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診療所の窓から

この作品は”駐在さんの当たらない拳銃”のスピンオフです。

 釣瓶落としとはよく言ったもので、山間の町の秋の夕暮れは早い。


 私は橋本総一郎、35歳になる。この診療所の副院長である。

 本日最後の患者が診察室から処置室に移り、腕時計を見る。

 腕に馴染んでいる、ロレックス・オイスターパーペチュアルは、ハイビートになる前の骨董品でデイト表示の拡大レンズが無いので、中々ロレックスとは気づいてもらえない。

 5時の診察終了時間まで後15分を切った。


 秋分の日の連休明けの今日は、この田舎の診療所も沢山の患者で賑わい、この時間になって一息つけた。 

 年配の看護師と若い看護師が片付けを始める。

 若い方は私が勤務医時代に知り合い、結婚した真奈美、同い年で、この診療所の院長の母が体調を崩し休みがちになったのを機に、勤めていた総合病院を一緒に退職し、私が幼少期から住んでいた、この町に引っ越して来たのだ。

 年配の方は婦長の山本さん、私と母がここに越してくるする前からこの診療所に勤めている。


 窓の外にはかつてあった3階建の立派な病院の名残の土台と、現在のこじんまりとした、平屋の診療所には似合わない広い駐車場が見える。


 鉱山のあったこの町は昭和40年代には沢山の人々が生活し、活気にあふれ鉱山会社が経営する、当時の立派な病院を始め、商店街や飲食店、小さなデパートまでがあったらしい。


 鉱山会社が撤退して、病院の経営が近隣の市に移管されて、この小さな診療所に建て替わった。私たちは職員として、ここに勤めている。


 鉱山が廃坑になってからは人口が激減し、町も寂れてこの地域の産業は、山頂にある寺院と穴場的な小さい温泉の湯治場による観光、林業と農業を生業にする人々と、麓の町の工場や会社に勤めるその家族がが暮らすが、若者の人口流出が止まらず高齢化が進んでいる。


「お疲れ様でした、後はよろしくお願いします。」

   山本さんと、これも古株の薬剤師兼、受付の水田さんに声をかけて。私と真奈美は診療所を出た。

 一番近い調剤薬局まで車で30分くらいかかるので、痛み止めや風邪薬、外用薬の湿布や軟膏などは病院で管理しているのだ。


 私の身長は175cmを少し出たくらい、少し腹が出てきて後頭部が薄くなってきた。

 緩やかにウェーブのかかったショートヘアの真奈美は150cmくらいで、可愛い感じの美人。白衣を脱ぐと20代に間違われる事もあった。


 診療所の隣、古い病院の土台の横に職員住宅が2件並んでおり、片方に母が、もう片方に私達夫婦が住んでいる。

 夕飯の買い物に行くため、自分の黄色いスバルプレオに乗った真奈美が出かけるのを見送り、私は母の家に入った。

「ただいま」と言う私にベットに腰かけてテレビのニュースを見ていた療養中の母、郁美は

「おかえり、お疲れ様。」と返事を返した。


 今日来た患者の話をしながら、母の容態を尋ねる。

 大病院の一人娘として育ち、頭脳明晰で美人女医としてプライドの高さが目立ち、若いころは少し棘がありキツイ雰囲気だった彼女は、70代になり長年の苦労からか、雰囲気も丸くなり優しいお婆ちゃん先生として、この町の年寄りと子供達に愛される存在になっていた。


 しばらくして、真奈美が帰ってきて、母の家で3人での夕食。早くに両親と死別していた真奈美は郁美になつき、郁美も真奈美を”マナちゃん”と呼び、自分の娘のように可愛がっている。


 真奈美の腕には少し前のモデルの、オメガ・コンステレーションのレディースモデルが巻かれており、これは郁美からのプレゼントだった。


 他愛のない話を暫くしたのち、私と真奈美は母の家から隣の自分たちの家に帰って寝る用意を始めた。


 不思議なことに郁美は孫の顔を見たがらず、真奈美も無理に子供を欲しがらなかった。別に性交渉が無かったわけではなく、人並みには営んでいたが・・・。


 その夜は昼間の仕事が多忙だったためもあり、二人ともベットに入って明かりを落とすと、すぐに寝落ちする。





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