がないのは勿論亡くなった筈の中学生の名前すら出てこない。警察の正規の記録もないんだ。噂は高校に入ったころに聞いたよ。多分君が遠く離れた地元で噂を聞いたのもこの頃だと思う。前に聞かれた時、返答できなかった。」

公一は頭を抱えた。ガタガタと震えだす。

 良江は、公一の白くなるほど強く握った拳を上から握り、

「立件されていない以上、法的に罪に問われることは無いよ。もしかしたら、その子たちの死に公ちゃんが関わっていた可能性は有るのかも知れない。でも、事実をもみ消した大人たちが一番の罪びとで、そんな犯罪を犯す子供を育てた親が悪い。公ちゃんがやったのなら人としての罪は一生消えないし、それを背負っていかないといけないけど、今まで警察官として沢山の人の命を救い貢献して来たじゃない。それが今ここにいる公ちゃんの姿だよ。」

 良江の言葉は公一の震えを止めたが、彼の目からは涙があふれた。

「つらい話を私に正直にしてくれたんだから、これからは私もあなたの妻として一緒にその罪を背負うよ。公ちゃんがやった事ならね...」

 と言った。公一は良江を抱きしめた。良江の目からも涙が流れた。


 それから十数年の時がながれ、この駐在所で定年を迎えた。最後の階級は警部補。良江の実家がある街で、彼女の両親と姉夫婦との老後生活を楽しんでいる。


 週に3日間、公一は自動車工場の守衛を務め、シニアで柔道も続けていた。良江は女子の剣道を教えに母校の中学校に通っている。

 中古の住宅を買い、豆しばの雄と一緒に住宅街を散歩するのが日課になっている。

 そして二人で、かつての勤務地の山間部や離島に、トヨタアイシスから買い替えたトヨタカローラ・ツーリングで、愛犬と共に出かけ、四季の景色と味覚を楽しんでいる。


 二人で苦しみを背負いながら...


これで”お姉ちゃんが消えた夏”完結です。同時に”駐在さんの当たらない拳銃”も完全に終了になります。

長くてややこしい話にお付き合いいただきありがとうございました。

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