2-7
訓練に対する考え方はイカレていたが、ジーナの教え方はわかりやすかった。どっちの意味でもさすが魔術師だ。それにしても、過度の修練で弱くなっていたダグと言い、常識外れの訓練を基本とするジーナと言い、強いやつはどこかおかしい。
ただまあ、ジーナの言いたいこともわかる。指摘されれば、無駄になっている魔力の自然回復分はもったいないことは理解できる。どうにかして有効に活用するなら、たとえ寝ていても練魔ができれば良いってのも。
ベッドに寝っ転がりながら練魔を試す。まず、自分の中の魔力を感じる。その魔力をできる限りどこか一か所に集めていく。ふわふわの土を固めるイメージだ。そうすると魔力が薄くなった場所ができ、自然回復分の魔力がそこに充填される。その繰り返しだ。
最初のうちは上手に固めることができなくて、通常以上に体外に漏れる。つまりは、魔力を消費するらしい。だから修練が必要となる。ま、なんでもそうだな。
「理屈はわかった……が、難しいな」
「当然だろう。普通なら、学院で三年かけてなんとかモノにするものだからね。
これができるのとできないのでは、魔術師としての格にかかわるくらい重要なんだよ」
「……そういやぁ必死になって練習してたやつとかいた気がするが……」
「はぁ~。まあ、君の事情もわかってるから良いけどね。もう少し周りをきちんと見た方が良いよ。
それはともかく、そろそろ寝た方が良い。明日も早くから作業があるからね。寝る前に練魔することを勧めるけど、無理はしないこと。
それじゃあ、お休み」
「わかってるよ。魔力枯渇を繰り返すと命にかかわるからな」
魔力が枯渇すると、虚脱状態になる。まあ、大抵気絶するだけなんだが、常識的に考えて、そんな何度も何度も気絶することが体に良いわきゃない。過去には、繰り返し倒れて死んでしまった魔術師もいたと伝わっている。だから、今の学院では禁止しているし、自分の魔力量の限界を把握することは必須事項だ。
昔は魔術師になりたくて、一学年上にいきたくて無茶したが、今はそんなことする理由はない。もっと魔術が上手くなるってのは魅力的だが、命を賭ける理由にはならんよ。地道に『穴掘り』を工夫していけば、問題なく生活できるし、そうすれば自分次第でもっと強くなれるだろう。
とは言っても、魅力的なことは魅力的。
ベッドに横になりつつ、練魔を試してはみるものの、固めようとする端からどんどん拡散していく。まるで水を入れた皿をかき混ぜている気分だ。手ごたえがない。ふわふわとした、形のない物を相手にしている感触だ。
噂に聞くスライムってのはこんな奴かもな。プルプルとしていて、剣でいくら切ってもほとんどダメージを与えられず、運よく核を斬れば倒せる。物理攻撃なら潰すような一撃の方がまだ有効。上位種になるとほとんど効かないらしいが、弱点は魔術。ほとんどの攻撃魔術は剣よりもダメージがあるし、属性によっては溶けたり固まったり……そうか!魔術か!
練魔は魔術の一つ。そう考えれば、使える魔術で、自分にとって相性の良い方法で固めるイメージを……ってダメじゃん!俺の使える魔術は『穴掘り』。固めたいのに穴掘ってどうすんだよ。あぁもう。やめだやめ。
魔力が枯渇に近くなってきたのでふて寝。
「なんだかすっきりした顔をしているね。もしかして、練魔が成功したのかな?」
「そんなわきゃねぇだろうが。まったくできなかったよ。早めに寝たんで、十分に睡眠がとれたんだろ。
ジーナは練魔をどうやってできるようになったんだ?」
「できなかったか……そうか。残念だな。
私は……最初からできたからな。コツと言われても困る」
「けっ。
優秀な奴は違うね」
「……優秀ではないけどね。たまたまだよ、たまたま。
そう言えば、学院で他の人の話を聞いているけれど、雲とか綿をイメージしている人が多かったかな。それと、得意魔術を応用する人は習得が早かった。
例えば、氷が作れるなら水を固めてとか、炎を収束して火炎玉にとか。それを体内魔力を固めるときに使うんだ」
「聞いてるだけで上手くいきそうだが俺にゃ無理だな。穴を掘るしかできない」
「えっ?何を言ってるんだい!そういった応用は君ならできるだろ?
穴を掘るときに不要な土を出すやり方と、周りに押し出して壁を強く固めることができるんだろ?」
「ああ。今なら両方できる……そうか!押し固めるか!」
「そうさ。掘ることじゃなくて、押し固めるイメージでやれば簡単にできるんじゃないかな?直接掘るんじゃなく、周りを掘ることで全体から中に押し固めていく……」
「……ジーナ。お前頭良いな……いや、考え方が柔らかいな」
「君が固すぎるんだよ。君の魔術はもっともーっと応用が利くはずさ」
良い笑顔で断言されたが、何がそんなにジーナの信頼を得てるんだろうか。ダグのような強さもなく、ジーナのような手数も応用力もない。俺にあるのは『穴掘り』だけ。
もちろん、自分を卑下するつもりはない。生活魔術ですら十人に一人、まともな魔術を使えるのは百人に一人いるかどうか。及第点の魔術師なんて千人に一人だろう。だから、今の俺でも生活に十分すぎるほどの金が稼げているし、強くなるための訓練にも時間を使えるんだ。
……ただまあ、何度もジーナに言われてるってのもあるが、自分自身、『穴掘り』に特化したからか、考え方が『穴掘り』に引きずられている気がしないでもない。もっと、頭を柔らかくした方が良いんだろうな。
底を斜めにするだけで用途が広がる。
そう考えれば、もっともっと、今まで思いもしなかった使い方があるだろうし、一つの魔術しかなかった俺が輝ける場面も増えるだろう。考えろ!見ろ!知れ!感じろ……って感じるだけじゃダメだ!ジーナはなんて言ってた?……そうだ!どうにかして『穴掘り』でできないか、どこか『穴掘り』に通じるところはないかを考えれば良いんだ。
練魔で考えれば、『穴掘り』の際にできる穴の壁。通常の地面よりも圧縮された土の壁は、水を通さず、硬い。ふんわりした土に比べると十分の一以下になる。ならば、俺の魔力だって同じくらいには固められるはずだ。
じゃあ早速……と思ったが、ジーナに止められた。今日の仕事がある。堀の拡張と大まかな水路の作成だ。魔力は十分に足りるだろうけど、何があるかわからんからな。




