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龍華の英雄〜亜人戦記と弓を握りし臆病な少年〜  作者: オルレアンの人
最終章『龍華の英雄』

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83.どんな僧侶になりたい?


 私が6歳の頃、お母さんは龍鱗の長城で亜人の襲撃によって殺された。

 僧侶だったのに負傷兵を救うために前に出て、歩廊の上で治癒をしていたところに魔道機人マギカロイドの攻撃で。

 

「翠鳳。お前は将来何になりたいんだ?」


 それから誕生日を迎えるたびに、お父さんは私にしつこくそう聞いてくる。

 けど私の夢は、意識した時から変わらない。


「僧侶になりたい!」


 15歳。

 私は父の反対を押し切り、国子魔法学監こくしまほうがっかんへ入学した。

 入学試験は魔力量の検査のみだったので特に苦労とかはなく、私の学校生活は始まった。


 そして、入学して1ヶ月。

 30人もいた同期の内半数が、回復魔法の適性無しと見做され退学処分を受ける中、私は問題なく過ごせていた。

 それどころか、僧侶の資格を得るための大前提である回復魔法...<ヒール>を、先輩僧侶のお手本を一度見て習得。

 結果、私は一年生のうちに最低卒業資格を取得した。


 天才現るとしばらく学校内で注目の的になり、少しだけ恥ずかしくも嬉しい気持ちを味わう。

 まぁ学力試験は赤点しか取れてないけど。


「ねぇねぇ翠鳳さん!!どうやったら<ヒール>使えるの?」

「私たちどれだけ頑張っても....まだ初級聖魔法の<ライト>しかできなくて.....」


 最初の頃は楽しかった。

 みんなが話しかけてくれたし、私を頼ってくれて。

 だから私は真面目になるべく分かりやすく教えた。


「結構簡単ですよ!こう...頭の中で光をパァァァって広げたら癒したい傷に向かってドバァァァって光を注入する感じで!」


 けど、私の説明で実際に<ヒール>を使える様になった人はいなかった。

 

「翠鳳さん....わざと私たちに分かりにくく教えて、自分だけ<ヒール>を使えるままにして目立っていたいんじゃないの?」

「そもそも何で赤点しか取らないあの子が誰よりも先に<ヒール>を習得したのかしら....」

「私たちのこと、<ヒール>が使えないって見下してそう....」


 (違う、本当にそんなつもりじゃない.....私はできる限り分かりやすく教えようと.....)

 

 気付けば昼食を一緒に食べてくれる人はいなくなり、話しかけてくれる人もいなくなり。

 いつの間にか私は....1人になっていた。

 そんな気はなかったのに私が馬鹿で、説明が下手だったせいで。


 ある日の授業。

 <ヒール>を使える私は、特別に2年の先輩方に混ざり軍の駐屯地に来ていた。

 実際に傷を負った兵士を癒す、1週間の実務授業だ。

 最初は緊張したけど、授業自体は特に問題なく終わった。


 自由時間。

 私は暇だったので、許可された範囲で駐屯地内を探索する。

 そしてしばらく歩き中庭に出ると、そこに1人の兵士がいた。


 (兵士の方々は休憩時間中のはずなのに、なんで訓練してるんだろう?)


 男の兵士は黙々と剣を振り続けている。

 不思議に思った私はバレないよう少しだけ男の人に近づき見つめていると、男の人の手から血が流れていることに気付いた。


「うわっ!!?血出てますよ!!」


 思わず私は声を出し、急いで男の元へ駆け寄る。

 すると男はすぐにこちらを振り向いた。

 誰だこいつ....そんな顔を浮かべて。


「大丈夫ですか!すぐに治しますから!」


 私は男の人の手を取り。


「<ヒール>」


 癒しの光で傷を包み、そして治した。

 男は治った手を見つめた後、私へ視線を向け直す。

 

「お前、魔法学監の生徒か。なんで駐屯地にいるんだ」

「実務授業で来てるんです」


 すると男は小さく「そうか」とだけ呟いた。


「貴方こそ今休憩時間中ですよね?何で休まず訓練してるんですか?」

「俺には休んでる暇はない」


 そう言うと男は私の手を振り解き、再び剣を握る。

 そして何事もなかったかのように素振りを再開した。


「見せてもらいましたけど、だいぶ酷い傷でしたよ。昨日今日でできた傷じゃなかったです。なんでここに駐屯している僧侶の方に治してもらわなかったんですか?」

「傷を癒してる時間も惜しい。『強龍』さんに認めてもらうためにも、俺は強くならなくちゃならない....」


 私の方は見ず真っ直ぐに正面を見据え、剣を振りながら男は答える。


 (無愛想な人だな.....)


 私はそう思いながらも不思議と、その横顔から目が離せなかった。


 次の日。

 同じ時間に中庭に向かうと、男はやっぱりいた。

 今日は剣を握っておらず、腕立て伏せなどの筋力強化の訓練をしており傷は見当たらない。

 けど私はまた男の人に声をかけ、すぐ近くでその様子を見続けた。


 次の日も、また次の日も。

 気付けば1週間の実務授業最終日。

 今日も私は、男の剣の素振りを近くで見続けていた。

 少しだけ傷を負っていたので<ヒール>で回復済み。


 そして見守り続け20分。

 男は疲れたのか素振りを止め、私の座る長椅子に座ってきた。


「.....毎日毎日、何でここにくるんだお前」

「え?さぁ、私もよくわかんないです。なんとなく貴方を見守ってたいなって」

「.....そうか」


 そう言うと男は、突然悲しそうな表情を浮かべた。

 また無意識に失礼な事を言ってしまったのだろうか.....私は一瞬そう焦るも、男はすぐにまた無愛想な表情に戻る。


「今日で終わりなんだろ」

「え?」

「実務授業」

「あ、そうです。ですから明日からは怪我をしたらすぐにここの僧侶の方に言ってくださいね!傷が悪化すれば<ヒール>でも完全に癒すのは難しくなるんですから!」

「俺には時間がないんだ。治してくれたことには感謝するがいちいち治してもらうほどの怪我じゃないだろ」

「もう!」


 私は思わず頬を膨らませた。

 何で私、この人の事こんなに心配してるんだろ?

 出会ってまだ1週間、そんな親しい仲でもなければ名前も知らな.....あ。


「あの、お名前なんていうんですか?聞いてませんでしたよね多分」


 男は少しだけ考えるような顔をした。


「....そういや言ってなかったか。孫覇だ」

「孫覇さん!私は翠鳳と言います!何で孫覇さんはそんなに必死に特訓してるんですか?」

「....倒したい奴がいる」


 重い言葉を孫覇さんは吐いた。

 よほど恨みがあるのか、顔色も凄くどんよりと暗くなっている.......ような気がする。


「倒したい奴ですか....」

「けど俺には才能がない。どれだけ鍛錬を積んでも奴はおろか、あの女にも勝てる気がしない。だから『強龍』さんに弟子入りしたいんだ」


 孫覇さんが握る拳に力が込められている。

 少し震えているところから結構な力を。


「そのためにも最低限の、今の自分ができる範囲で強くなり続けなきゃならない」


 暗いなぁ....もっと明るい話がしたいのに。

 

「そうなんですか....」


 私は少し考えた後、別の話題を振る。


「孫覇さんは将来、どんな兵士になりたいんですか?」

「フォルネストを殺せるくらい強い兵士だ」


 フォルネスト....どこかで聞いた事ある気がする.....けどまぁ気のせいか。

 きっと同僚の兵士さんですね、変わった名前ですけど。

 にしても殺すなんて穏やかじゃないな....家族の悪口でも言われたのかな?

 

「そういうお前はどんな僧侶を目指してるんだ」


 孫覇さんがこっちを見て、私に質問を返してきた。

 どんな僧侶になりたいか.....。

 思えばそんな事、一度も考えたことなかったな....。

 お母さんが僧侶だったから、何となく私も僧侶になりたい。

 そんな考えで僧侶になろうとしているだけで、特に目標とかは無い。


「私は.....」


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