第39話 自作した理由
「シローお兄ちゃん、さばいばるまっちいっぱいできたねー」
「そうだねー。ちょっと作りすぎちゃったかもねー」
いま俺とアイナちゃんの目の前には、自作サバイバルマッチが山と積まれている。
空き箱を数えてみれば、なんと40本入りのマッチ箱が13個も空いていた。
つまり、520本ものサバイバルマッチを作ったことになる。
「……ちょっとがんばりすぎちゃったかな? アイナちゃん大丈夫?」
手首をくるくる回してほぐしつつ、隣にいるアイナちゃんに訊いてみると、
「んと……アイナもちょっとつかれちゃったかな?」
そう言い、俺にぽすんと頭を預けてきた。
最近のアイナちゃんは、前より少しだけ甘えてくるようになった。
その理由がなんなのかは分からないけれど、信頼されている証拠だと思うと嬉しいよね。
「朝から疲れさせちゃってごめんね」
「ううん。アイナへーきだよ」
「そっか。でも無理しないでね」
「うん」
アイナちゃんが頷き、視線を自作サバイバルマッチに移す。
最初は火が付きにくかったりロウを厚くしすぎちゃったりと失敗もあった。
けれど作り続けていくうちにだんだんとコツを掴み、商品として販売できるレベルにまでクオリティを高めたつもりだ。
「シローお兄ちゃん、なんできゅうにアイナにさばいばるまっちつくらせてくれたの?」
アイナちゃんが俺にもたれかかったまま訊いてくる。
ごめんねアイナちゃん。
実は俺もサバイバル作ったのはじめてなんだ。
「んとね、町外れにお年寄りが住んでるでしょ?」
「うん」
「若い人は建設の仕事を貰えるけど、体力の無いお年寄りはそうはいかないよね?」
「……うん」
町外れに住むアイナちゃんだからこそ、俺よりも現状を理解しているんだろう。
一瞬だけ悲しい顔をする。
「だから俺はさ、仕事がないお年寄りにサバイバルマッチを作ってもらって、おカネを稼いでもらおうと考えたんだよね」
「え?」
驚いた顔をするアイナちゃん。
そんなアイナちゃんに向かって、俺は頬をぽりぽり。
「いま作ったサバイバルマッチなら、お年寄りでも作れると思わない?」
「っ!? 思う! だってアイナでも簡単につくれたもんっ。おじーちゃんおばーちゃんでもつくれるよ!」
アイナちゃんががばっと体を起こし、俺を見あげる。
興奮しているからか、その頬は赤い。
「でしょ?」
「うん!」
両手を握りしめ、うんうんと頷くアイナちゃん。
「じゃあ、アイナちゃんはお年寄りにサバイバルマッチの作り方を教える先生ね」
「うん! アイナ先生やる!」
アイナちゃんがハイと手をあげる。
「ありがとう。あとは販売価格をどうするかだよな……」
俺は腕を組み、ふむむと考えを巡らす。
マッチ販売価格は、現状こんな感じだ。
40本入りのマッチ小が銅貨4枚。
800本入りのマッチ大が銅貨55枚。
25本入りのサバイバルマッチが銅貨50枚。
町の住民にはマッチ大が人気で、冒険者からはサバイバルマッチが人気だ。
既製品のサバイバルマッチが冒険者たちに人気なのは、水に濡れようが風が吹いてようが火がつくところだろう。
しかし、25本で銅貨50枚(5000円)というのは、稼ぎの少ない冒険者にはなかなか手を出しにくい金額でもあるらしい。
そこで自作サバイバルマッチの出番だ。
既製品のサバイバルマッチほど質は良くないし風にも弱いけれど、水に濡れても火はつく。
きっと冒険者たちも、この性能なら安心して使えるに違いない。
あとは自作サバイバルマッチの価格をどうするか、だ。
普通のマッチよりは高く、既製品のサバイバルマッチよりは安い中間の価格を設定しなくてはならない。
「んー……。80本で銅貨50枚ってとこかな?」
原価はマッチがマッチ代が46円。ロウソク代とマニキュア代がそれぞれ110円。合計266円だ。
材料費を引いた利益は4734円。
ここから製作費として、町外れのお年寄りにいくら支払うかだけど……うん。
そのへんはカレンさんと相談してみるか。
「シローお兄ちゃん、アイナ先生いつからやるの?」
「カレンさんに相談してOKが出たらすぐやろうか。今日の営業が終わったら相談してみるよ」
「うん!」
アイナちゃんがとびきりの笑顔を浮かべる。
そんなタイミングで、
――トントン。
店の扉をノックする音が聞こえた。
おっといけない。サバイバルマッチ作りに没頭しすぎて、店を開けるのを忘れていたや。
「アイナちゃん、マッチ作りで疲れてたら今日は休んでもいいよ?」
「ううん。アイナちゃんとはたらくよ」
アイナちゃんは首を振り、椅子から立ち上がる。
「シローお兄ちゃん、お店あけてくるね」
「うん。お願いします」
アイナちゃんがたたたと駆けていき、店の扉にかけてある札をくるっとひっくり返して『営業中』にする。
店の外でオープン待ちしていた冒険者たちを、
「いらっしゃいませー」
アイナちゃんが扉を開けてお出迎え。
本日の営業スタート。一日の始まりだ。