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夕食を終えると、もうすでに外は暗くなっていた。さて。こっからが俺の訓練の時間だ。ダグが訓練していた裏庭に出る。今日は月明かりがあるので見づらいってことはない。これなら問題ないな。
剣は今日は散々振ったからな。ここのところあまりできていない『穴掘り』だ。今までも村に泊まるときは集中的に使ってたんだが、この間の野営でジーナから面白い案を貰ったからな。
水の流れを良くするために底にほんの少し角度をつける、か。
最初はただ使うため。色んな場面で使えるように大きさを変えて。形を変えて。位置を変えて。
便利になるように考えて工夫もした。浅く、広く、細長く、深く。今なら、土の圧縮方向を変えるどころか、掘った土を横に除けることもできる。
でも、あいつの視点は違った。今までの工夫は自分のためだけだと言われた気がした。確かに、今までは自分のために掘っていたのだから当然だけど、掘った穴を活用する立場で考えたことはなかった。もっと早く聞きたかったと思う。約半年、借金返済のために村などを回って堀や水路を作ったときに知ってりゃ、もっと使いやすい物ができただろうに。
ま、今は後悔するよりも、もっと色々とできるようになることに時間を使うべきだな。まずは……ジーナに言われた底の角度付けか。穴自体は斜めに掘れるし、横の壁を斜めにすることもできる。だから、底だけ斜めは問題なくできるだろうけどっと。
『穴掘り』……平ら……かな?やべっ。角度を付けられたかどうかわかるもんがねぇわ。いくら丸っこくても石って訳にゃいかないし……一回中に戻るか。
居間を見渡して見つけた丸い棒の端っこを切り取り、整えて再度裏庭へ。穴の中へ転がしてみても、特に角度がついているようには思えない。……次は、もっと浅く作るか。今のまんまじゃ見づれぇ。
数十回ほど浅めに作ったけれど、いつもの通りの平らな底だった。まあ、そう簡単に新しいことができようにはならんな。自分の実力ってのは俺も自覚してる。ただ、このまま訓練していても、今日明日にできるようになりそうもないな。
……ふむ。そうだ!まずは、大きく角度をつけよう。その方が簡単に違いない。
『穴掘り』
今度は、一発で成功。いくら浅めに作ったとはいえ、宵闇の中でさえはっきりとわかるくらいには斜めってる。水路にするには明らかに失敗だが、平らなだけの底じゃないってことで、自分としては大成功だ。一度できればこちら物。この感覚を忘れないようにして、少しずつ角度を変えていけばいい。
そこからさらに練習すること数十回。なんとか角度をある程度、そうある程度抑えることができるようになった。まだまだ実用には遠いが、まあ、一日の成果としては申し分ない。
倒れるまで魔術を使うのはもう止めた。あれは、無理無茶無謀な学生のうちだからしでかしていたことで、体調を崩すし旅の途中でやるようなことじゃない。何があるかわからないからある程度の余力を常に用意しておくべきだって言われてるんだ。
予定じゃ明日は堀を広く、深くしてお終い。その間にダグは村の衆に稽古をつけ、ジーナは魔術を使って村の整備をお手伝い。明後日は近くの川から水路を引く。もちろん、傾斜がつけられればそうするんだが、もしダメでも、土の圧縮方向を左右に向けることで崩れにくくしつつ、底は水の流れで自然に削れるのを待つんだとか。そんで、気になる場所は人手で整えてから、引き込み口と放出口を開けるとのこと。
確かに、俺の魔術次第でちょっと手間が減らせるんだな。
よーし。やる気が出てきたぞ!……って、今日の分はお終いだがな。
今に戻ると、ダグはすでに寝ており、ジーナだけが起きていた。何か書き物をしていたみたいだ。香ばしい匂いに鼻が反応する。と、それに感づいた彼女は、笑顔で薬缶を指さした。中を見るとふんわりと香りが強く湧き出してきた。薬草茶らしい。
「おや、特訓は終わりかい?
そろそろ夜は寒くなる。お茶でも飲んでから寝ると良い」
「悪いな、助かる。
飲んだことないやつだけど、良い匂いだな。どんな味なんだ?」
「ん?苦いぞ」
「……そんなの勧めるなよ」
「魔力の自然回復を助ける効果があるのさ。ま、ポーションを作るときには新鮮じゃないと意味がないんだがね。乾燥させると効果は低いが、手軽に持ち運べる」
「飲んだだけで少しは効果があるのか。
苦くなきゃ喰うやつもいるだろうな」
「ははっ。効果を得るには量が……いや、お茶にして飲むだけで効果があるのだから、味を工夫してある程度食べられれば十分に検討する価値が……いや、収穫量が問題か」
「……急にどうした?」
「いやなに。新しい村の特産品にできないかと思ってね。もちろん、食べるための畑が優先だが、領民の生活のためには、換金性の高い作物も考えないと……んんっ。
すまん」
「本当に、急にどうした?」
「私は、気になるとそればかりに集中する気があってね。ほら、今だってそうだろ?
よく落ち着けって怒られるんだ」
「そうか。ま、そういう性格だってわかってりゃ問題ないだろ」
「……ありがとう。
それはそうと、『穴掘り』はよく見るけれど、練魔をしているところは見てないんだけどきちんとやっているのかい?」
「練魔?聞いたことはあるが……ああ、威力向上の練習か。してねぇよ。そんなことしなくたって、『穴掘り』は誰にも負けねぇ」
自信をもって断言した。
『穴掘り』を唱えた回数は、誰にも負けねぇ。そもそも、そんなに魔力を使う魔術じゃないから今まで練習以外で困ったことはないし、練魔して魔力量や威力にわずかな上乗せをするくらいなら、その分の時間と魔力を他の魔術練習に当てたかったってのもある。
だから、その存在自体を忘れていた。
俺の回答に、ジーナは渋い顔をしている。何かまずかったんだろうか?
「もったいない。本当にもったいない」
「何がだ?別に困ってないぞ?今のところ自然回復分で充分だ」
「魔力が満タンの場合、自然回復分がどうなっているか知っているかい?」
「体表から少しずつ出ていくんだろ?『索敵』とかの魔術ではその自然排出分を検知するんだよな」
「そうだ。つまり、使われずに消えていくということさ。
でも、練魔することでそれを抑えられる。練魔すれば、体内魔力の質が向上するし、高品質の魔力であれば同じ魔術でも使用する魔力量が減り威力が増える。良いことづくめだ。
せっかくの魔力を無駄にすることはない」
「あーつまり、旅の移動途中とか、魔術をあまり使わないときに練魔すると良いってことか?」
「何言ってるんだい?それじゃ大した練習にならないよ。
無意識で、寝ながらでもできるようにするんだよ。訓練の基本だよ、基本」
「お前は何を言ってるんだ」




